成人初のレスキュー薬「スピジア®」が変える発作対応【後編】
てんかん重積は"時間との闘い"
前編では,てんかん重積状態の病態と時間的制約,救急搬送の現実,既存レスキュー薬の課題,そして患者・家族が直面してきた現実を整理した。本記事は,2026年1月29日に開催されたヴィアトリス製薬/アキュリスファーマ主催メディアセミナーの内容,および関連資料に基づいている。後編では,2025年12月に発売されたスピジア®点鼻液(一般名:ジアゼパム)の臨床データを詳しく紹介するとともに,薬局での服薬指導に必要な情報を整理する。さらに,てんかん発作への早期介入を目指す新たな治療概念「FAST」についても紹介する。
スピジア®点鼻液の製品概要
基本情報
スピジア®点鼻液は,米国Neurelis社が開発したジアゼパムの経鼻投与製剤である(表1)。日本ではアキュリスファーマが開発・製造販売を担い,ヴィアトリス製薬が販売情報提供活動を行う。米国では2020年1月にValtoco®として承認されており,日本での承認は2025年6月24日,発売は同年12月24日である。
本剤は,国内初の経鼻投与型抗けいれん薬であり,成人のてんかん重積状態に対して医療機関外で使用可能な初めてのレスキュー薬として位置づけられる。
表1 スピジア®点鼻液 基本情報
| 販売名 | スピジア®点鼻液5mg/7.5mg/10mg |
| 有効成分 | ジアゼパム |
| 効能・効果 | てんかん重積状態 |
| 用法・用量 | 成人および2歳以上の小児に,5〜20mgを1回鼻腔内投与。効果不十分な場合は4時間以上あけて2回目投与可 |
| 規制区分 | 処方箋医薬品,第三種向精神薬 |
| 製造販売元 | アキュリスファーマ株式会社 |
〔アキュリスファーマ株式会社:スピジア点鼻液. 添付文書(2025年12月改訂 第2版より〕
年齢による使用制限
スピジア®点鼻液は,医療機関外(自宅,学校,外出先など)で使用可能な製剤であり,適応も2歳以上となっている。ただし,2〜6歳未満の患児については,「医師の監視下(救急蘇生のための医療機器・薬剤が使用可能な環境)でのみ投与」という使用環境に制限がある。この制限は,低年齢児における呼吸抑制リスクへの配慮に基づくものであり,今後,使用実績の蓄積に伴い,6歳未満の院外使用についても検討される可能性がある。
薬物動態の特徴
1) 高いバイオアベイラビリティ
スピジア®点鼻液の最大の特徴は,経鼻投与という投与経路を活かした高いバイオアベイラビリティ(絶対的バイオアベイラビリティ:97%)である1)。
2) 脳への直接的な移行経路の存在
経鼻投与されたジアゼパムは,鼻粘膜から嗅神経・三叉神経を介して脳脊髄液(CSF)へ直接移行する直接経路と,鼻粘膜の血管から全身循環を経て脳へ移行,または咽頭に流入した薬液が消化管から吸収される間接経路が考えられている。特に直接経路は,血液脳関門を介さず,速やかな効果発現に寄与する有利な特徴といえる。
3) 製剤の工夫
スピジア®点鼻液には,可溶化剤としてトコフェロール,吸収促進剤としてドデシルマルトシドが配合されている。これらにより,傍細胞経路および経細胞経路による経粘膜輸送が促進され,高いバイオアベイラビリティが実現されている。
4) 消失半減期
ジアゼパムの消失半減期(t1/2)は49.2時間と長く2),単回投与後も発作抑制効果が長時間維持されることが期待される。
国内第3相臨床試験の結果
試験デザイン
スピジア®点鼻液の国内承認は,日本人小児患者を対象とした第Ⅲ相多施設共同非盲検試験の結果に基づいている3)。
対象は,てんかんと診断され,平均して6カ月に1回以上ベンゾジアゼピンによる治療が必要と判断された6歳以上18歳未満の患者で,表2のいずれかに該当することが条件とされた。また,試験は「治療対象となる発作発現後,本剤を単回投与し有効性・安全性を評価(n=16)」したPart1と「初回発作発現1週間後から24週間,発作発現時に本剤を投与し有効性・安全性を評価(n=14,91投与機会)」したPart2の2部構成で実施された。
表2 対象患者の条件
・5分以上持続するけいれん発作の既往
・てんかん重積状態に移行する恐れのあるけいれん発作の既往
・てんかん重積状態の既往
〔アキュリスファーマ株式会社:スピジア点鼻液. インタビューフォーム(2025年12月改訂 第3版)より〕
主要評価項目
主要評価項目は「本剤単回投与後10分以内にけいれん発作が消失し,かつ投与後30分間発作が認められなかった患者の割合(奏効率)」であり,Part 1は初回投与,Part 2は繰り返し投与として評価された。
