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 くすりのプロファイル

一般名: シンバスタチン
所 属: コレステロール工場
職 業: 品質管理部(スタンダードスタチン課)
説 明: コレステロール工場の品質管理部に所属しコレステロールが作られ過ぎないように見張っている。普段は,大人しいが制服に着替えると人が変わったように熱い性格に変わる。
一般名: ピタバスタチン
所 属: コレステロール工場
職 業: 品質管理部(ストロングスタチン課)
説 明: コレステロール工場の品質管理部に所属しコレステロールが作られ過ぎないように見張っている。ロスバスタチンには劣るも,仕事の成績は第2位。三角サンドイッチがトレードマーク。

 構造式

 はじめに

前回,医薬品の官能基についてみてきました。そのなかで「フッ素」や「スルホンアミド」を構造中に有すると作用が増強するとお伝えしました。今回は「フッ素」や「スルホンアミド」に注目しながら,スタチン系薬について考えていきましょう。

 スタチン系薬の構造

スタチン系薬は,疎水性の堅固な環状母核に3,5-ジヒドロキシヘプタン酸というHMG-CoAと類似した側鎖が結合した共通の化学構造をもちます(図1,2)。3,5-ジヒドロキシヘプタン酸構造が酵素を阻害する中心を担いますが,非常に水溶性が高い構造であり3,5-ジヒドロキシヘプタン酸だけでは吸収されにくいため,疎水性の環状母核を導入し経口投与での吸収性を高めたり,酵素との親和性を高めたりしています。

図1 スタチン系薬の基本構造
図2 HMG-CoAの化学構造と代謝経路

また,スタチン系薬は作用の強さからスタンダードスタチン(プラバスタチン,シンバスタチン,フルバスタチン)とストロングスタチン(アトルバスタチン,ピタバスタチン,ロスバスタチン)に分類されます。ここで,ストロングスタチンの構造に注目してみてください。すべてフッ素が構造中に含まれており,作用増強に繋がっていることがわかります。よくみるとフルバスタチンも構造中にフッ素を含みますが,これも作用増強を狙ったものです。

 スタチン系薬の作用と体内動態

スタチン系薬はいずれも1日1回の服用であるにもかかわらず,特にスタンダードスタチンの半減期は長くありません(表1)。つまり,スタチン系薬の作用は血中濃度が定常状態に達する必要はないといえます。

作用機序から考えてみましょう。スタチン系薬はHMG-CoA還元酵素を競合的に阻害することで,コレステロールの合成を阻害し,肝細胞内のコレステロールを減少させます。これを補うために肝臓のLDLレセプターが増加し,血中のLDLコレステロールの肝取り込みを促進することにより,血中LDLコレステロール値を低下させます(図3)。増加したLDLレセプターの数はしばらく維持されるため,スタチン系薬の血中濃度を維持しなくても1日1回の服用で持続的な効果を得ることができるのです。

表1 スタチン系薬の薬物動態比較表
(各メーカーの添付文書,インタビューフォームを参考に作成)
図3 スタチン系薬の作用機序

また,スタチン系薬が肝臓に取り込まれる際には有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)1B1が関与します。特にプラバスタチンとロスバスタチンは水溶性が高く,他の細胞へ移行しにくいことから肝臓への特異性が高いといえます。これは,スタチン系薬における重篤な副作用である横紋筋融解症や,その他の副作用を回避するうえでも一つのメリットといえます。さらに水溶性が高い薬物は代謝されにくく,主に未変化体で排泄されるため,代謝酵素が拮抗するなどの薬物間相互作用も少ない傾向があります。

 スタンチン系薬における薬物間相互作用

スタンチン系薬における薬物間相互作用について,添付文書上の記載を表2にまとめました。

表2 スタンチン系薬における薬物間相互作用の添付文書上の記載
(各メーカーの添付文書を参考に作成)

併用禁忌や併用注意の理由は,「シクロスポリンによるOATP1B1などのトランスポーター阻害作用」「イトラコナゾール,クラリスロマイシンによるCYP3A4阻害作用」が原因だと考えられます。また併用注意の組み合わせだとしても,例えば水溶性が高く,肝取り込みにOATP1B1が関与しているプラバスタチンとOATP1B1を阻害するシクロスポリンの併用や,CYP3A4が代謝に寄与しているシンバスタチンやピタバスタチンとCYP3A4阻害作用を有する薬物の併用は,「併用注意」だとしても特に細心の注意が必要と考えられます。また,マクロライド系抗菌薬のエリスロマイシンはOATP1B1などの阻害作用を有することが報告されているため,あわせて注意が必要です。実際にそれらの薬物の血中濃度への影響をまとめると表3 のようになります。

表3 スタチン系薬と他薬併用によるAUC上昇比
(鈴木洋史・監:これからの薬物相互作用マネジメント 第2版.じほう,2021を参考に作成)

添付文書上併用注意だったとしても,「プラバスタチンとシクロスポリンの併用」「シンバスタチンとクラリスロマイシンの併用」は禁忌に相当するレベルの血中濃度上昇が想定されます。

 スタチン系薬と腎機能障害

スタチン系薬の添付文書において,腎機能障害患者への注意喚起が散見されます。スタチン系薬の主な消失経路はいずれも胆汁中排泄のため,腎機能障害との関連性は低そうな気がしますがなぜでしょうか。

この理由はさまざまありますが,例えば腎機能障害によって体内に尿毒素が溜まりやすいというのが一つの理由です。尿毒素はOATP1B1阻害作用を有しており,スタチン系薬の肝取り込みに影響する可能性があるのです。同様の理由で,OATP1B1により肝臓に取り込まれる速効性インスリン分泌促進薬(グリニド薬)も,肝代謝型薬物ではありますが腎機能障害患者への注意喚起がされています。

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著:黒木 央

大阪薬科大学卒。大手国家試験予備校で10年間講師として勤務後,調剤薬局において内定者教育や薬剤師教育に携わる。現在は,国家試験と現場の橋渡しを担うべく「PharmAssist Lab(ファーマシスト ラボ)」を設立し,薬学生教育,薬剤師学術研修,MR研修などを中心に活動中。

イラスト:角野 ふち

看護師として勤務しながらイラストレーターとしても活動し,メディカルイラストを中心に雑誌や書籍などの制作を行う。また,解剖生理学×イラストをコンセプトに臓物をポップに描く,見て学ぶコンテンツ『からだずかん』を手がけている。好きなくすりは,アセトアミノフェン。