J i M a g a z i n e

 問206(実務)

解答:3,4

この問題のポイント

本問は,パーキンソン病患者にMAO-B阻害薬(セレギリン)が追加された場面での服薬指導を問う実践的な問題です。セレギリン特有のチラミン含有食品との相互作用と,ドパミン作動性薬物に共通する精神症状(幻覚)への注意喚起が正解の選択肢となります。

Wearing-off現象とは

パーキンソン病の治療において,レボドパ製剤を長期間使用していると,次第に薬効の持続時間が短縮してくる現象が生じます。これがwearing-off現象(ウェアリング・オフ現象)です。

<Wearing-off現象の発症メカニズム>

パーキンソン病では黒質のドパミン神経が進行性に変性・脱落します。病初期は残存するドパミン神経がレボドパから変換されたドパミンを貯蔵・放出できますが,病気の進行に伴いこの「緩衝能」が低下。血中レボドパ濃度の変動がそのまま脳内ドパミン濃度に反映されるようになり,服用後数時間で効果が切れる(wearing-off)ようになります。

Wearing-off現象への対処法としては,以下のような選択肢があります。

・レボドパの投与回数を増やす(1回量は減量)

MAO-B阻害薬(セレギリン,ラサギリン等)の併用

COMT阻害薬(エンタカポン)の併用

・ドパミンアゴニストの追加・増量

本症例では,MAO-B阻害薬であるセレギリンが追加されています。

セレギリンの薬理作用

セレギリンは,脳内のモノアミン酸化酵素B(MAO-B)を選択的かつ不可逆的に阻害します。

<MAO-B阻害薬の作用機序>

ドパミンはMAO-AとMAO-Bの両方で代謝されますが,脳内にはMAO-Bが豊富に存在します。セレギリンがMAO-Bを阻害することで,シナプス間隙のドパミン分解が抑制され,ドパミンの作用が増強・延長します。これにより,レボドパの効果持続時間が延び,wearing-off現象の改善が期待できます。

各選択肢の解説

【選択肢1】誤り

「レボドパ製剤を1日3錠から1錠へ減量するように医師に提案する」

セレギリンの追加は,レボドパの効果を増強・延長させてwearing-off現象を改善することが目的です。レボドパを減量してしまうと,脳内ドパミン濃度が低下し,症状コントロールが悪化する可能性があります。処方意図と矛盾するため,この提案は不適切です。

【選択肢2】誤り

「アムロジピン錠の中止を医師に提案する」

本症例の血圧は135/80mmHgであり,比較的コントロールされていますが,収縮期血圧は130mmHgを超えており,降圧薬の中止を提案するような状況とはいえません。また,セレギリンとアムロジピンに臨床上問題となる相互作用はなく,高血圧治療を中止する理由はありません。

【選択肢3】正しい ✓

「チーズ,ビール,赤ワインを大量に摂取した場合,血圧上昇を起こす可能性があることを患者家族に説明する」

<チラミン反応(tyramine reaction)>

チーズ,ビール,赤ワイン,発酵食品などにはチラミンが多く含まれます。チラミンは通常,腸管や肝臓のMAO-Aで速やかに分解されますが,MAO阻害薬服用中は分解が抑制され,体内に蓄積します。

蓄積したチラミンは交感神経終末からノルアドレナリンを遊離させ,急激な血圧上昇(高血圧クリーゼ),動悸,頭痛などを引き起こす可能性があります。

セレギリンは選択的MAO-B阻害薬であり,推奨用量(10mg/日)では腸管・肝臓のMAO-Aにほとんど影響しないため,理論的にはチラミン反応は起こりにくいとされています。しかし,推奨用量でもまれにチラミン含有食品による高血圧反応が報告されており,添付文書でも注意喚起されています。なお,20mg/日程度から選択性が低下し始め,30〜40mg/日以上では確実にMAO-B選択性が失われるため,チラミン反応のリスクが高まります。

【選択肢4】正しい ✓

「幻覚があらわれた場合,すぐに病院を受診するように患者家族に説明する」

幻覚(特に幻視)は,ドパミン作動性薬物に共通する重要な副作用です。セレギリンの追加により脳内ドパミン濃度が上昇し,中脳辺縁系のドパミン過剰状態となると,幻覚,妄想,興奮などの精神症状が出現することがあります。

特に高齢者や認知機能低下のある患者ではリスクが高く,症状出現時には薬剤の減量・変更が必要となるため,早期の受診を促す指導は適切です。

【選択肢5】誤り

「wearing-off現象が改善したら,処方3を中止してよいことを患者家族に説明する」

パーキンソン病は進行性の神経変性疾患であり,症状が改善しても薬剤を中止すれば再び悪化します。セレギリンを自己判断で中止することは症状の急激な悪化を招く可能性があり,医師の指示なく中止してよいという説明は不適切です。

服薬指導のポイント

セレギリンが追加された患者さんへの服薬指導では,以下の点を確認・説明しましょう。

■ 食事に関する注意

・チーズ,赤ワイン,ビール,そら豆,レバーなどチラミン含有食品の大量摂取を避ける

・カフェインの過剰摂取にも注意(MAO阻害によりカフェインの作用が増強され,血圧上昇や動悸を起こす可能性がある)

■ 副作用の早期発見

セレギリンの追加によりドパミン作用が増強されるため,以下の症状に注意が必要です。これらの症状がみられた場合は,速やかに受診するよう指導しましょう。

・幻覚,妄想,興奮などの精神症状

・ジスキネジア(不随意運動)の出現・悪化

・起立性低血圧,めまい

■ 服用タイミング

・不眠を避けるため,夕方以降の服用は避ける(通常は朝食後)

参考文献

・日本神経学会・監,他:パーキンソン病診療ガイドライン2018. 医学書院, 2018

・エフピー株式会社:エフピーOD錠,添付文書(2024年2月改訂,第1版)

・オルガノン株式会社:メネシット配合錠,添付文書(2024年2月改訂,第3版)

・堀 正二,他・編:治療薬ハンドブック2025. じほう, 2025