第3回
忙しくてもホスピタリティは発揮できる
坪田 のり子(Shukriya)
イラスト:さかがわ成美
忙しい現場でもホスピタリティは発揮できるのか
ホスピタリティというと,ホテルや百貨店など,ゆったりとした時間のなかで提供されるもの,というイメージをおもちの方も多いかもしれません。そのため,「忙しい現場でホスピタリティを発揮するのは難しい」と感じている方もいるのではないでしょうか。
けれども,ホスピタリティが生まれる考え方を理解しておけば,どのような状況でもそれを発揮することはできます。
患者さんは,薬剤師に対して安心感を求めています。そうしたなかで,ホスピタリティを感じさせる関わりは,不安を抱える患者さんに安心感を届けるうえで,とても大切な役割を果たします。
では,忙しい現場で,どのようにホスピタリティを発揮していけばよいのでしょうか。その考え方を,一緒に整理していきましょう。
ホスピタリティとは何か
では,そもそもホスピタリティとは何でしょうか。
服部勝人氏は,ホスピタリティを「相互満足しうる対等となるにふさわしい相関関係を築くための人倫」と定義しています1)。ここでいう「人倫」とは,人と人との関係のなかで大切にすべきあり方を指します。
つまりホスピタリティとは,患者さんだけでなく,薬剤師も含めた,関わる双方が満たされる関係だということです。
薬剤師と患者さんは「医療サービスを提供する側」と「受ける側」という関係で捉えられがちですが,ホスピタリティの考え方では,一方通行ではなく,双方向の関係として成り立ちます。
例えば,顔なじみの患者さんが来局された場面を考えてみましょう。「〇〇さん,おはようございます。今日は体調いかがですか?」と声をかける。その一言に,患者さんが「今日は腰の痛みが少し良いのよね。ありがとう」と笑顔で返す。それを受けて,「それはよかったですね」と応じながら処方箋を預かる。
こうしたやり取りのなかで,患者さんは「気にかけてもらえている」と感じ,安心感や満足感を得ます。同時に薬剤師も,患者さんのふとした笑顔や感謝の言葉に触れ,「声をかけてよかった」と感じられます。
このように,関わりのなかでお互いに満たされる状態こそが,ホスピタリティです。それは,相手のために何かをするだけでなく,その関わりを通じてお互いの関係性をより良くしていく姿勢ともいえるでしょう。
サービスとホスピタリティの違い
服部氏は,サービスを「有形・無形を問わず事物において機能やその過程を提供することを意味し,経済性において等価価値を指す」と定義しています1)。
つまりサービスとは,あらかじめ決められた価値に対して,同等の価値をもつ商品や機能を提供するもの,と捉えることができます。
例えば,自動販売機をイメージしてみましょう。130円と表示された飲み物を購入するために自動販売機にお金を入れ,ボタンを押すと商品が出てきます。このとき「きちんと出てきた」とは思っても,そこに特別な感情が生まれることは,あまりありません。「この飲み物が飲みたかったんだ」「またこの自動販売機で買おう」といった印象が残ることも,少ないのではないでしょうか。これがサービスです。
薬局の医療サービスも同じで,処方された薬を正確にお渡しし,必要な説明を行うことが求められます。この点だけをみれば,サービスとしては成立しています。
しかし,それだけで患者さんにとって十分といえるでしょうか。患者さんは,単に薬を受け取るためだけに来局しているわけではありません。体調への不安や生活への影響など,さまざまな思いを抱えながら薬局を訪れています。
そうしたなかで求められているのは,「正しく提供されること」に加えて,「自分の状況や気持ち,背景を理解してもらえている」と感じられる関わりです。このような「プラスアルファ」の関わりこそが,ホスピタリティです。
サービスが「決められた機能や商品,情報などを提供すること」であるのに対し,ホスピタリティは「相手の状況に応じて関わり方を考え,その人が言葉にしていない期待にも応えていくこと」といえるでしょう。
だからこそ薬剤師には,サービスにとどまらず,ホスピタリティを提供していくことが求められているのです。
ホスピタリティが発揮されるプロセス
では,ホスピタリティは,どのような段階を経て発揮されるのでしょうか。
大きく,四つの段階に分けられます(表)。ここで大切なのは,いきなり行動から入らないことです。観察と推理を挟めば,自分の押しつけにならない関わりが生まれます。
表 ホスピタリティが発揮されるプロセス
| プロセス | 説明 |
|---|---|
| 観察 | 相手の言葉や表情,しぐさ,声のトーン,行動の変化など,見えている事実をそのまま捉える段階です。このとき大切なのは,評価や思い込みを入れず,ありのままに状況を捉えることです |
| 推理 | 観察した情報をもとに,「なぜそのような状態になっているのか」「背景にどのような事情がありそうか」を考える段階です。ここで重要なのは,1つに決めつけないことです。あくまで複数の可能性をもつ仮説として捉えます |
