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健康に生まれることは,当たり前ではない

受精しても,着床に至らないもの,妊娠が続かないもの,先天性疾患などにより,健康に生まれてくる児は約25%※とされる。健康に生まれるかどうか,その大半は受精の時点で決まっており,妊娠に気づく前の行動や食事によるものではない。ただし,原因の約10%は環境要因で,薬剤,感染,化学物質など,薬剤師が関与し得る範囲は確かに存在する。

『薬剤師にできることは,何だろう』

薬剤師にできることは,「妊娠する前」から患者さんに関わり,男女を問わず「妊娠」という言葉に触れてもらう,意識してもらうことだ。相談したいと思う人,薬局で相談できるのかと思う人,わずらわしいと思う人。それらすべてが,「妊娠」という言葉を意識してもらった結果・反応と捉えていただければと思う。

健康な赤ちゃんが生まれてくるのは奇跡だ。その奇跡のために,前もってできることがある。同じカウンターにはさまざまなタイミングの人が来る。薬剤師にできることは,何だろう。

※受精後の着床率,臨床的妊娠の継続率,先天性疾患の頻度など,一般に報告されている確率を単純に掛け合わせた概算値。

イラスト:小坂タイチ

妊娠を希望する時期の支援

「妊娠したら気をつけよう」では,間に合わないことがある。葉酸は妊娠の1カ月以上前からの摂取が望まれ,風疹ワクチンは抗体を確認したうえで接種し,接種後2カ月間は妊娠を避けなければならない。持病の治療薬の見直しや婦人科受診も,妊娠してからでは選択肢が限られる。だからこそ,妊娠を考えはじめた時期が,最も大切な準備期間である。

一方で,「何を準備すればよいのか」は意外と知られていない。インターネットには情報があふれているが,不安から自己判断で薬を中止してしまう人もいれば,必要以上に心配を抱え込んでしまう人もいる。また,妊娠は女性だけの問題ではない。男性の服薬や生活習慣が妊孕性や妊娠経過に影響する場合もあり,パートナーと一緒に考えることで,はじめてみえてくるものもある。その入り口に,薬局は立てるはずだ。

妊娠を希望しない時期の支援

プレコンセプションケアは,「子どもが欲しい人」のためだけのものではない。いまは妊娠を希望しないという選択も,同じように尊重されるべきである。そして,その選択を支えるのが避妊だ。避妊とは妊娠を避けるためだけではなく,「いつ妊娠するか」を選ぶための手段でもある。

2026年2月,OTC緊急避妊薬が要指導医薬品として薬局での対面販売を開始した。妊娠を希望しない時期の支援に,薬局はこれまで以上に近い距離で関わることになる。緊急避妊薬を必要とする場面だけでなく,日頃の避妊や服薬との関係,そして将来妊娠を希望したときには薬の見直しが必要になることを,あらかじめ伝えておくのも薬剤師の役割である。

妊娠を希望しない時期だからといって,決してプレコンセプションケアの対象外ではない。むしろ,健康管理や生活習慣の改善,持病のコントロール,必要なワクチン接種など,将来どのような選択をすることになっても,その土台になる準備期間である。いまの選択と将来の選択はつながっている。薬局が,そのことを自然に伝えられる場所であるとよいと思う。

薬局におけるプレコンセプションケア

薬局には,妊娠を希望する人だけが来るわけではない。高血圧で通院する人,がん治療中・治療後の人,不妊治療中の人,男性,学生,そしてOTC医薬品を買いに立ち寄る人。それぞれ異なる背景をもつ人が,人生のさまざまなタイミングで薬局を訪れる。

薬局の強みは,「妊娠」とは無関係な時期から継続して関われることである。継続的な服薬指導はもちろん,一度だけの受診やOTC医薬品の相談でも,将来につながる情報提供ができる。プレコンセプションケアは,特別な外来や新しい体制をつくることではない。また,妊娠だけを目的とするものでもない。「あのときに相談しておけばよかった」という後悔を減らし,納得して人生を選ぶためのケアでもある。

いつもの服薬指導に「将来妊娠を考えることがあれば相談してください」という一言を添えるなど,薬局での何気ないやり取りが,その最初のきっかけになるかもしれない。本特集では,その具体例として服薬の見直し,妊娠前の備え,個々の状況に応じた支援を紹介する。

2026年9月号