Part 1の奏効率は62.5%〔95%信頼区間(95%CI):35.4〜84.8〕であった。これは,事前に設定された有効性の閾値(30%)を上回っており,本剤は有効と判定された。また,Part 2の奏効率は80.2%(91投与機会中73機会で奏効)であった。
発作消失までの時間
ジアゼパム坐剤では効果発現に5〜10分を要するとされるが,スピジア®点鼻液では投与から発作消失までの時間が中央値1.0〜1.5分であり,速効性が示されている(表3)。
表3 スピジア®点鼻液の効果発現に要する時間
| 中央値 | 95%CI | |
|---|---|---|
| Part 1(n=16) | 1.5分 | 1.0〜7.0 |
| Part 2(n=14,91機会) | 1.0分 | 1.0〜2.0 |
〔アキュリスファーマ株式会社,他:てんかんファクトブック. 報道用資料, 2026より〕
10分以内の発作消失率
投与後10分以内にけいれん発作が消失した割合は,Part 1で93.8%(16例中15例),Part 2で98.9%(91機会中90機会)であった。
発作再発の抑制
単回投与後,一定時間発作が認められなかった割合も評価された。Part 2では,24時間後においても67%の投与機会で発作の再発が認められなかった(表4)。
表4 発作後の発作再発抑制率
| 評価時点 | Part 1 | Part 2 |
|---|---|---|
| 10分後 | 81% | 87% |
| 30分後 | 63% | 80% |
| 1時間後 | 50% | 79% |
| 4時間後 | 50% | 75% |
| 6時間後 | 50% | 74% |
| 12時間後 | 50% | 71% |
| 24時間後 | 44% | 67% |
〔アキュリスファーマ株式会社,他:てんかんファクトブック. 報道用資料, 2026より〕
介護者満足度
介護者を対象とした治療満足度調査では,「十分に満足」「ある程度満足」と回答した割合がPart 1で94%,Part 2で88%に上った。この高い満足度は,投与の簡便さと速やかな効果発現を反映していると考えられる。
安全性プロファイル
有害事象の概要
本試験において,治験薬投与後の有害事象(TEAE)は77.8%(18例中14例)に認められた。ただし,治験薬関連のTEAEはすべて軽症(Grade 1)であり,治験薬関連の重篤な有害事象は認められなかった(表5)。なお,治験薬との因果関係が否定できない有害事象は「傾眠:16.7%(3例)」「意識レベルの低下:5.6%(1例)」「貧血:5.6%(1例)」「口腔咽頭不快感:5.6%(1例)」である。
表5 治験薬投与後の有害事象(TEAE)の発現率
| 項目 | 発現率 |
|---|---|
| 治験薬投与後のTEAE | 77.8%(14/18例) |
| 因果関係を問わない重篤なTEAE | 16.7%(3/18例) |
| 治験薬関連のTEAE | 27.8%(5/18例) |
| 研究中止に至ったTEAE | 0% |
| 死亡 | 0% |
〔アキュリスファーマ株式会社,他:てんかんファクトブック. 報道用資料, 2026より〕
呼吸抑制について
ベンゾジアゼピン系薬剤の重大な副作用として呼吸抑制が知られているが,本試験では呼吸抑制に関連する有害事象は認められなかった。この点は,医療機関外での使用を想定した本剤にとって重要な安全性情報である。
ただし,添付文書には同一有効成分または類薬で報告されている副作用として「依存性」「離脱症状」「刺激興奮,錯乱等」「呼吸抑制」が記載されている。投与後の観察は引き続き重要である。
服薬指導のポイント
処方・調剤上の注意
スピジア®点鼻液は処方箋医薬品であり,第三種向精神薬に指定されている。このため,投薬量は1回14日分が限度となる。自治体によっては処方本数に追加の制限がある場合もあるため,確認が必要である。
体重別投与量
投与量は患者の年齢および体重に基づいて設定される(表6)。
表6 年齢・体重別の投与量
| 投与量 | 用いる製剤 | 投与方法 | 患者の年齢および体重 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 2~6歳未満 | 6~12歳未満 | 12歳以上 | |||
| 5mg | 5mg製剤 | 片方の鼻腔1回 | 6~12kg未満 | 10~19kg未満 | 14~28kg未満 |
| 10mg | 10mg製剤 | 片方の鼻腔1回 | 12~23kg未満 | 19~38kg未満 | 28~51kg未満 |
