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 問298(病態・薬物治療)

解答:1,5

この問題のポイント

本問は,非弁膜症性心房細動の治療における2つの柱,すなわち①心拍数の調節(レートコントロール)②血栓塞栓症の予防を理解しているかを問う問題です。処方されている薬剤の作用機序と,心房細動の病態を結びつけて考えることが解答のカギとなります。

心房細動の病態を理解する

心房細動(atrial fibrillation:AF)は,心房が無秩序に興奮する不整脈です。本症例の心電図所見「RR間隔不規則,P波消失,f波出現」は,心房細動に典型的な所見です。

<心房細動の心電図所見>

・P波消失:心房が規則的に収縮しないため,正常なP波が見られない

・f波(細動波):心房の無秩序な興奮による細かい基線の揺れ

・RR間隔不規則:心房からの興奮が不規則に心室に伝わるため,心室の収縮間隔がバラバラになる

本患者の心拍数は160拍/分と頻脈であり,脈拍数(90拍/分)との乖離がみられます。これは心房細動による脈拍欠損(pulse deficit)を示唆しています。

心房細動治療の2本柱

心房細動の治療は大きく2つの戦略に分けられます。

治療戦略 目的 使用薬剤
レートコントロール
(心拍数調節)
心室拍数を適切な範囲(安静時110拍/分未満が目安)に維持する ・β遮断薬(ビソプロロールなど)
・非DHP系Ca拮抗薬(ベラパミル,ジルチアゼム)
・ジギタリス製剤
リズムコントロール
(洞調律維持)
洞調律(正常リズム)を回復・維持する ・Naチャネル遮断薬(Ⅰ群抗不整脈薬)
・Kチャネル遮断薬(アミオダロンなど)
・電気的除細動
抗凝固療法
(血栓塞栓症予防)
心房内血栓形成を予防し,脳塞栓症などを防ぐ ・ワルファリン
・DOAC(ダビガトラン,リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバン)
なぜ脳塞栓症予防が必要なのか

心房細動では心房が有効に収縮しないため,心房内(特に左心耳)で血液がうっ滞し,血栓が形成されやすくなります。この血栓が剥がれて脳動脈を閉塞すると,心原性脳塞栓症を引き起こします。

<心原性脳塞栓症の特徴>

・脳梗塞全体の約20〜30%を占める

・大きな血栓が一度に脳主幹動脈を閉塞するため,重症化しやすい

・心房細動患者の脳卒中リスクは,非心房細動患者の約5倍

抗凝固療法の適応判断にはCHADS₂スコアCHA₂DS₂-VAScスコアが用いられます。本患者は62歳女性で高血圧(140/86mmHg)を有しており,抗凝固療法の適応となります。

<CHADS₂スコア>

C:Congestive heart failure(心不全)…1点

H:Hypertension(高血圧)…1点

A:Age ≧75歳…1点

D:Diabetes mellitus(糖尿病)…1点

S₂:Stroke/TIA(脳卒中/一過性脳虚血発作の既往)…2点

→ 1点以上で抗凝固療法を考慮,2点以上で強く推奨

各選択肢の解説

【選択肢1】正しい ✓

「心拍数の調節(レートコントロール)」

処方2のビソプロロールフマル酸塩は,β₁選択的アドレナリン受容体遮断薬です。心臓のβ₁受容体を遮断することで房室結節の伝導を抑制し,心室に伝わる興奮の頻度を減少させます。これにより心拍数が低下し,レートコントロールが達成されます。

【選択肢2】誤り

「洞調律の維持(リズムコントロール)」

リズムコントロールには,Na⁺チャネル遮断薬(フレカイニド,ピルシカイニド等)やK⁺チャネル遮断薬(アミオダロン等)が用いられます。本処方にはこれらの薬剤は含まれていません。ビソプロロールはあくまで心拍数を調節する薬剤であり,洞調律への復帰・維持を目的としたものではありません。

【選択肢3】誤り

「冠動脈血栓の予防」

冠動脈血栓(動脈硬化プラークの破綻に伴う血小板血栓)の予防には,抗血小板薬(アスピリン,クロピドグレル等)が用いられます。ワルファリンは凝固因子を介した血栓形成を抑制する抗凝固薬であり,主に静脈系や心腔内の血栓予防に有効です。

【選択肢4】誤り

「肺塞栓症の予防」

肺塞栓症は主に下肢深部静脈血栓(DVT)が原因となります。心房細動で形成される血栓は左心房(主に左心耳)由来であり,左心室→大動脈→全身の動脈系へ流れるため,肺動脈を閉塞することはありません。心房細動における抗凝固療法の主目的は脳塞栓症の予防です。

【選択肢5】正しい ✓

「脳塞栓症の予防」

処方1のワルファリンカリウムは,ビタミンK依存性凝固因子(Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ)の産生を阻害する抗凝固薬です。心房内での血栓形成を抑制することで,心原性脳塞栓症を予防します。非弁膜症性心房細動に対する抗凝固療法は,脳卒中リスクを約60〜70%低減させることが示されています。

臨床での考え方

■ 心房細動を見たら「レート」と「血栓予防」を考える

心房細動の治療で最も重要なのは,①頻脈による心機能低下を防ぐこと,②脳塞栓症という重大な合併症を防ぐことです。

■ 処方内容から治療意図を読み取る

β遮断薬=レートコントロール,抗凝固薬=血栓塞栓症予防という基本的な対応関係を押さえておけば,処方意図を正確に把握できます。

参考文献

・日本循環器学会,他:2024 年 JCS/JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療, 2024(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/03/JCS2024_Iwasaki.pdf)

・日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会:脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕, 2025(https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2025_kaiteikoumoku.pdf)

・エーザイ株式会社:ワーファリン,添付文書(2025年11月改訂,第3版)

・田辺ファーマ株式会社:メインテート,添付文書(2025年12月改訂,第3版)