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GLP-1受容体作動薬をはじめとするインクレチン関連薬の登場により,肥満症治療は大きな転換期を迎えている。従来の食事・運動療法では困難だった大幅な減量が可能となった一方で,体重減少に伴う筋肉量の減少が新たな課題として浮上している。本稿では,第29回日本病態栄養学会年次学術集会 シンポジウム1「肥満症対策の実際」での議論をもとに,筋肉を維持しながら効果的に減量するための栄養・運動療法のポイントについてまとめる。

インクレチン関連薬がもたらした治療パラダイムの変化

2024年2月,セマグルチド(ウゴービ®)が肥満症治療薬として日本で保険収載され,約30年ぶりに肥満症の薬物療法に新たな選択肢が加わった。本剤はGLP-1受容体作動薬であり,脳の満腹中枢に作用して食欲を抑制し,胃排出を遅延させることで満腹感を持続させる。

国際共同試験(STEP試験)では,BMI 27以上の肥満症患者において,セマグルチド2.4mg週1回投与により68週後に平均12〜15%の体重減少が報告されている1)。日本人を含む東アジア人を対象としたSTEP 6試験でも,セマグルチド2.4mg群で13.2%の減量効果が示された2)

シンポジウムの基調講演で清野裕氏(関西電力病院総長)は,「従来の薬物療法では3〜8%程度の体重減少が限界だったが,インクレチン関連薬の登場により,外科手術に匹敵する減量効果が期待できるようになった」と述べ,治療の選択肢が広がったことを強調した。

大きな減量効果の裏に潜む「筋肉減少」の問題

一方で,清野氏は「体重が減れば脂肪だけでなく筋肉も減る。これが大きな問題だ」と警鐘を鳴らした。

実際,GLP-1受容体作動薬による減量では,総減量の15〜40%が除脂肪体重(LBM)の減少であることが複数の臨床試験で報告されている3)。STEP 1試験のサブ解析では,セマグルチド群の除脂肪体重減少は約6.9kg(減量の約40%)であった4)。また,米国糖尿病学会(ADA)の報告では,GLP-1受容体作動薬による総減量の15〜40%が除脂肪体重の減少であるとされている5)

筋肉量の減少は,基礎代謝の低下によるリバウンドリスクの増大,サルコペニアへの進展,生活の質(QOL)の低下など,多くの問題を引き起こす可能性がある。特に高齢者や糖尿病患者では,もともと筋肉量が低下していることが多く,さらなる筋肉減少は深刻な影響を及ぼしかねない。

筋肉を守るための栄養戦略

十分なタンパク質摂取量の確保

清野氏は,「高タンパク質食の推奨」が筋肉維持の基本であると述べた。減量中の筋肉維持には,通常の推奨量(0.8g/kg体重/日)を上回るタンパク質摂取が必要である。

欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)のガイドラインでは,減量中の筋肉維持のために1.2〜1.6g/kg体重/日のタンパク質摂取を推奨している6)。GLP-1受容体作動薬使用中の患者においても同様の推奨が適用され,体重70kgの患者であれば84〜112g/日のタンパク質摂取が目安となる。

タンパク質は「3食均等」がカギ

清野氏が特に強調したのは,タンパク質の「摂取タイミング」である。「筋肉は食後に合成され,空腹時に分解される。1日の総量だけでなく,3食に分けて摂取することが重要だ」と述べた。

この指摘は,科学的エビデンスに裏づけられている。Mamerowらの研究では,同じ総タンパク質量(約90g/日)を摂取する場合でも,3食に均等に分けて摂取した群は,夕食に偏った摂取パターンの群と比較して,24時間の筋タンパク合成が約25%高かったと報告されている7)

この背景には,筋タンパク合成を最大化するために必要なロイシン閾値(約2.5g/食)の存在がある8)。朝食でタンパク質が不足すると,この閾値に達せず筋タンパク合成が十分に刺激されない。日本人の食事パターンでは朝食のタンパク質摂取が少ない傾向があり,意識的な改善が必要である。