| 15mg | 7.5mg製剤 | 両方の鼻腔1回ずつ | 23kg以上 | 38~56kg未満 | 51~76kg未満 |
| 20mg | 10mg製剤 | 両方の鼻腔1回ずつ | — | 56kg以上 | 76kg以上 |
※6歳未満の1回量は15mgを超えないこと
〔アキュリスファーマ株式会社,他:てんかんファクトブック. 報道用資料, 2026より〕
投与方法の指導
患者・介護者への説明では,表7に示すポイントを伝える。また,あわせて投与後の対応についても伝えておきたい(表8)。なお,発作が止まった場合の救急搬送については,患者の状態に応じて判断できるが,事前に主治医と対応を確認しておくことが望ましい。
表7 患者・介護者へ伝えるべきポイント
・鼻腔内投与専用であること(他の経路では使用しない)
・1回使い切りの製剤であること(空打ちや再使用は不可)
・15mgまたは20mg投与の場合は,両方の鼻腔に1回ずつ投与すること(1本目投与後,速やかに2本目を投与)
・発作開始直後(1分以内)はけいれんが激しく投与が困難な場合は,2分程度経過し,発作がやや落ち着いた時点での投与も検討する
・保管方法〔室温保存(1〜30℃),冷蔵・冷凍不可,外箱開封後は遮光保存,小児の手の届かない場所に保管(施錠は不要)〕
〔アキュリスファーマ株式会社:スピジア点鼻液. 添付文書(2025年12月改訂 第2版)より〕
表8 投与後の対応
・原則として救急搬送を手配する
・「10分以内に発作が停止しない」「浅表性呼吸や意識消失等が認められる」場合は,必ず救急搬送する
・搬送時は使用済みの製剤を医療従事者に提示する
〔アキュリスファーマ株式会社:スピジア点鼻液. 添付文書(2025年12月改訂 第2版)より〕
相互作用
ジアゼパムは主としてCYP2C19およびCYP3A4で代謝されるため,表9に示す薬剤などでは併用に注意が必要である。また,ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬(フルマゼニル)を投与された患者に本剤を投与する場合,鎮静・抗けいれん作用が遅延する恐れがある。
表9 主な併用禁忌・併用注意薬
| 薬剤 | 備考 |
|---|---|
| リトナビル*,ニルマトレルビル・リトナビル* | CYP阻害により本剤の血中濃度が大幅に上昇 |
| 中枢神経抑制薬(フェノチアジン系薬,バルビツール酸系薬,MAO阻害薬など) | 相互に作用を増強 |
| シメチジン,オメプラゾール | CYP阻害により本剤の血中濃度上昇 |
| リファンピシン | CYP誘導により本剤の血中濃度低下 |
| アルコール | 相互に中枢神経抑制作用を増強 |
*:併用禁忌
〔アキュリスファーマ株式会社:スピジア点鼻液. 添付文書(2025年12月改訂 第2版)より〕
FAST——てんかん発作への新たな治療概念
FASTとは
FAST(First Aid for Seizure Termination)とは,国立精神・神経医療研究センターの中川栄二氏らが提唱した「てんかん重積状態に移行する恐れのある発作に対する迅速な治療介入」を意味する概念である4)。
従来,レスキュー薬の投与対象は「5分以上持続する発作」,すなわち重積状態に至った発作とされてきた。しかしFASTでは,重積状態に至る前の段階〔遷延性の発作(通常より長く続く発作)や群発発作(通常より頻回に繰り返す発作)〕に対しても早期介入を行うことで,重積状態への移行を防ぐことを目指す。
したがって,FASTを実践するためには,「医療機関外で使用可能であること」「投与が簡便であること」「速やかに効果を発揮すること」「安全性が確立されていること」の4条件を満たす治療薬が必要であり,スピジア®点鼻液は,これらの条件を満たす薬剤として,FAST実践のツールとなることが期待されている。
NICEガイドラインの位置づけ
英国国立医療技術評価機構(NICE)のてんかん診療ガイドライン(2022年)5)では,表10のように記載されている。つまり,海外のガイドラインでは,5分を待たずとも「通常より2分以上長い」段階で介入を開始することが推奨されているのである。
表10 てんかん診療ガイドラインにおける対応
・反復または群発発作(通常24時間で3回以上の自然停止する発作)は,医療的緊急事態として対応する
・遷延性のけいれん発作(通常の発作よりも2分超長く続くけいれん発作)は,医療的緊急事態として対応する
・個別の緊急時対応計画がない場合は,ベンゾジアゼピンの投与を検討する
〔National Institute for Health and Care Excellence: Epilepsies in children, young people and adults. NICE guideline NG217, 2022より〕
