第2回
安心感を与える第一印象
坪田 のり子(Shukriya)
イラスト:さかがわ成美
第一印象が患者さんとの関係づくりの出発点
前回は,患者さんがどのような状況や心情で薬局を訪れ,何を求めているのかを考えました。多くの患者さんは,体調の不安や生活への影響など,さまざまな思いを抱えながら来局します。そのなかで,「自分の状況を理解してほしい」「安心して相談できるだろうか」という気持ちをもつ方も少なくありません。
では,そのような患者さんに対して,私たち薬剤師はどのように向き合えばよいのでしょうか。
患者対応というと,薬の説明や服薬指導など「何を説明するか」に意識が向きがちです。もちろん,正確でわかりやすい説明は,薬剤師に欠かせない専門性です。しかし,それだけでは患者さんの不安や「自分の状況を理解してほしい」という思いを十分に受け止めることはできません。安心して相談できると感じてもらえる関係性があってこそ,服薬指導は本来の役割を発揮します。安心して相談できると感じてもらえれば,患者さんは生活のなかで困っていることや服薬の様子を率直に話してくれます。そうした情報があってこそ,薬剤師は患者さんの状況を正確に把握し,適切な薬物療法につなげられます。
そして,その安心感の出発点となるのが,薬剤師や薬局スタッフの第一印象です。
薬局に入った瞬間の雰囲気,スタッフの表情,声のかけ方,立ち居振る舞い。患者さんはこうした情報から,「ここなら安心して相談できそうだ」と感じるかどうかを,無意識のうちに判断しています。
つまり,患者さんとの関係づくりの出発点となるのが,第一印象です。
今回は,患者さんに安心感を与える第一印象について,その重要性と具体的なポイントを考えていきます。
第一印象はどのように決まるのか
第一印象とは,相手の全体像を,会った瞬間に無意識のうちに捉えた印象のことです。私たちは,表情や声のトーン,立ち居振る舞いといった情報をもとに,「この人はこんな人だろう」と瞬時に判断しています。
例えば,学生時代の入学式を思い出してみてください。見知らぬ人が多いなかで,「この人は話しやすそうだな」と感じる相手もいれば,「話しかけにくそうだな」と感じる相手もいたのではないでしょうか。
それは,言葉を交わす前に,表情や立ち居振る舞いから自然に感じ取っているものです。そして実際に話してみても,その第一印象が大きく変わることはあまりありません。
心理学では,これを「初頭効果」とよびます。最初にもった印象が,その後の相手の見方や受け取り方にも影響していくという考え方です。
つまり,どのような第一印象をもってもらうかが,その後のコミュニケーションの土台になります。「安心して話せそうだ」と感じてもらえるかどうかは,その後の関係性にも大きく影響していくのです。
では,人は何を手がかりに第一印象を判断しているのでしょうか。非言語情報の影響の大きさを示す例としてよく知られているのが「メラビアンの法則」です。これは,言葉と表情・声などが矛盾して伝わる場面で,受け手が相手の感情や態度をどう受け取るかを調べた実験から導かれたものです(表1)。コミュニケーション全般にあてはまる法則ではありませんが,相手の印象を受け取るうえで,表情や声のトーンといった非言語の情報が大きな役割を果たすことを,よく表しています。
表1 メラビアンの法則(3つの情報の割合)
- ● 視覚情報 55%
- ● 聴覚情報 38%
- ● 言語情報 7%
例えば,薬局で名前を呼ばれる場面です。同じ「△△さん,お待たせしました」という言葉でも,表情や声のトーンによって受け取る印象は大きく変わります。
つまり患者さんは,薬剤師が使う言葉の内容だけでなく,表情や声のかけ方,立ち居振る舞いといったさまざまな要素から,その薬局の第一印象を受け取っています。
そうした第一印象を形づくる基本として,接遇マナーの五原則があります。
第一印象を形づくる接遇マナー五原則
第一印象を形づくる要素として,医療やサービスの現場で広く知られているのが「接遇マナー五原則」です(表2)。接遇マナーとは,相手に敬意をもって接するための,基本的な行動や態度のことを指します。医療の現場では,患者さんに安心感を与え,信頼関係を築くための土台となるものです。
表2 接遇マナーの五原則
- ● 表情
- ● 挨拶
- ● 身だしなみ
- ● 言葉遣い
- ● 態度・所作
患者さんは,こうした要素を無意識のうちに受け取りながら,「安心して相談できる薬局かどうか」を感じ取っています。そのなかでも,第一印象に最も大きく影響するのが表情です。
