問207(物理・化学・生物)
解答:3,5
この問題のポイント
本問は,MAO-Bによるドパミンの酸化的脱アミノ反応の機構と,セレギリンがMAO-Bを不可逆的に阻害するメカニズムを化学的に問う問題です。FADの役割,反応の種類(付加反応・置換反応),生成物の構造を正確に理解する必要があります。
MAO-Bによるドパミン代謝の機構
モノアミン酸化酵素(MAO)は,補酵素としてFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)を持つフラビン酵素です。ドパミンなどのモノアミン類を酸化的に脱アミノ化し,対応するアルデヒドとアンモニアに分解します。
<反応の全体像>
ドパミン → イミン中間体 → アルデヒド + NH3
(カテコール骨格は反応を通じて保持されます)
各選択肢の解説
【選択肢1】誤り
「反応①において,FADは還元剤として働く」
<酸化剤・還元剤の判定>
反応①では,ドパミンの窒素原子に結合した水素(水素ア)がFADに移動しています。
・FAD:水素を受け取る → 還元される → 酸化剤として働く
・ドパミン:水素を奪われる → 酸化される
「水素を受け取る側が還元剤」と誤解しやすいですが,自分が還元される=相手を酸化する=酸化剤です。FADは還元剤ではなく酸化剤として働いています。
【選択肢2】誤り
「反応②は,置換反応である」
<付加反応 vs 置換反応>
反応②では,窒素の孤立電子対が炭素を求核攻撃し,新たなN-C結合が形成されています。
・置換反応:脱離基が離れて,別の基が結合する
・付加反応:二重結合等に原子・基が付加する(脱離基なし)
反応②では脱離基が脱離していないため,置換反応ではなく求核付加反応です。
【選択肢3】正しい ✓
「反応③において,カテコール骨格をもつイミンが生成する」
<イミンとは>
イミン(Schiff塩基)は,C=N結合を持つ化合物です。
反応③では,FADH2が解離した後,ドパミン由来のカテコール骨格を持つイミン中間体(C=NH構造)が生成します。この記述は正しいです。
【選択肢4】誤り
「反応④で生成する『代謝物』は,カテコール骨格をもつ第一級アミンである」
反応④は,イミンの加水分解です。イミン(C=NH)が水と反応すると,C=O(アルデヒド)とNH3(アンモニア)に分解されます。
<イミンの加水分解>
R-CH=NH + H2O → R-CHO + NH3
生成する「代謝物」はカテコール骨格を持つアルデヒド(3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒド)であり,第一級アミンではありません。
【選択肢5】正しい ✓
「セレギリンは炭素ウで補酵素と共有結合を形成する」
<セレギリンによる不可逆的阻害の機構>
セレギリンは自殺基質型(mechanism-based)阻害薬です。
①セレギリンがMAO-Bの活性部位に結合
②FADによりセレギリンが酸化される
③酸化されたセレギリンのプロパルギル基(炭素ウの位置)が反応性の高い中間体となる
④この中間体がFADと共有結合を形成
結果として,酵素は不可逆的に失活し,新しいMAO-Bタンパク質が合成されるまで酵素活性は回復しません。
セレギリンの構造において,炭素ウはプロパルギル基(-CH2-C≡CH)のメチレン炭素に相当し,酸化後にFADと共有結合を形成する部位です。
MAO-B阻害薬の分類
<可逆的阻害 vs 不可逆的阻害>
| 不可逆的阻害薬 | セレギリン,ラサギリン |
| 可逆的阻害薬 | サフィナミド |
セレギリンとラサギリンは共にプロパルギル基を持ち,不可逆的阻害薬として作用します。一方,サフィナミドは可逆的阻害薬であり,作用機序が異なります。
参考文献
・日本神経学会・監,他:パーキンソン病診療ガイドライン2018. 医学書院, 2018
・エフピー株式会社:エフピーOD錠,インタビューフォーム(2024年2月改訂,第10版)
・Youdim MB, et al: The therapeutic potential of monoamine oxidase inhibitors. Nat Rev Neurosci. 7: 295-309, 2006
・石井邦雄,他・編:パートナー薬理学 改訂第3版. 南江堂, 2019