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夏と風邪

「風邪」イコール「冬になるもの」と考えている方は多いのではないだろうか。しかし,夏には夏場特有の感染環境がある。例えば,冷房による乾燥・寒暖差は乾燥を好むウイルスを容易に増殖させたり,海水浴やバーベキューなどのレジャー活動により,環境の微生物との接触が増加したり,食品がすぐに腐敗し微生物増殖の温床になるなど,夏に起こる感染症は意外と多い。いわゆる「風邪」とは,「感冒」とも表現され,発熱の有無は問わず,鼻症状(鼻汁,鼻閉),咽頭症状(咽頭痛),下気道症状(咳,痰)の3系統の症状が同時に,同程度存在したウイルス性の急性気道感染症のことを指す1)。ここでは,夏風邪特有の原因ウイルスについて解説し,細菌による感染症との違いを整理していく。

夏風邪の原因となる主なウイルス

エンテロウイルス

ピコルナウイルス科の一本鎖RNAウイルスである2)。夏風邪の代表格。コクサッキーウイルスやエコーウイルスなどが含まれる。軽度の感冒症状を呈することが多いが,まれに無菌性髄膜炎,心筋炎・心膜炎などを引き起こすことがある。手足や口に小さな水疱性病変ができれば手足口病,口腔内に有痛性の水疱や潰瘍ができればヘルパンギーナなど,現れる症状によって疾患名称が変わる。糞口感染や接触感染が主体であるため,排泄物の取り扱いや,手洗いの徹底が必要である。

アデノウイルス

アデノウイルス科の二重鎖直鎖状DNAウイルスである3)。感染力が非常に強く,多彩な症状を引き起こす。そのなかでも,夏に問題になるのは圧倒的に咽頭結膜熱(プール熱)である。長引く高熱,結膜炎・咽頭炎が特徴で,接触感染で伝播する。アルコール抵抗性なので,念入りな石けんなどを使った手洗いが非常に重要である。タオルの共有などでも伝播するため,同居している家族にも十分に指導を行う必要がある。

ヒトメタニューモウイルス

ニューモウイルス科の一本鎖RNAウイルスである4)。RSウイルスと同じ種類のウイルスである。冬季に流行するRSウイルスと違い,ヒトメタニューモウイルスの流行期は3~6月といわれ,夏季にも発生する。多くは急性上気道炎で発症するが,RSウイルスと同様に,小児や高齢者では気管支炎や肺炎へ発展し,重症化しやすい。飛沫感染するため,患者にはマスクの装着を指導する必要がある。

新型コロナウイルス,インフルエンザウイルス

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は,コロナウイルス科の一本鎖RNAウイルスで,インフルエンザウイルスは,オルソミクソウイルス科の一本鎖RNAウイルスである。どちらもかつては冬季を中心に流行していたが,近年は季節性が弱まり通年化し,夏にも流行がある5)

麻疹ウイルス

パラミクソウイルス科の一本鎖RNAウイルスである6)。ここ最近,日本も含め世界中で増加し話題となっている。いわゆる風邪ウイルスとは別だが,上気道症状を呈することがあり,夏風邪の鑑別に挙がる重要なウイルス感染症である。咳やくしゃみにより放出されたエアロゾルを介して感染する空気感染を主体とし,極めて高い感染力を有する。ワクチン未接種者など免疫を有さない者が曝露された場合,ほぼ100%発症するとされる。

かつては乳幼児の疾患と考えられていたが,近年では成人例も増加している。上気道炎症状に続いて結膜炎が出現し,その後高熱と全身性発疹がみられる。口腔内,特に臼歯部付近にみられる粟粒状白斑(コプリック斑)は診断上有用な所見である。合併症としては,ウイルス感染の一過性の免疫抑制により二次性の感染症として細菌性肺炎や中耳炎を合併しやすい。回復後数年を経て脳炎を発症することがあり,進行性で致死的である。

ウイルスと細菌の違い

前述のように,「夏風邪」とは単一の疾患ではなく,ウイルス性上気道炎の総称である。原因はウイルスであり,細菌とは区別する必要がある。表にウイルスと細菌の違いを整理する7)

ウイルス感染症の治療は,主に症状を和らげる対症療法が中心となり,基本的に自己の免疫機能で治癒していく。免疫機能を保つため,十分な休養や食事摂取ができる状態を維持することが重要である。

ウイルス 細菌
大きさ
  • 数十〜数百nm
  • 電子顕微鏡でしか見えない
ウイルスのイラスト
  • 約1μm
  • 光学顕微鏡でも見える
細菌のイラスト
構造
  • 細胞構造を有さない
  • タンパク質の殻に遺伝子が入っているだけの構造
  • DNAかRNAの一方のみをもつ
  • 細胞膜,細胞壁をもった単細胞生物
  • DNAもRNAも両方もつ
増殖方法
  • 宿主の細胞内でのみ増殖が可能で,細胞分裂を利用して自己を複製する
  • 自己増殖可能。分裂して増殖する
治療
  • 抗菌薬は無効
  • 抗ウイルス薬はウイルスの増殖を抑制するだけで,ウイルスを殺すことはできない
  • 抗菌薬が有効

〔国立健康危機管理研究機構 AMR臨床リファレンスセンター:未来に使える抗菌薬を残すため薬剤耐性(AMR)について学ぼう!,2025(https://amr.jihs.go.jp/general/1-1-2.html)を参考に作成〕

夏場特有の注意事項

夏場の感染症対応では,発熱と脱水の併存に特に注意が必要である。発汗や食事摂取量低下により脱水が進行しやすく,こまめな水分補給が重要となる。解熱薬使用時は,解熱に伴う発汗の増加により,さらに水分の需要が高まる。小児では経口摂取量や尿量の減少に注意し,高齢者では意識変容や食欲低下など非典型的な重症化サインを見逃さないことが重要である。

まとめ

冬季のみならず,夏季もまた感染症のリスクが高い時季であり,いわゆる夏風邪の多くはウイルス感染によって生じる。細菌との違いを正しく理解することで,無用な抗菌薬の投与を控えること(適正使用)が重要となる。加えて,夏場特有の,発熱に伴う脱水への配慮も欠かせない。日常診療のなかでの適切な診断と丁寧な患者指導が,肝要である。

引用文献

  1. 1)厚生労働省:抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 医科・外来編,2026
  2. 2)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:エンテロウイルス感染症,2026(https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/enteroviruses/index.html)
  3. 3)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:咽頭結膜熱,2025(https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/adenovirus/index.html)
  4. 4)菊田英明:ヒト・メタニューモウイルス.ウイルス,56:173-182,2006
  5. 5)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:急性呼吸器感染症サーベイランス週報;2026年第8週(https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idss/target-diseases/acute-respiratory-infection/weekly-report/index.html)
  6. 6)Do LAH, et al:Measles 2025. N Engl J Med, 393:2447-2458, 2025
  7. 7)国立健康危機管理研究機構 AMR臨床リファレンスセンター:感染症の基本;細菌とウイルス.未来に使える抗菌薬を残すため薬剤耐性(AMR)について学ぼう!,2025(https://amr.jihs.go.jp/general/1-1-2.html)
2026年7月号