第35回日本医療薬学会年会 シンポジウム18レポート
心不全×不整脈診療の死角
~薬剤師が今知っておくべき最新の知識と求められる役割~
心不全患者は不整脈を合併しやすく,その治療には慎重な判断が求められる。両者の病態は複雑に関連しており,薬剤師には薬物療法の最適化,患者教育,チーム医療での連携など多様な役割が期待されている。しかし,病院と薬局での関わり方を議論する機会は少ないのが現状だ。
2025年11月22日,第35回日本医療薬学会年会のシンポジウム18「心不全×不整脈診療の死角~薬剤師が今知っておくべき最新の知識と求められる役割~」では,この課題に対する最新のエビデンスと実践的アプローチが議論された。座長を務めたJCHO九州病院薬剤部の吉国健司 氏と豊橋ハートセンター薬局の芦川直也 氏は,「最新の知識を整理し,実践的アプローチを通じて,心不全患者の予後改善に貢献する方法を明示したい」と開会の挨拶で述べた。
登壇したのは,小倉記念病院 循環器内科の高麗謙吾 氏,春日部中央総合病院 薬剤部の南部広夢 氏,東京慈恵会医科大学附属柏病院 薬剤部の中川隼一氏,日産厚生会玉川病院 医療技術部薬剤科の大舘祐佳 氏,日本医科大学付属病院 薬剤部の岩出佳樹氏の5名。それぞれ医師,病院薬剤師の立場から,心不全と不整脈診療における薬剤師の役割と実践について講演が行われた。
ここでしか聞けない心不全と不整脈の授業
高麗氏は冒頭,『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』1)の要点を解説した。特にガイドライン内の“図24”のアルゴリズムに注目し,「心不全といえば4剤が基本」と強調(図)。ファンタスティック4(Fantastic Four)と呼ばれるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA),β遮断薬,SGLT2阻害薬,アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)の併用が,左室駆出率(EF)40%以下の心不全患者の予後を大きく改善することを示した。
図 心不全治療のアルゴリズム
〔日本循環器学会・他:2025年改訂版 心不全診療ガイドライン. p64, 2025より〕
GDMT(ガイドライン指示薬物療法)の重要性
GDMTとは,ガイドラインで推奨される薬物療法を指し,心不全においては前述のファンタスティック4の併用療法がこれに当たる。高麗氏は「4剤併用の効果は非常に大きい。それぞれの治療効果は独立しており,少量でも併用することで予後を改善する」と,GDMTの高い有効性を強調した。
しかし,リアルワールドデータでは治療中止率が高く,目標用量に達していない患者も多いという課題を指摘。「心不全患者とは一生関わる必要がある。目の前で元気であっても,大切な薬を続けていくこと,安易に中止しないことが重要だ」
この課題に対し,高麗氏は「心不全療養指導士など多職種で介入すると,GDMTの導入率が上がり,目標用量の達成率が上がることが国内外のデータで示されている。常に全身状態の変化に応じて見直し,適切な薬物療法を意識することが必要であり,薬剤師との協力が不可欠だ」と,チーム医療の重要性を強調した。
薬剤師の役割とアドヒアランス支援
高麗氏は「心不全治療において,処方された薬を患者が実際に飲み続けることが何より重要だ。デジタルツールや一包化などの工夫で服薬継続を支援する薬剤師は,心不全診療の要である」と強調した。
また,急性増悪による入院時には,心不全治療薬を減量・中止せざるを得ない場合があり,減量・中止されたまま退院ということも少なくないとしたうえで,「退院後は速やかに心不全治療薬を再開・増量することが望ましいが,主治医が対応してくれないこともある。その際,薬剤師から患者に循環器科への相談を促していただくことが,適切な治療再開につながる」と,薬剤師による橋渡し的役割への期待を述べた。
腎機能低下例でのGDMT継続とARNI導入のコツ
腎機能が低下している心不全患者,あるいは治療中に腎機能が悪化してきた場合について,高麗氏は「心不全治療が優先。心不全が悪化すること自体が腎予後を悪くする」と強調した。
心臓と腎臓は互いに影響し合う「心腎連関」と呼ばれる関係にある。近年の研究では,静脈うっ血(下大静脈圧上昇)が腎機能障害に強く関与することが明らかになっており,心不全が進行すれば,結果的に腎機能が低下する。つまり,腎機能を守るために心不全治療薬を減量・中止してしまうことは本末転倒なのである。
高麗氏は急性腎障害(AKI)の場合はさすがに減量が必要であるが,クレアチニンが徐々に上昇している程度であれば,心不全治療を優先すべきとの考えを示した。