今後の課題
FASTの普及に向けて,いくつかの課題が残されている。例えば,既存のジアゼパム坐剤やミダゾラム口腔用液は,文部科学省・厚生労働省の通知により,医療資格を持たない学校教員による緊急投与が認められているが,スピジア®点鼻液についても,同様の運用が期待される。また現状では,救急救命士によるスピジア®点鼻液の投与も認められていないため,運用改善に向けエビデンスの構築が待たれるところである。
もう一つ課題として,投与タイミングの明確化が挙げられる。「どのような発作に対して,いつ投与すべきか」という点について,患者・介護者が判断に迷わないよう,主治医との事前の取り決めが重要となる。
薬剤師の役割
てんかん重積状態は「5分」で治療を開始し,「30分」以内に発作を止めることが求められる時間との闘いである。しかし,日本の救急搬送には平均45分以上を要し6),これまで成人には医療機関外で使用できるレスキュー薬がなかった。
スピジア®点鼻液は,この空白を埋める国内初の経鼻投与型抗けいれん薬である。
薬剤師は,てんかん患者およびその家族・介護者に対し,本剤の適正使用を支援する重要な役割を担う。体重別投与量の確認,投与方法の説明,保管条件の指導,投与後の対応に関する情報提供——これらを通じて,患者・家族が「いつ起きるかわからない発作」に備えられるよう支援することが求められる。
てんかん発作への早期介入を目指す「FAST」という概念が広がるなか,スピジア®点鼻液の登場は,てんかん診療における新たな一歩となる。その一歩を支えるのは,現場で患者と向き合う薬剤師の力である。
引用文献
1)Rabinowicz AL, et al: Improvement of Intranasal Drug Delivery with Intravail® Alkylsaccharide Excipient as a Mucosal Absorption Enhancer Aiding in the Treatment of Conditions of the Central Nervous System. Drugs R D, 21: 361-369, 2021
2)アキュリスファーマ株式会社:スピジア点鼻液. 添付文書(2025年12月改訂 第2版)
3)アキュリスファーマ株式会社:スピジア点鼻液. インタビューフォーム(2025年12月改訂 第3版)
4)中川栄二, 他: てんかん重積状態に移行するおそれのある発作に対する迅速治療の提案. てんかん研究, 43: 75-83, 2025
5)National Institute for Health and Care Excellence: Epilepsies in children, young people and adults. NICE guideline NG217, 2022
6)総務省消防庁:令和6年版 救急救助の現況(https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/post-6.html)
参考文献
・日本小児神経学会・監,他: 小児てんかん重積状態・けいれん重積状態 治療ガイドライン2023. 診断と治療社, 2023
・Trinka E, et al: A definition and classification of status epilepticus--Report of the ILAE Task Force on Classification of Status Epilepticus. Epilepsia, 56: 1515-1523, 2015
・Okazaki S, et al: Emergency management of pediatric epileptic seizures in non-hospital settings in Japan. Epilepsy Behav, 158: 109914, 2024
・Okazaki. S, et al: Risk factors affecting quality of life in children with epilepsy and their caregivers: A secondary analysis of a cross-sectional online survey in Japan. Epilepsy Behav, 163: 110227, 2025
・アキュリスファーマ株式会社,他:てんかんファクトブック. 報道用資料, 2026