第一印象の入り口となる表情
患者さんは薬局に入った瞬間,薬剤師やスタッフの表情から,その薬局の雰囲気や安心感を感じ取りますが,現在,多くの薬局ではマスクを着用して業務を行っています。そのため,患者さんが薬剤師の表情を読み取る手がかりは,主に目元です。たとえ口元で笑っていても,マスクで見えなければ,安心感のある自然な笑顔として伝わりにくいことがあります。
そのため,マスク越しでも「笑顔だ」と感じてもらえる表情を意識することが,第一印象を左右する重要なポイントです。安心感が伝わる表情には,2つのポイントがあります。
1つ目は,口角を上げることです。目じりだけを意識して動かすのは,実は難しいものです。まず口角を上げることを意識すると,表情全体がやわらかくなります。
2つ目は,目じりを下げることです。口角が上がれば自然と目じりも下がり,マスク越しでもやさしい表情が伝わりやすくなります。
このような表情で患者さんを迎えると,「きちんと話を聞いてもらえそう」「この人なら相談しても大丈夫そう」といった安心感を,言葉より先に伝えることができます。表情は,患者さんに安心感を伝える第一印象の入り口といえるでしょう。
表情は,少しの意識とトレーニングで整えられます。薬局でも自宅でもできる簡単な方法を紹介します。
1つ目は,「う」「い」と口を大きく動かしながら繰り返すことです。口角をしっかり動かすことで,表情筋がほぐれていきます。2つ目は,その「う」「い」を繰り返しながら,「い」のタイミングで口角が上がるのを意識し,同時に目じりをやや下げてみることです。
さらに可能であれば,スタッフ同士で表情を見比べてみるのも効果的です。互いに確認しあうことで,自然で安心感の伝わる表情が身につきやすくなります。
こうしたトレーニングは,出勤前に鏡の前で数十秒行うだけでも十分です。忙しいときや疲れているときほど,表情は硬くなりがちです。余裕があるときだけ笑顔を意識するのではなく,余裕がないときこそ表情を整えることが大切です。
どのような状況でも患者さんに安心感を届け,適切な服薬指導につなげていく。それが,薬物療法を支える薬の専門家としての,私たちの大切な姿勢です。
表情以外の接遇マナーの要素
表情以外の,挨拶や身だしなみ,言葉遣い,態度・所作といった要素は,患者さんが受け取る第一印象にどのような影響を与えるのでしょうか。
まずは挨拶です。患者さんが薬局に入ってきたときに,顔を上げて「こんにちは」と声をかけるだけでも,患者さんは「きちんと迎えられている」と感じます。逆に,視線を上げずに声だけで「こんにちは」と言うと,それだけで少し冷たい印象を与えてしまうことがあります。顔を上げるという行為は,時間にすると1秒にも満たない小さな動作です。しかし,そのわずかな違いで患者さんが受け取る印象は大きく変わります。
次に身だしなみです。白衣の着こなしが整っているか,髪型が清潔に保たれているかといった身だしなみは,患者さんが薬局の清潔感を判断する材料になります。医療の現場では特に,清潔感が安心感につながります。
そして,言葉遣いも印象を大きく左右します。丁寧な言葉で説明することは,「きちんと向き合ってもらえている」という感覚につながります。親近感を伝えようとするあまり,タメ口のような話し方になってしまうと,かえって違和感を与えることもあります。患者さんへの敬意が伝わる言葉遣いを心がけたいものです。
最後に態度・所作です。立ち居振る舞いや動作の丁寧さは,そのまま患者さんへの配慮として伝わります。薬剤情報提供書を指し示すときや自分の居場所を示すときには指をそろえる,調剤のかごをしまうときには物音を立てないようにするなど,ちょっとした配慮が患者さんに安心感を与えます。
このように,接遇マナーの五原則は,それぞれが患者さんに安心感を伝える要素です。一つひとつは小さな行動ですが,その積み重ねが「ここなら安心して相談できる」という印象につながっていきます。
安心感は小さな行動の積み重ね
ここまでみてきたように,第一印象で安心感を伝えることは,特別な行動によって生まれるものではありません。むしろ,表情,挨拶,身だしなみ,言葉遣い,態度・所作といった日々の小さな行動の積み重ねによって形づくられていきます。
患者さんは,そうした関わりから「ここなら安心して相談できそうだ」と感じ取っています。
忙しい現場では,目の前の業務に意識が向きがちですが,こうした小さな行動こそが患者さんとの信頼関係を築く土台になります。
次回は,こうした第一印象をもとに,忙しい現場でも実践できる「ホスピタリティ」の考え方について整理していきます。