オピオイドの「レアな副作用」を知る
──患者の苦痛を見過ごさないために
近年,がん治療の平均入院日数は短縮傾向にあり,通院治療を受ける患者数は右肩上がりに増加しています。2022年度には,働きながら通院治療を続ける患者は49.9万人となりました1)。また,在宅医療の推進もあり,外来治療・在宅治療での早期の緩和ケアの導入も進みんだことで緩和ケアに対するニーズが高まり,薬局では,院外・在宅医療でのオピオイド鎮痛薬の処方箋を応需する機会が増えています。
このようななか,オピオイドの三大副作用(悪心・眠気・便秘)ではなく,あえてそれ以外の副作用を取り上げた本特集の背景について,オーガナイザーの佐藤淳也先生(湘南医療大学薬学部)と山本泰大先生(小牧市民病院薬局)に伺いました。
三大副作用以外の副作用を知る
本特集では三大副作用である悪心・眠気・便秘以外の副作用をテーマに取り上げた理由を教えてください。
佐藤:オピオイドの三大副作用は,発現頻度も高く,臨床現場でも必ず症状が出ていないかをチェックします。書籍や雑誌などでも,確認すべき副作用として,必ず取り上げられていて,読者もよく知っているかと思います。
一方で,本特集で取り上げる三大副作用以外の副作用は,臨床研究の文献も少なく,成書でもあまり詳しく取り上げられることがありません。本特集ではこれらの三大副作用"以外の副作用"をオピオイドの「レアな副作用」とよんでいます。
しかし,「レアな副作用」のうち"せん妄"や"コリン作用(口渇)"など,一部の副作用の発現頻度は,決して低くありません。しかし,薬剤師だけでなく医療者全般的に,三大副作用にだけ着目し,それ以外の副作用はないと思っているのではないかというくらい,認識している人が少ないのが現状です。この認識の低さも,発現頻度にかかわらず,本特集で「レアな副作用」をテーマとすることにした理由の一つでもあります。
三大副作用以外の副作用症状に注意が払われていないことに,われわれは危機感を覚えています。
山本:まずは「レアな副作用」の存在を知ってもらう。知らなければ,病状の一つとして見過ごされてしまい,適切な対応がなされないといったことが起こります。しかし,「レアな副作用」の存在を知っていれば,「ひょっとしてこの症状は,オピオイドの副作用ではないか」と疑うきっかけになります。
まずは,さまざまな症状に隠れてしまう「レアな副作用」の存在を知ってもらい,副作用として気づいてもらうことが必要だと考えています。
佐藤:当該の症状が副作用かもしれないと思ったら,副作用かどうかの鑑別が必要となります。本特集「9 レアな副作用にどう立ち向かってゆくか」(p.77)や本誌1月号特集「副作用の早期発見と対応のコツ」でも解説していますが,通常,副作用の鑑別では,被疑薬の投与を中止・再投与して確認します。そして,副作用と判明すれば,被疑薬の投与中止,必要に応じて,機序の異なる同効薬への処方変更となります。
山本:一方で,オピオイドが被疑薬の場合,患者の不利益につながるため,確認のためにオピオイドを簡単に中止することはできません。しかし,投与を中止できないからといって,オピオイドの副作用かどうか確認できない,副作用症状への対応の手立てがない,ということではありません。
例えばオピオイドスイッチングを行う,疼痛緩和の別のアプローチ法と組み合わせてオピオイドを減量するなど,さまざまな手法をとることができます。
本特集では,三大副作用以外の「レアな副作用」を知ってもらい,その対応法も学んでいただきたいと思っています。
「レアな副作用」に気づくことの重要性
「レアな副作用」は,発現頻度が低くなくても認識されないことが多いそうですが,実際臨床の場で薬剤師にできることはなんでしょうか?
山本:小牧市民病院(以下,当院)では,病院薬剤師が外来患者に対するオピオイド導入支援活動を院外の本活動に賛同する薬局と協力して行っています2)(p.17)。本活動でカルテ記録を振り返った際,便秘や眠気などの比較的軽微な副作用記載が少なく,患者さんが医師に伝えていない,気づいた医療者も十分な情報共有をしていない可能性に気づきました。
私は患者さんから聞き取りをする際には,「レアな副作用」の症状も頭の片隅において,具体的に症状を尋ねるようにしています。われわれが実施した日本緩和医療薬学会員を対象としたアンケート調査3),4)において,「レアな副作用」についての能動的な説明や指導を行っていない施設が多いとの結果が出ています。そのため,患者さんに「レアな副作用」の症状が,薬の影響によるものだとは伝わっていないことが多く,別に薬のせいだと思っていないため,尋ねられた症状が発現している場合は,「そういえば…」と,思い当たる症状を教えてくれます。
薬剤師は,服薬指導やフォローアップの際に,必ず副作用かの確認をしますので,その際,具体的な症状を挙げて尋ねることで,副作用が軽微なうちから関わることができると,強く感じています。
佐藤:本特集では「レアな副作用」の症状を冒頭にイラストで紹介しています。読者の皆さんもここにある症状を念頭に置いて,服薬指導やフォローアップの際に具体的に尋ねると,患者さんも話しやすくなると思います。特に通院治療中や在宅医療患者では,家族や介護者に尋ねることも大切です。
私は,「レアな副作用」のうち,せん妄を中心に観察していましたので,病棟では,必ず夜勤の看護師などに,夜中の患者の様子を確認していました。というのも,せん妄は夜にしか出ないのです。認知症の症状と似通っていますが,せん妄は夜間にしか出ない。これは,せん妄の鑑別において大きなポイントです。そのため,通院治療・在宅医療の患者では,家族や介護者に,夜間の様子を確認することが重要となります。
詳しくは特集記事に譲りますが,せん妄は複数の因子が重なって発現するため,薬剤性であれば,被疑薬を中止すると改善することが多いです。しかし,発症してしまった場合は,原因除去と治療を行います。予防と治療の観点からも,因子を把握し,薬物治療について把握しておくことが望ましいです。
せん妄は夜間に出るため,ほとんどの薬剤師は発現していることを知りません。しかし,あらかじめ,副作用にせん妄があることを知っていれば,日ごろから看護師や家族などに,夜間の患者の様子を確認することができ,もし,発現した場合には早めに対応することができます。
このように「レアな副作用」について知っておくことは,患者の苦痛を除くうえで大変重要です。
「レアな副作用」は情報が少ない──添付文書以外の文献が重要
「レアな副作用」に介入するうえで,大変だったことは何でしょうか?
