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HPVワクチンの接種率と子宮頸がんの罹患の動向

ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種後の女子の多様な症状に関する報道を受け,2013年6月にHPVワクチンの定期接種としての「積極的勧奨」が一時差し控えられた。この影響で,日本の接種率は長期間低迷した。その後,専門家の評価を経て積極的勧奨の差し控えが終了し,2022年4月から個別通知による勧奨が再開され,キャッチアップ接種(1997~2007年度生まれ対象,期間限定の公費接種)も実施された。これにより,2022~2024年度の接種者数は増加した。しかし,世界保健機関(WHO)が子宮頸がん排除(Elimination)の目標1)として掲げる若年女性の接種率(15歳までに90%)には程遠い現状がある(図)。一方,HPVワクチンが2013年4月に定期接種となる以前に,緊急接種促進事業(国と自治体の費用補助)で接種を受けた世代がある。この世代は現在20代半ば~30代前半となっており,接種率は約70~80%に達している。

日本人女性における子宮頸がんの罹患は身体的・社会的負担が大きく,全国がん登録によれば直近の浸潤がん罹患数は約1万例,死亡者数は約3千人となっている2)。この背景には,欧米先進国に比べて子宮頸がん検診の受診率が低いこと(約40%)がある。また,検診受診者のデータ把握が不十分であること,検診未受診者や要精密検査の通知を受けても医療機関を受診しない女性に対するコール・リコールが徹底されていないこと──など,精度管理が適正になされていないことも,日本における効果的な子宮頸がん予防推進の妨げとなっている。

2024年度末までの日本のHPVワクチン累積接種率の推定

図 2024年度末までの日本のHPVワクチン累積接種率の推定
〔厚生労働省:第107回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会,令和7年度第3回薬事審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)資料を参考に作成〕

HPVワクチンの効果

2価・4価HPVワクチンの高い接種率(約80%)を維持してきた欧州の国々から,HPVワクチン接種世代の浸潤子宮頸がん減少がreal world dataとして示されている。スウェーデンでは17歳までの4価HPVワクチン接種により,約88%の浸潤子宮頸がんの減少効果があったと報告された3)。この疫学研究では,10~16歳で1回以上HPVワクチンを接種された女性では浸潤がんのリスクが88%減少,17~30歳での接種では浸潤がんのリスクが53%減少していた。

次いで,イングランドからも2価HPVワクチン公費接種によるHPVワクチン接種プログラムで,12~13歳でHPVワクチンを接種した女性では,浸潤子宮頸がんが87%減少したという結果が報告された4)。またデンマークでは,16歳までに4価HPVワクチンを接種した場合,接種者の浸潤性子宮頸がんが非接種者と比べて86%減少していた5)

これらの研究は2価・4価HPVワクチンによるものであるが,現在はより多くのHPV型をカバーする9価HPVワクチンが先進国を中心に普及しており,男女ともに接種対象とされている。日本でも4価・9価ワクチンによる男性への接種は可能だが,任意接種のため接種者数は著しく少なく,定期接種化が望まれている。

HPVワクチンと性交経験について

HPVワクチンの子宮頸がんに対する高い予防効果は,20歳までの接種で特に顕著である。一方,性交経験のある女性の比率が高いキャッチアップ接種世代では,効果が限定的であることも示されている。スウェーデン3)やイングランド4)の報告では,キャッチアップ接種でもある程度の有効性(約35~55%の子宮頸がんの減少)が示された一方で,デンマークの報告では,17~19歳での接種では子宮頸がんが68%減少したものの統計学的な有意差はなく,20~30歳の接種では減少効果は認められなかった5)

薬局・薬剤師にできることは何か

HPVワクチンの普及において,薬剤師には一般市民からの質問に正確な情報を提供し,不安や誤解を解く最前線の相談窓口としての役割が期待される。特に,かつて報道された多様な症状(痛み,倦怠感,起立困難など)は,国際的にも「HPVワクチンに特異的な副反応ではない」と評価されている点は重要である。なお,接種直後に生じる一過性の症状(めまい,失神,過呼吸など)の一部は,ISRR(予防接種ストレス関連反応)6)として説明される。ISRRとは,接種行為に伴う痛みや不安によって生じる一時的な反応で,ワクチン成分が原因ではない。

さらに,思春期女子や保護者に対して,ワクチンの意義が将来の子宮頸がん予防という長期的効果であることをわかりやすく伝え,接種機会を逃さないようアドバイスいただくことも期待する。

引用文献

1)WHO: Launch of the Global Strategy to Accelerate the Elimination of Cervical Cancer
https://www.iarc.who.int/featured-news/launch-of-the-globalstrategy-to-accelerate-the-elimination-of-cervical-cancer/

2)国立がん研究センター:がん種別統計情報 子宮頸部
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/17_cervix_uteri.html

3)Lei J, et al: HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer. N Engl J Med, 383: 1340-1348, 2020

4)Falcaro M, et al: The effects of the national HPV vaccination programme in England, UK, on cervical cancer and grade 3 cervical intraepithelial neoplasia incidence: a register-based observational study. Lancet, 398: 2084-2092, 2021

5)Kjaer SK, et al: Real-World Effectiveness of Human Papillomavirus Vaccination Against Cervical Cancer. J Natl Cancer Inst, 113: 1329-1335, 2021

6)McMurtry CM: Managing immunization stress-related response: A contributor to sustaining trust in vaccines. Can Commun Dis Rep, 46: 210–218, 2020

2026年2月号