特にARNIは,ARB作用とナトリウム利尿ペプチド増強作用により降圧効果が強いため血圧低下が懸念される。高麗氏は「利尿薬を減らしておくと導入しやすい。BUN上昇時は脱水傾向にあるため,この状態でARNIを入れると血圧低下により継続が困難になる。早めの導入が良い」と実践的なコツを紹介。「利尿薬を減らしてでもARNIを導入する」という積極的な姿勢の重要性を強調した。
不整脈管理の最新知見:GDMTの重要性
高麗氏は,GDMTが心不全の予後改善だけでなく,不整脈予防にも重要な役割を果たすことを強調した。「GDMTは心室性不整脈だけでなく,心房細動も減らしてくれる。まずはしっかり心不全治療を行うことが不整脈予防につながる」と述べた。
また,ジゴキシンについて,従来は使用頻度が減少していたが,近年HFrEF(左室駆出率低下型心不全)において再評価されていることを紹介した。ジゴキシンは生命予後を改善しないものの,心不全入院を抑制する効果があり,β遮断薬が禁忌の場合や頻脈性心房細動のレートコントロール目的に使用される。
カリウム管理については,RCTで4.5~5.0 mEq/Lに管理すると不整脈が減少することが示されていると述べた。低カリウム血症では心室性不整脈のリスクが高まる一方,高カリウム血症は致死性不整脈の原因となるため,適正範囲の維持が重要となる。
心房細動の非薬物療法として注目されるカテーテルアブレーション(カテーテルを用いて心房細動の発生源となる肺静脈周囲を焼灼する治療)については,「従来は数時間を要していた肺静脈隔離が,現在は30分程度で終わる時代になっている」と,技術の飛躍的進歩を紹介。一方で「アブレーションをしても心房細動は完治するわけではなく,合併症リスク管理が重要」と述べ,薬物療法を含めた長期的な管理の必要性を強調した。
緩和ケアの視点とMatters Most
講演の最後に,高麗氏は緩和ケアの重要性に触れた。「すべての心不全患者に,QOL改善と苦痛軽減のための支持的ケアを提供すべき」とガイドラインを引用し,「患者のニーズを評価することが重要。患者が何に困っているか,自ら訴えないこともあるし,自覚していないこともある」と指摘した。
そのうえで,「Matters Most(その人にとって最も大切なこと)という概念がある。良い医療は必ずしも4剤すべてを使うことではない。エビデンスに基づく標準治療を理解したうえで,その患者にとって何が最善かを考えることが重要だ」と強調した。
また,患者との何気ない会話の重要性について,印象的なエピソードを紹介した。ある研修医が『犬の散歩中に胸痛が出現し,救急搬送された心筋梗塞患者』として前日に搬送された患者の報告をしたところ,指導医から「犬の名前は?」と問われた。朝のカンファレンスで予想外の質問を受けた研修医は戸惑ったそうであるが,指導医には深い狙いがあった。
それは,患者が何気なく話してくれる一見些細な情報(例えば,犬の名前や散歩のルーティン)こそが,その患者にとって何が大切なのかを教えてくれるということである。それがわかれば,「この薬を飲まないと散歩に行けなくなる」といったかたちで服薬の意義を説明できるし,逆に「犬の世話があるから入院は避けたい」といった医療を阻害する要因もみえてくる。薬剤師が患者との日常的な対話のなかで得る情報は,患者中心の医療を実現するうえで極めて重要であり,そのちょっとした会話が治療の成否を分けることもあるのである。
総合討論:実践での課題と多職種連携
シンポジウム後半では,4名の演者による総合討論が行われ,臨床現場での具体的な課題について活発な議論が展開された。
アブレーション後の抗不整脈薬管理
アブレーション後の抗不整脈薬継続期間について質問が出された。高麗氏は「アブレーション直後は心房に炎症が起きているため,一時的に不整脈が出やすい。そのため半年~1年程度は抗不整脈薬を継続するが,長期的な再発率でみると,薬を飲んでいても飲んでいなくても同じ。薬は発作を一時的に抑えるだけで,アブレーションの成功率自体には影響しない」と説明。「アブレーションの効果がどの程度得られているかを評価するには,薬を中止して観察する必要があるため,基本的には半年~1年で中止している」と回答した。一方で「心不全患者で心房細動により容易に増悪する場合は,アブレーションの効果評価よりも心不全予防が優先。超低用量アミオダロン(50mg/日)での継続もあり得る」と述べた。