山本:若手薬剤師だった頃,手足がピクピクっと動く不随意運動を起こした患者を経験し,けいれんではなくミオクローヌスであることは理解できましたが,ミオクローヌスがオピオイドの副作用として報告されていることを認識しておらず,また,そのときの担当医や看護師も,同様に気づいていなかったことを覚えています。
その後,私は緩和ケアチームに参加するようになり,チームの一員として緩和ケアに従事するなかで,ミオクローヌスを発現するオピオイド投与中の患者さんに何度か遭遇しました。若手薬剤師時代と違い,それまでの病院薬剤師としての経験から,発現した症状(有害事象)が副作用である可能性を念頭に置いて活動していましたので,改めて,オピオイドの副作用としてのミオクローヌスの情報収集と対処法について調査を開始しました。その際,当院でオピオイド投与下でのミオクローヌス発現の実態調査が行われていなかったため,あわせて発現状況の調査もしました5)。
オピオイドを含め,当該患者さんに投与されている薬剤で,添付文書の副作用の項目にミオクローヌスと明確に記載があるものはありませんでしたが,振戦やけいれんなどの記載はみられました。さらに調べてみると,ヒドロモルフォンの添付文書では,副作用に頻度不明でミオクローヌスの記載があり,トラマドールやフェンタニルでは,併用禁忌・注意の項目に他剤との併用によりセロトニン症候群が発現し,その症状の一つとしてミオクローヌスが挙げられていました。ミオクローヌスとオピオイドの関連があることはわかりましたので,さらに論文を検索しましたが,副作用としての報告数は少なく困りました。
佐藤先生もおっしゃっていますが,成書にも副作用として記載されていても,その他の副作用とあわせて3行にまとまっている程度と,まったくフォーカスされていないのが,現状です。論文を検索しても,論文タイトルやアブストラクトにミオクローヌスだけでなく,他の「レアな副作用」の名称が出てくることも少なく,うまく検索できないため情報収集には苦労しました。
特にミオクローヌスは,発現頻度が低いため,臨床で発現している患者さんに出会うことも少なく,文献での情報が重要となってくるのですが…。
佐藤:実は,「レアな副作用」にフォーカスして調べた論文は国内外ともに少なく,どちらかというと,オピオイドの効果についての臨床研究の報告論文に,付随情報として「レアな副作用」の記載があることが多いのです。そのため,検索の方法に工夫が必要となってきます。上手に検索する方法については,特集記事で解説していますので,そちらを読んでいただければと思います。
山本先生がおっしゃっていたように,添付文書で副作用の項目に「レアな副作用」が記載されていることはほとんどありません。添付文書に記載されていないから,その副作用がないのではなく,"調べられていない"から,記載されていないということに留意していただきたいと思います。
山本:添付文書は疑うくらいの気持ちでいてほしいですね。「レアな副作用」に介入するようになって,さらに強く思います。オピオイドだけでなく他の薬剤でも,添付文書には記載されていないけど,現場ではよくみられる副作用症状があることは,読者の皆さんにも経験があると思います。
薬剤によっては,副作用症状の症例報告や論文投稿が増え,最終的には添付文書の改訂に至りますが,それまでは,症例報告や論文がよりどころとなります。
「レアな副作用」は,特に発現頻度が低いものもあります。緩和ケアを受ける患者さんの副作用という苦痛を除くためにも,本特集で「レアな副作用」とその対応法を知ってもらい,目の前の患者さんにそういった症状がでていないか,観察してほしいと思います。
佐藤:そして,読者の皆さんには,その経験を集めてもらい,症例報告をしていただきたいです。三大副作用は教科書にも掲載されているため,副作用モニタリングの必須項目となり,症例報告数も自然と増えます。しかし,「レアな副作用」は,注目されていない分,症例報告数も少ない。
読者の皆さんには,「レアな副作用」を発現した患者をみつけ,どのように対処したのか,症例報告を書いていただきたい。症例報告は,症例となった患者だけでなく,それを読んだ薬剤師が担当する患者も救うことになります。
引用文献
1)厚生労働省:がんに関する留意事項.事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン,pp27-31,2024
2)山本泰大,他:外来通院中のがん患者に対する緩和ケアチームスタッフによるオピオイド導入支援.Palliat Care Res,15:303-308,2020
3)山本泰大,他:オピオイド鎮痛薬を導入した外来がん患者に対する病院薬剤師の指導状況の全国調査.日本緩和医療薬学雑誌,15:91-99,2022
4)山本泰大,他:保険薬局薬剤師によるがん患者に対する医療用麻薬の指導実態の全国調査.日本緩和医療薬学雑誌,15:81-90,2022
5)Yamamoto Y, et al : Frequency of Myoclonus and its Countermeasures in Terminally Ill Patients with Cancer: A Single-Center Retrospective Study. J Pain Palliat Care Pharmacother, 38:117-122, 2024