痛みは"脳"で感じている
──疼痛のしくみ
国際疼痛学会(IASP)は,痛みを「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こり得る状態に付随する,あるいはそれに似た,感覚かつ情動の不快な体験」と定義している。この定義を理解することで,痛みの本質がみえてくる。
急性痛のメカニズム
身体にとって痛みは,生体防御のために必要な警告システムであり,刺激を受けると,侵害受容器の信号が脊髄を通って脳に伝わり,痛みが生じる。
まず,機械的,熱的,化学的な刺激によって侵害受容器が活性化されると,刺激は電気信号として一次感覚ニューロン(Aδ線維とC線維)を伝わる。これらの信号は脊髄後角まで伝わり,そこで神経伝達物質を介して二次感覚ニューロンに情報が引き継がれる。そして,脊髄を通過した信号はさらに上行し,最終的に脳の2つの領域(大脳皮質,大脳辺縁系)に到達する。これを上行伝導路とよぶ(図1)。
図1 痛みの機序 痛覚伝道路
〔山本達郎・編,他:麻酔科プラクティス7 痛み診療 All in One. 文光堂, 2022を参考に作成〕
侵害受容器の活性によって生じる痛みは侵害受容性疼痛,伝導路の病変によって生じる痛みは神経障害性疼痛に分類される。ただし,下行性疼痛抑制系とよばれる,脳に伝わった痛みを自ら抑えるシステムも存在する。痛みが認識されると,脳のさまざまな場所から脊髄に働きかけ,上行伝導路の一次感覚ニューロンからの信号や脊髄後角の興奮を抑えるのである。
痛み刺激が長期にわたると,疼痛感作という現象が生じ,通常なら反応しないような弱い刺激でも痛みとして感じやすくなる。これは,末梢神経で起こる末梢性感作や,脊髄などの中枢神経で起こる中枢性感作として知られており,痛みの慢性化につながると考えられている(図2)。
図2 疼痛感作
〔橋口さおり・監:運動・からだ図解 痛み・鎮痛のしくみ. マイナビ,p83, 2017を参考に作成〕
新たな痛みのメカニズム
2017年に国際疼痛学会(IASP)は,侵害受容性と神経障害性に分類されない,第3の分類として "nociplastic pain"(痛覚変調性疼痛)を提唱した。痛覚変調性疼痛の特徴は,明確な組織損傷や神経損傷がないにもかかわらず,痛みの知覚異常や過敏によって生じる疼痛とされている。
こうした新たなメカニズムが提唱された背景には脳科学による脳内ネットワークの解明が挙げられる。脳内の痛みネットワークの活動は可逆的に変調し,そのネットワークが痛みの原因となることがある。さまざまな種類の慢性痛患者において,痛みがない人と比べて,痛みのネットワークと情動や認知に関わるネットワークの結合強度の異常も示されている1)。今後さらに新たな脳の働きが解明され,治療法にもつながっていくと期待されている。
急性痛と慢性痛
ここまではメカニズムによる分類であったが,痛みは時間軸により急性痛と慢性痛に分類することもできる。
『慢性疼痛治療ガイドライン』2)では,慢性痛は3カ月以上持続する,または通常の治癒期間を超えて持続する痛みとし,急性痛と慢性痛の明確な違いを示している。また,痛みが長引くと,心理社会的な問題も関連し重症化する痛みの恐怖回避モデルもあわせて示している(図3)。痛みは我慢をせずに悪循環を断ち切ることが慢性痛の対応として重要ということである。
図3 痛みの恐怖回避モデル
〔「慢性疼痛診療システムの均てん化と痛みセンター診療データベースの活用による医療向上を目指す研究」研究班・監:慢性疼痛診療ガイドライン. 真興交易,p25, 2021/松岡紘史,他:心身医学, 47:95-102, 2007を参考に作成〕
おわりに
痛みは,まだその本質が捉えきれていない体験である。だからこそ,一人ひとりの痛みに寄り添い,要因や発生時期,心理社会的背景まで丁寧に見極め,薬物療法を含めた最適な対応をしていくことが,痛みからの回復への大切な一歩となる。
引用文献
- Ihara N, et al: Aberrant resting-state functional connectivity of the dorsolateral prefrontal cortex to the anterior insula and its association with fear avoidance belief in chronic neck pain patients. PLoS One, 14: e0221023, 2019
- 「慢性疼痛診療システムの均てん化と痛みセンター診療データベースの活用による医療向上を目指す研究」研究班・監:慢性疼痛診療ガイドライン. 真興交易, 2021