岩出氏は超低用量アミオダロンについて補足した。「50mg/日でも心房細動に対する抑制効果があるという報告が出てきている。患者ごとの最小有効量を見極めることが重要」と述べた。また,副作用リスク評価について「肝線維化マーカーであるFIB-4高値,FIB-5低値の患者で副作用発症割合が高かった。導入前にこれらを測定しリスクを層別化することで,より安全な導入が可能になる。副作用発症は7カ月以内が多いため,特に導入後半年は定期的なモニタリングが重要」と説明した。さらに「100~200mg/日では有害事象発生率17%,100mg/日では11%という報告があり,低用量ほど副作用が少ない。超低用量が重症化リスクを下げる可能性もある」と述べ,FIB値が問題なければ50mg以上を選択し1カ月ごとの,リスクが高い場合は50mg/日を上限として3カ月以上のより慎重なモニタリングを推奨した。
電解質管理と心臓リハビリテーション
電解質管理について,南部氏は実践的な観点から解説した。「心不全患者はカリウムを上げる薬を多数併用しているため高カリウム血症のリスクがある。一方,食事摂取不良時には低カリウム血症になりやすい。患者に早めの受診を促すことが重要」と述べた。
低マグネシウム血症の補正については,「理想は時間をかけた投与だが実際は難しい。硫酸マグネシウム50~100mLを1時間程度で投与する方法を提案している」と実践的なアドバイスを行った。
中川氏は心臓リハビリテーションにおける薬剤師の役割を説明した。「運動開始時の心拍数や血圧を確認し,低値であれば水分摂取を促す。心拍数の増加度合いも重要な指標」と述べた。β遮断薬については「HFrEF患者では心不全治療薬として非常に重要だが,HFpEF患者でレートコントロール目的の場合は,レートの状況に応じて減量することもある」と使い分けを強調した。また,薬剤性の徐脈など副作用への注意や,患者への服薬指導の重要性にも言及した。
外来での患者教育と療養支援
大舘氏は外来での不整脈患者管理について解説した。「血圧測定時に脈拍も確認していただくことが重要。心房細動では脈が飛ぶ感じやフラツキ,頻脈症では動悸などの自覚症状があれば,次回受診を待たずに連絡するよう指導している」と述べ,早期発見・早期対応の重要性を強調した。また,生活習慣改善を含めた総合的なアプローチの必要性にも言及した。
透析患者への抗凝固療法
透析患者の心房細動に対する抗凝固療法について質問が出された。高麗氏は「現在のガイドラインでは原則禁忌となっている。以前は循環器領域ではワルファリンを入れるべきとされていたが,透析学会の見解と一致する形になった」と説明。ただし「心原性脳塞栓症の既往や機械弁がある場合など,出血リスクより血栓リスクが高い場合は使用する。左心耳閉鎖術という非薬物療法も選択肢になる」と補足した。
有効性モニタリングの考え方
抗不整脈薬の有効性をどうモニタリングするかという質問に対し,南部氏は「何のために飲んでいるかが最も重要」と強調した。「動悸抑制が目的なら,患者の動悸がなくなれば有効。心拍数や心電図も参考にするが,患者の自覚症状が最も大切な指標となる。病名や検査値だけでなく,なぜその薬を使っているのかという目的を常に意識することで,継続・中止の判断もしやすくなる」と述べた。
高麗氏も「その通り。医師が説明したから良い,薬剤師が説明したから良いということではなく,繰り返し伝えていくことが重要。患者が薬の目的を理解し,自分にとって必要だと納得できてはじめて,長期的な服薬継続が可能になる」と応じた。
薬剤師による情報共有の工夫
岩出氏は,退院時の情報共有ツールとして「心不全薬剤管理サマリー」を紹介した。「患者のお薬手帳に添付している。ファンタスティック4が導入できていない理由,用量調整の経緯,注意すべき副作用などを記載し,薬局薬剤師や外来医師と情報を共有している。これにより,外来や薬局でも継続的な支援がしやすくなる」と実践例を示した。
まとめ:常に見直す心不全×不整脈診療での薬剤師の役割
本シンポジウムでは,心不全と不整脈診療における薬剤師の多角的な役割が示された。GDMTの徹底とアドヒアランス支援,電解質管理の重要性,心臓リハビリテーションでの介入,外来での患者教育,アミオダロンのリスク層別化と超低用量の活用——これらを通じて,薬剤師が患者の予後改善に大きく貢献できることが明らかになった。
高麗氏が述べた「常に見直す医療」という言葉は,これからの心不全診療における薬剤師の姿勢を端的に表している。全身状態の変化に応じて薬物療法を最適化し続けること,患者のニーズを把握し生活の視点を持つこと,そして他職種と連携しながらチーム医療を実践すること——これらが薬剤師に求められる役割だ。
「何のために薬を飲むのか」という本質を常に意識し,エビデンスと患者の価値観を両立させながら,継続的な支援を行うことが重要である。本シンポジウムで示された知識と実践例は,明日からの臨床に活かせる具体的な指針となるだろう。
引用文献
- 日本循環器学会・他:2025年改訂版 心不全診療ガイドライン. 2025