
一般名: | トレラグリプチン |
所 属: | 糖国ホテル |
職 業: | 施設管理 |
説 明: | 糖国ホテルの施設を管理するベテラン。宿泊客の安心・安全や従業員のインスリンが働きやすいように,施設のメンテナンスなど日夜働いている。 |

一般名: | トリアゾラム |
所 属: | GABA音楽団 |
職 業: | バイオリン担当 |
説 明: | GABA音楽団に所属。バイオリンの演奏を担当し,聴いているものをリラックスさせる。ちなみに得意技は速弾き。 |

一般名: | ロスバスタチン |
所 属: | コレステロール工場 |
職 業: | 品質管理部 |
説 明: | コレステロール工場の品質管理部に所属しコレステロールが作られ過ぎないように見張っている。趣味は,水泳,サーフィン,温泉巡りなど,なぜか水に関するものが多い。 |
構造式

はじめに
ここまでの連載で医薬品の構造について考えてきましたが,今回はもう少しピンポイントにフォーカスして,医薬品の構造に潜んでいる官能基についてみていきましょう。医薬品の構造を考える際は,そういった官能基に注目するだけでもみえてくることがたくさんあります。今回は「フッ素」「塩素」「スルホンアミド」に注目してみます。
医薬品構造に含まれるフッ素原子
医薬品の構造中にフッ素が含まれているものをよくみかけます。一般名にもフルオロウラシル,フルバスタチンなど,名前にもフッ素が入っていることを主張しているものもたくさんありますね。
フッ素は,周期表でいうと17族(ハロゲン)の一番上にある,電気陰性度が一番大きい元素です。電気陰性度……簡単にいうと,その元素がどれだけ電子が好きかを表すものだと思ってください。構造中に電気陰性度が大きいフッ素が入ることで,フッ素は電子を引き寄せ電荷の偏り(分極)を生じます。炭素─フッ素間の結合は,大きな電荷の偏りによって,ターゲットとなるタンパク質に引き寄せられやすくなったり,強固に結合したりすることで,医薬品の作用を増強することに繋がります。また,炭素─フッ素結合が切断された後にできるフッ化物イオン(F-)は非常に不安定であるため,炭素─フッ素結合は切断されにくく非常に強固な結合となっています。この炭素─フッ素結合の強さは,生体内における医薬品の安定性に繋がっており,医薬品の構造中にフッ素が導入されることによって,生体内で分解されにくくなり半減期が延長することに繫がっています。さらに分子中にフッ素が導入されることによって脂溶性が高まるため,膜透過性の向上も期待できます(表1)。

実際にフッ素が導入された例をみましょう(図1)。

DPP-4阻害薬であるアログリプチンにフッ素を導入したものがトレラグリプチンです。アログリプチンは,1日1回の製剤,トレラグリプチンは週1回の製剤で,半減期を比較するとアログリプチンは17.1時間,トレラグリプチンは投与時から168時間までの半減期が54.3時間です。フッ素1つの導入が大きな違いを産み出しています。
医薬品構造に含まれる塩素原子
塩素は周期表でいうとフッ素と同じ17族(ハロゲン)であり,フッ素の下に位置する元素です。したがって,フッ素よりも電気陰性度が少し小さくなっています。同族元素なので性質としては似ており,電荷の偏りによる作用増強や脂溶性が高まることによる膜透過性の向上は同様です。ただし,フッ素と塩素では生体内における安定性が大きく異なります。塩化物イオン(Cl-)はフッ化物イオン(F-)よりも安定なため,生体内で速やかに分解され半減期が短くなります(表2)。例えば,抗不安薬のアルプラゾラムと睡眠導入剤のトリアゾラムの構造は塩素1つの違いです(図2)。半減期を比較するとアルプラゾラムは約14時間,トリアゾラムは約2.9時間となっています。塩素が入ったことによって速やかな吸収と分解が起こる結果と考えることができますね。


医薬品構造に含まれるスルホンアミド
スルホンアミド構造は酸素や窒素などがたくさん集まっているので,大きな極性をもっています。つまり,電荷の偏りがあり,フッ素や塩素と同様に作用増強が期待できます。
また,その極性の高さから水溶性が高まるため,利尿薬や腎排泄型薬物にスルホンアミドが入っていることが多いことも頷けます(図3)。

スルホンアミドが医薬品の特性に大きく影響している例としてロスバスタチンが挙げられます(図4)。

スタチン系は肝臓においてコレステロール合成を阻害しますが,肝臓への取り込みには有機アニオントランスポーターが関与しています。一方で,肝臓以外の臓器への分布は単純拡散であるため,スルホンアミドの導入により水溶性が高まっているロスバスタチンは肝臓への選択性が向上しているといえます(表3)。ロスバスタチン錠(クレストールⓇ錠)のインタビューフォームには以下の記載があります。
本剤は,肝臓では主として能動輸送系を介して取り込まれ,脂質親和性が比較的低いため,能動輸送系をもたない他の臓器には取り込まれにくく,肝特異的なHMG-CoA還元酵素阻害薬であると考えられる。

また,水溶性が高まっているということは,代謝を受けにくいことにも繋がります。スタチン系の排泄経路は主に胆汁排泄ですが,ロスバスタチンはほとんどが未変化体のまま排泄されます。そのため,代謝酵素に起因する薬物相互作用も少なくなります。
ただし,スルホンアミド構造には気をつけないとならないことが1点あります。それは,アレルギー反応を起こす人がいることです。スルホンアミドアレルギーの既往のある患者には当然,スルホンアミド構造が含まれる薬物を避ける必要が出てきます。ちなみに,ロスバスタチン以外のスタチン系薬にはスルホンアミドが含まれていないので,そういった患者にはロスバスタチン以外のスタチン系薬を選択する必要があります。