第1回
患者対応を考える前に
知っておきたい視点
坪田 のり子(Shukriya)
イラスト:さかがわ成美
患者対応の「難しさ」の正体
患者対応について学ぼうとするとき,まず「何を説明するか」「何を確認すればよいか」といった知識や手順に目が向きます。もちろん,正確で適切な説明や確認すべきポイントを整理することは,薬剤師として当然求められる基本姿勢です。
しかし,いざ患者さんの前に立ってみると,「きちんと説明したはずなのに,なぜか伝わっていないように感じる」「思いがけず患者さんの怒りに触れて戸惑ってしまった」といった経験はないでしょうか。知識はあるはずなのに,どこかかみ合わない。納得してもらえた手ごたえが得られない。そんなほろ苦い経験に,自信を揺さぶられた方もいるかもしれません。
患者対応の難しさは,適切な説明や必要なヒアリングといった「正しさ」だけでは解決しきれないところにあります。目の前にいる患者さんは模擬患者でも機械でもなく,それぞれの生活背景をもち,さまざまな不安や期待を抱えた生身の人間だからです。患者さんが何に悩み,何を求め,どのような思いで薬局を訪れているのか─その理解に努める姿勢があってこそ,良好な関係性が築かれていきます。
本稿では,具体的な対応スキルに入る前に,医療専門職としての薬剤師の役割と,患者さんを理解するという視点を改めて見つめ直すことから始めます。
薬剤師の役割を改めて考える
私たち薬剤師の役割とは何でしょうか。それは,「薬物療法の質の向上」にあります。
薬局では,処方された薬を正確に調剤し,適切に説明することはもちろん欠かせません。しかし,それだけで役割が完結するわけではありません。薬を安全に届けることは大前提であり,その先にこそ私たちの専門性があります。
大切なのは,薬物療法が目の前の患者さんにとって適切に機能しているかを見極め,必要に応じて改善につなげることです。
「副作用は出ていないか」「飲み忘れは起きていないか」「生活リズムや家庭環境に無理のある服薬になっていないか」こうした点を短い対話のなかで確かめながら,患者さんの言葉や表情,ちょっとした間の取り方からも情報をくみ取り,課題を見つける。そして医師やその他の関連職種とも連携しながら調整していく─薬物療法の問題解決を担うことこそが,薬剤師の専門性の一つです。
近年,「対物業務から対人業務へ」といわれるようになりました。しかし実際には,薬を「渡す」仕事から,薬物療法を「支える」仕事へと役割が広がっていると捉えるほうが,実感に近いかもしれません。単に情報を伝えるのではなく,患者さんの生活のなかで治療が機能するよう支えていく視点が求められています。
そのためには,薬に関する専門知識を伝えるだけでは十分とはいえません。患者さんの状況や理解度に応じて伝え方を工夫し,かみ砕いて届け,納得して受け取ってもらうこと。そして,薬物療法に必要な情報を安心して話してもらえる関係性を築くこと。その両方が求められます。
私たちは単に「説明する人」ではなく,薬物療法をともに整えていく伴走者でもあるのです。
患者さんの背景を理解する
では,目の前の患者さんは,どのような状況や心情で薬局を訪れているのでしょうか。
私たちが日々接している患者さんの多くは,身体や心に不調を抱えています。「この病気はいつか良くなるのだろうか」「今までに感じたことのない体調変化は大丈夫だろうか」─症状そのものだけでなく,先の見通しが立たないことへの不安を胸にしている方も少なくないでしょう。
私たちが見ている処方箋の情報は,患者さんの状態のほんの一部に過ぎません。その背景には,言葉になっていない思いや戸惑いが潜んでいます。
付き添いのご家族も同様です。むしろご家族だからこそ,心配や不安が強いこともあるでしょう。何かできることはないか,悪化してしまわないか─そうした思いが募ることも珍しくありません。
こうした不安や心配は,必ずしも表に出るとは限りません。一見落ち着いて見えても,内側ではさまざまな思いが交錯しています。
そうした背景を想像してみると,次のような場面が浮かびます。