具体的には,各食事で20〜30gのタンパク質を摂取することが推奨される。朝食にタンパク質が不足しがちな患者には,卵,ヨーグルト,納豆などを追加するよう指導することが有効である。

表1 減量中のタンパク質摂取のポイント

・1日のタンパク質摂取量:1.2〜1.6g/kg体重/日(ESPENガイドライン)

・各食事で20〜30gのタンパク質を摂取(3食均等に分配)

・ロイシン閾値(約2.5g/食)を意識した食品選択

・朝食のタンパク質不足に注意(卵,ヨーグルト,納豆などの追加を推奨)

〔編集部作成〕

食後のインスリン分泌と筋タンパク合成

清野氏はまた,「食後のインスリン分泌が筋タンパク合成に重要である」と指摘した。インスリンはアミノ酸の筋肉への取り込みを促進し,筋タンパク合成を活性化する。そのため,「タンパク質を含むおかずを先に食べ,インスリン分泌を早めに促すことが筋肉維持に有効」との見解を示した。

GLP-1受容体作動薬はインスリン分泌を促進する作用があるため,食後の筋タンパク合成を補助する可能性がある。しかし,食欲抑制作用により食事量が減少するため,タンパク質摂取量の確保には意識的な取り組みが必要となる。

運動療法の役割は「体重減少」ではなく「体力向上」と「筋肉維持」

本田寛人氏(四條畷学園大学)は,肥満症患者における運動療法について講演したなかで「"運動しても体重はなかなか減らない"という患者さんの言葉をよく聞くと思うが,実際に肥満症診療ガイドライン2022でも体重減少は運動療法の主目的になっていない」と述べた。肥満症診療ガイドライン2022では「運動療法は『体重減少』ではなく『死亡リスク・心血管疾患リスクの低下』および『減量後の体重維持』に有用」とされている9)。本田氏は「たとえ運動で体重が減らなくても,しっかりと運動で体力を高めることが大切」と述べたうえで,標準体重でも体力の低い人よりも,肥満であっても体力の高い人のほうが死亡・心血管リスクが低かったとするメタ解析を紹介した。すなわち,肥満症治療においては体重を減らすだけでなく,体力を維持・向上させるという視点が欠かせない。

そこで,減量中の筋肉量維持が重要となるが,そのためにはレジスタンス運動(筋力トレーニング)が不可欠であると強調した。国際スポーツ栄養学会(ISSN)のポジションステートメントでは,20〜25gのタンパク質摂取と組み合わせたレジスタンス運動が,筋タンパク合成を最大化すると報告されている10)

本田氏は,「肥満患者は運動習慣がないことが多い。いきなり激しい運動を勧めても続かない。まずは日常生活での活動量を増やすこと,例えば階段を使う,少し遠くに駐車するといった小さな変化から始めることが重要」と述べた。また,「運動を毎日行う場合」と「週末にまとめて行う場合(いわゆるWeekend Warrior)」とで,同じ運動量であれば死亡リスクの低減効果に差がないとする報告を紹介したうえで,1回1〜数分程度の短い運動を1日のうちに何回か行うエクササイズ・スナックなど,患者の性格やライフスタイルにあわせた運動習慣の構築が重要だと強調した。

表2 運動療法のポイント

項目 内容
運動療法の主目的 死亡リスク・心血管疾患リスクの低下,および減量後の体重維持
筋肉維持の運動 レジスタンス運動(筋力トレーニング)が不可欠
運動頻度 毎日でも週末まとめてでも,同じ運動量であれば効果に差がない
導入のポイント 日常生活での活動量増加(階段利用など)から開始,エクササイズ・スナックの活用

〔編集部作成〕

薬剤師への示唆

今回のシンポジウムの内容を踏まえ,薬剤師に求められる役割を整理する。

1)筋肉減少リスクを「理解する」

インクレチン関連薬は手術に匹敵するほどの減量効果がある一方,筋肉減少のリスクも伴うことを理解しておく必要がある。また,前述のとおり標準体重であっても体力が低ければ肥満者以上に健康リスクが高まるとの報告もある。「筋肉量と体力を維持しながら体重減少を目指す」という意識をもって患者と向き合うことが重要である。

