問299(実務)
解答:2,4
この問題のポイント
本問は,ワルファリンからダビガトラン(DOAC)への切り替えにおける実務上の注意点を問う問題です。切り替え時のPT-INR基準,ダビガトラン特有のP-糖タンパク質(P-gp)を介した相互作用,そしてDOACではビタミンK含有食品の制限が不要になることを理解しているかがポイントです。
処方変更の背景を理解する
患者は「薬の量を決めるために検査を繰り返していた」「青汁を飲んでいることを伝えたところ薬を変えることになった」と述べています。これはワルファリン療法における2つの課題を示しています。
<ワルファリン療法の課題>
①用量調節の煩雑さ:PT-INRを定期的にモニタリングし,治療域(通常2.0〜3.0,高齢者では1.6〜2.6)を維持するよう用量調節が必要
②食事・薬物相互作用:ビタミンK含有食品(納豆,青汁,クロレラ,緑黄色野菜の大量摂取)により効果が減弱。多くの薬剤とも相互作用あり
本患者は青汁を習慣的に摂取しており,ワルファリンのコントロールが困難であったため,ビタミンKの影響を受けないダビガトラン(DOAC)への変更が選択されました。
ワルファリンとDOACの比較
| 項目 | ワルファリン | ダビガトラン(DOAC) |
|---|---|---|
| 作用機序 | ビタミンK依存性凝固因子(Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ)の産生阻害 | トロンビン(第Ⅱa因子)の直接阻害 |
| 効果発現 | 12〜24時間(最大効果まで数日) | 0.5〜2時間(速やか) |
| モニタリング | PT-INRの定期測定が必須 | 原則不要 |
| 食事の影響 | ビタミンK含有食品で効果減弱 | 食事による影響なし |
| 主な排泄経路 | 肝代謝(CYP2C9等) | 腎排泄(約80%) |
| 拮抗薬 | ビタミンK | イダルシズマブ(プリズバインド®) |
ダビガトランの特徴と注意点
ダビガトランは直接トロンビン阻害薬であり,経口投与後にプロドラッグから活性体に変換され,トロンビンを可逆的に阻害します。
<ダビガトランの重要な注意点>
①腎機能による用量調節:腎排泄型のため,腎機能低下患者では血中濃度が上昇し出血リスク増大。CCr 30mL/min未満は禁忌
②P-gp阻害薬との相互作用:ダビガトランはP-gpの基質であり,P-gp阻害薬との併用で血中濃度上昇
③カプセルの取扱い:吸湿性があるため,PTPシートから取り出した後は速やかに服用。一包化は不可
<P-gp阻害薬の代表例>
・イトラコナゾール(併用禁忌)
・シクロスポリン,タクロリムス
・アミオダロン,ベラパミル,キニジン
・クラリスロマイシン,エリスロマイシン
・リトナビル等のHIVプロテアーゼ阻害薬
ワルファリンからダビガトランへの切り替え
ワルファリンからダビガトランへ切り替える際には,PT-INRが2.0未満に低下してからダビガトランを開始します。これは両薬剤の抗凝固作用が重複し,出血リスクが増大することを避けるためです。
<切り替えの手順>
①ワルファリンを中止
②PT-INRを測定
③PT-INR<2.0を確認してからダビガトランを開始
※本患者のPT-INRは2.3であり,まだ切り替え基準を満たしていない
各選択肢の解説
【選択肢1】誤り
「ワルファリンカリウム錠の服用を中止し,その翌日よりダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩カプセルを開始するよう患者に説明する」
本患者のPT-INRは2.3であり,切り替え基準(PT-INR<2.0)を満たしていません。この状態でダビガトランを開始すると,両薬剤の抗凝固作用が重複し,出血リスクが著しく高まります。PT-INRが2.0未満に低下するまで待つ必要があり,処方医への疑義照会が必要です。
【選択肢2】正しい ✓
「ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩カプセルを服用し忘れた場合,できるだけ早く1回量を服用し,次の服用まで6時間以上空けるよう指導する」
ダビガトランの添付文書には,「飲み忘れた場合は,同日中であればできるだけ早く1回量を服用し,次の服用まで6時間以上空ける」と記載されています。半減期が約12〜14時間と短いため,服用間隔を適切に保つことが重要です。なお,服用を忘れた場合でも2回分を一度に服用してはいけません。
【選択肢3】誤り
「青汁やほうれん草などの緑黄色野菜の摂取は,控えるように患者に指導する」
ビタミンK含有食品の摂取制限が必要なのはワルファリン服用時です。ダビガトランはビタミンK依存性凝固因子の産生を阻害するのではなく,トロンビンを直接阻害するため,ビタミンKの摂取による影響を受けません。むしろ今回の処方変更の目的は,青汁を飲み続けながら抗凝固療法を行えるようにすることです。
【選択肢4】正しい ✓
「他科や他院でP-糖タンパク質を阻害する薬剤が処方されていないことを確認する」
ダビガトランはP-糖タンパク質(P-gp)の基質です。P-gpは消化管上皮細胞や腎尿細管上皮細胞などに発現し,基質となる薬物を細胞外へ排出するトランスポーターです。P-gp阻害薬との併用により,ダビガトランの消化管吸収が増加し,腎排泄が低下するため,血中濃度が上昇して出血リスクが高まります。特にイトラコナゾールとの併用は禁忌となっています。
服薬指導のポイント
ワルファリンからダビガトランへ切り替わった患者さんへの服薬指導では,以下の点を確認・説明しましょう。
■ 服用方法
・1日2回,朝夕食後に服用(12時間ごとが理想的)
・カプセルは噛まずにそのまま服用
・PTPシートから取り出したら速やかに服用(吸湿性あり)
■ 食事について
・ワルファリンと異なり,納豆や青汁などビタミンK含有食品の制限は不要
■ 注意すべき副作用
・出血症状(鼻血,歯肉出血,皮下出血,血尿,黒色便など)
・消化器症状(胃部不快感,悪心,腹痛)は比較的多い
・異常がみられたら早めに受診するよう指導
■ 他科受診・市販薬使用時
・抗凝固薬を服用していることを必ず伝える
本患者への対応
<薬剤師としてすべきこと>
①PT-INRが2.3と切り替え基準(<2.0)を満たしていないことを確認
②処方医へ疑義照会し,ダビガトラン開始のタイミングを確認
③eGFRが35mL/min/1.73m²と低下しており,腎機能についても確認が望ましい
④P-gp阻害薬の併用がないことを確認(お薬手帳,患者インタビュー)
参考文献
・日本循環器学会,他:2024 年 JCS/JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療, 2024(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/03/JCS2024_Iwasaki.pdf)
・日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社:プラザキサ,添付文書(2025年11月改訂,第5版)
・日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社:プラザキサ適正使用ガイド(2025年9月作成)
・堀 正二,他・編:治療薬ハンドブック2025. じほう, 2025