| 理解 | 推理した内容を,相手の立場や状況,気持ちに照らし合わせながら,「いま,この人にとって何をするのが良いのか」を考える段階です |
| 行動 | 理解した内容をもとに,相手が求めているであろう行動や言葉を選び,実際に行動に移す段階です |
そのことを踏まえて,薬局の場面で考えてみましょう。午前中の混雑で調剤室が慌ただしいなか,待合室では数名の患者さんが座って待っています。そのなかの一人の女性が,時折腕時計を見たり,ため息をついたりしている様子に気づきました。他の患者さんは比較的落ち着いているため,その女性の様子が少し目立ちます。この場面を,表の「観察・推理・理解・行動」の流れに当てはめてみましょう。
- ● 女性は腕時計を何度も確認し,ため息をついている。落ち着かない様子がみられる。
- ● 待ち時間が気になっている可能性がある。
- ● 急ぎの用事があるのかもしれない。
- ● 体調の不安から早く帰りたいと感じているのかもしれない。
この段階では,一つに決めつけず,複数の可能性をもつことが大切です。
- ● この患者さんにとっては,「待ち時間への不安を和らげ,先の見通しがわかること」が重要ではないかと考えられる。
- ● 「もう少々お待ちください」と伝えるだけでなく,「あと◯名でご案内できる予定です」といった具体的な見通しを添えて声をかける。
このように,ほんの一言の工夫でも,患者さんは「自分のことを気にかけてくれている」と感じ,不安が和らぎ,心が少しゆるむでしょう。これがホスピタリティです。
ここからわかるように,ホスピタリティは「時間をかけて丁寧に対応すること」だけを指すのではありません。短い関わりのなかでも,相手の状況を踏まえた一言や配慮によって,十分に発揮できます。むしろ,こうした小さな気づきや配慮の積み重ねこそが,ホスピタリティの本質ともいえるでしょう。
日常のなかで発揮できるホスピタリティ
ここまで,ホスピタリティが発揮される思考の流れをみてきました。その他にも,思考の流れを意識しなくても,忙しいときにすぐ実践できる対応例があります。その積み重ねが,「この薬局は対応が丁寧だ」という印象につながっていくのです。
まずは,待ち時間の捉え方についてです。私たちはつい,「お待たせしてしまって申し訳ない」「早くしなければいけない」と考えがちです。けれども,待ち時間は「長さ」だけで決まるわけではありません。時間には,時計が刻む「物理的な時間」と,心で感じる「感覚の時間」があります。
混雑時に,物理的な待ち時間を大きく縮めるのは難しいものです。一方で,感覚の時間は,関わり方しだいで変えられます。例えば,「どれくらい待つのかわからない」「自分が後回しにされている気がする」「誰にも気づいてもらえていない」など,こうした不安があると,同じ10分でも長く感じられます。逆に,「今の状況がわかる」「気にかけてもらえていると感じる」「見通しがもてる」,これだけで,待ち時間の感じ方は大きく変わります。つまりホスピタリティとは,待ち時間をゼロにすることではなく,その時間をどう感じてもらうかを考えることです。
前項でも触れたように,「お待たせしてしまい,申し訳ございません」「あと◯名でご案内できる予定です」といった一言を添えるだけでも,患者さんの安心感につながります。
ホスピタリティは,動作そのものでも感じていただけます。
まず一つ目は,動作の最後をゆっくりと静かに行うことです。書類を置く,物を渡す,指し示す,お辞儀をする。こうした動作の「最後」が雑になると,相手は無意識にせわしなさや不誠実さを感じます。逆に,最後だけ少しゆっくり行うことで,丁寧さが伝わります。
二つ目は,アイコンタクトを意識することです。忙しいときでも,患者さんがいらしたら顔を上げて「こんにちは」と挨拶をし,目を見る。1秒にも満たない動作ですが,それだけで「あなたに向けた対応ですよ」というメッセージが伝わります。
三つ目は,指先をそろえることです。指先が整っていると動作全体が落ち着いて見え,丁寧さや信頼感につながります。場所を案内したり,何かを指し示したりするときには,指先を揃えましょう。ちなみに,親指が外れがちですが,親指もともに揃えます。
患者さんとの関わりを楽しむホスピタリティ
ここまでみてきたように,ホスピタリティは,ゆとりがあるからできるのではありません。忙しいときでも発揮できます。むしろ,慌ただしくみえる薬局でホスピタリティが感じられると,患者さんからの評価はいっそう高まるのではないでしょうか。
患者さんの様子を観察し,推理し,理解して,関わり方を選ぶ。その積み重ねが,「また,この薬局に来たい」と思っていただける安心感につながっていきます。
ぜひ皆さまも,日々の業務のなかでホスピタリティを意識しながら,患者さんとの関わりを楽しんでみてください。
引用文献
- 1)服部勝人:ホスピタリティ・マネジメント学原論 新概念としてのフレームワーク. 丸善出版, 2006