例えば,いつも元気な子どもがぐったりしている姿を目の当たりにした保護者の動揺は,想像以上に大きなものです。その状態で薬局を訪れ,待ち時間の説明もないまま後から来た人が先に呼ばれたとしたら,どう感じるでしょうか。普段なら流せる出来事も,心に余裕がないときには強く引っかかります。「どうして後なのですか」「早くしてもらえませんか」と,つい強い口調になることもあるかもしれません。
それは理不尽な怒りというよりも不安や焦りがあふれ出た結果といえます。
負担は身体的・心理的なものにとどまりません。治療費や通院にかかる時間,仕事や家庭への影響など,経済的・社会的な重荷を抱えている場合もあります。治療は生活と切り離された出来事ではなく,日々の暮らしのなかに組み込まれていくものだからです。
患者さんは,こうした背景を必ずしも言葉にしてくれるわけではありません。けれども,「少しでもわかってほしい」「自分の状況を理解したうえで関わってほしい」という思いを抱えている方は多いでしょう。
患者対応を考えるうえで大切なのは,目の前の言動だけを見るのではなく,その奥にある不安や心配を理解しようとする姿勢です。その姿勢があってこそ,私たちの専門性はより意味のあるものになります。
患者さんが薬局に求めていること
そんな患者さんは,薬局に何を求めているのでしょうか。
まず大前提として,正確で安全な医療サービスの提供は当然求められています。正しい薬が渡され,必要な説明がなされること。これは医療サービスの土台であり,欠かすことのできない前提条件です。
しかし,それだけでは十分ではありません。
全国薬局患者満足度調査1)では,「理想の薬局」として最も多く挙げられたのは「スタッフの対応がとても良い」(66.4%)であり,「待ち時間が短い」(62.2%)を上回りました(図)。この結果は,患者さんが利便性だけでなく,「どのように関わってもらえるか」を重視していることを示しています。
図 実際の薬局と理想の薬局の差異(n=10,997)
〔櫻井琢也,他:診療と新薬,57:601-608,2020より〕
患者さんが求めているのは,「不安や心配を抱えた状態で来局していることを理解してもらえる」という感覚です。「服薬指導の際に薬剤師ときちんと目があう」「所作が丁寧である」「表情のわずかな変化に気づいて声をかけてくれる」─こうした一つひとつの関わりの積み重ねが,「ここなら安心して相談できる」「またこの薬局に来たい」という思いにつながります。それは特別なサービスではなく,日々のやりとりのなかで生まれる安心感です。
反対に,体調が優れないなかで配慮が感じられなかったり,待ち時間の説明がなかったりすると,「自分は流れ作業の一部として扱われているのではないか」という違和感が生じます。その違和感が,声にならない不満や,時にクレームへとつながることもあります。
「スタッフの対応がとても良い」とは,一人の患者さんを特別扱いすることではありません。目の前の患者さんを病気だけで捉えるのではなく,一人の生活者として尊重し,「自分ごととして向き合ってもらえている」と感じてもらえる関わりを重ねていくことです。
その積み重ねが安心感を生み,やがて信頼へと育っていきます。信頼があるからこそ患者さんは本音を話してくれる。そして私たちは,より質の高い薬物療法を支えることができるのです。
患者対応の土台
患者対応を考えるとき,私たちはつい「何を説明するか」「何を確認するか」といった専門知識に意識を向けがちです。もちろん,それらは欠かせない力です。
しかし,その土台となるのは,どのような視点で患者さんと向き合うかという姿勢にほかなりません。
薬剤師の役割は,薬物療法の質を高めること。そのためには,目の前の患者さんの心身の状態や背景を理解しようとする視点が欠かせません。患者さんは正確さだけでなく,自分の不安や心配を受け止めてもらえる安心感を求めています。そしてその安心感は,細やかな関わりの積み重ねから生まれるものです。
対応スキルを磨くことも大切です。しかしその前に,どのような視点で患者さんをみるのかを意識する。それこそが信頼関係の土台となり,薬物療法の質の向上へとつながっていきます。
次回は,この視点を踏まえ,「安心感を与える第一印象」について具体的に考えていきます。
引用文献
- 1) 櫻井琢也,他:患者が薬局に期待すること:全国薬局患者満足度調査.診療と新薬,57:601-608,2020