2)患者に「気をつけるべきこと」を伝える

薬剤の随伴現象によって筋肉が減少するリスクがあること,筋肉の減少が肥満そのものよりも健康上のリスクとなりうることなど,薬学的な視点からも食事・運動の重要性を伝える必要がある。

3)運動指導の「正しい伝え方」

前述のとおり運動療法の目的は減量ではない。したがって,患者に「運動して体重を減らしましょう」という声かけはエビデンスに基づかず,結果が伴わないと患者のモチベーション低下にもつながりかねない。運動の主な目的は「死亡・心血管リスクの低下」と「減量後の体重維持」であることを伝えるとともに,週末にまとめて運動するだけでも効果があるとされるなど,患者個人にあわせた運動メニューを考えていくことが重要である。

4)定期的なモニタリングの重要性

体重だけでなく,体組成(筋肉量・体脂肪率)の変化にも注意を払う必要がある。特に急激な体重減少や体組成の変化が認められた際には,主治医や管理栄養士との連携が必須といえよう。

5)患者の状況を薬学的視点から把握し,他職種と連携する

ウゴービ®の処方要件として,2カ月に1回以上の管理栄養士による栄養指導が求められている。薬剤師としても栄養指導の状況を把握し,患者の体重,食事や運動の状況などを把握したうえで筋肉減少に注意を払い,必要に応じて管理栄養士と積極的に連携していくことが求められる。

表3 薬剤師に求められる5つの役割

・筋肉減少リスクの理解:減量の15〜40%が除脂肪体重の減少であることを認識

・患者への情報提供:筋肉減少のリスクと食事・運動の重要性を薬学的視点から説明

・運動指導の正しい伝え方:「体重減少」ではなく「体力向上・リスク低下」を目的として伝える

・体組成のモニタリング:体重だけでなく筋肉量・体脂肪率の変化にも注意

・多職種連携:管理栄養士と連携し,栄養指導の状況を把握する

〔編集部作成〕

おわりに

インクレチン関連薬の登場は,肥満症治療に大きな進歩をもたらした。しかし,「痩せればよい」という単純な話ではなく,いかに筋肉を維持しながら脂肪を減らすかが重要な課題となっている。

「新しい薬物療法に対応した栄養・運動療法のあり方を確立していく」という動きを薬剤師も理解し,患者の健康的な減量をサポートする役割を果たしていくことが求められる。

(文・「調剤と情報」編集部)

引用文献

1)Wilding JPH, et al: Once-weekly semaglutide in adults with overweight or obesity. N Engl J Med, 384: 989-1002, 2021

2)Kadowaki T, et al: Semaglutide once a week in adults with overweight or obesity, with or without type 2 diabetes in an east Asian population (STEP 6): a randomised, double-blind, double-dummy, placebo-controlled, phase 3a trial. Lancet Diabetes Endocrinol, 10: 193-206, 2022

3)Neeland IJ, et al: Changes in lean body mass with glucagon-like peptide-1-based therapies and mitigation strategies. Diabetes Obes Metab, 26: 2284-2297, 2024

4)Heymsfield SB, et al: Muscle Mass and Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonists: Adaptive or Maladaptive Response to Weight Loss? Circulation, 150: 1276-1288, 2024

5)American Diabetes Association: New GLP-1 Therapies Enhance Quality of Weight Loss by Improving Muscle Preservation. ADA Press Release, 2025

6)Deutz NE, et al: Protein intake and exercise for optimal muscle function with aging: recommendations from the ESPEN Expert Group. Clin Nutr, 33: 929-936, 2014

7)Mamerow MM, et al: Dietary protein distribution positively influences 24-h muscle protein synthesis in healthy adults. J Nutr, 144: 876-880, 2014

8)Layman DK: Impacts of protein quantity and distribution on body composition. Front Nutr, 11: 1388986, 2024

9)日本肥満学会・編: 肥満症診療ガイドライン2022. ライフサイエンス出版, 2022

10)Jäger R, et al: International Society of Sports Nutrition Position Stand: protein and exercise. J Int Soc Sports Nutr, 14: 20, 2017