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パーキンソン病(PD)と聞いて「パンデミック」を連想する人は,まだ多くないかもしれない。だが数字は雄弁だ。Dorseyらの2018年の報告によれば,1990年から2015年の25年間で世界のPD患者数は600万人超へと倍増したと推計されている1)。さらに同著者らが2025年に引用したGlobal Burden of Disease Study 2021のデータでは,2021年時点の患者数は約1,200万人と推計され,わずか6年でほぼ倍増した計算になる2)

1817年,ジェームズ・パーキンソンがわずか6症例の振戦麻痺を報告してから約200年。かつて「まれな疾患」だったPDは,いまや世界で最も急速に増加する神経変性疾患となった。高齢化,長寿命化,農薬を含む環境因子と,複数の要因が絡み合い,患者数はなお増え続けている。

第99回日本薬理学会年会(2026年3月17日)クスリがわかるシリーズ3「中枢神経系」では,座長の山口拓先生(長崎国際大学薬学部)のもと,小原祐太郎先生(山形大学医学部)がパーキンソン病(PD)の病態と薬物療法の全体像を基礎薬理学の立場から概説し,伊関千書先生(東北大学大学院医学研究科)が臨床医の視点から処方設計の実際を紹介した。本稿では両講演のエッセンスを紹介する。

運動症状の20年前から始まっている病気

小原先生はまず,PDの病態の全体像を整理した。PDの中核病態は,中脳黒質緻密部のドパミン神経細胞の変性である。黒質から線条体へのドパミン投射が減少することで,動作緩慢(ブラディキネジア),筋強剛,安静時振戦,姿勢反射障害といった運動症状が出現する。

ただし,PDが「運動障害の病気」にすぎないという理解は,もう古い。運動症状の出現を0年とすると,その約20年前から便秘が,約10年前からレム睡眠行動異常症(RBD)などの非運動症状が先行することがわかってきた3)

病理学的には,α-シヌクレインを主成分とするレビー小体が嗅球や腸管神経系に発生し,上行性に脳幹へと伝播するとする仮説が有力である。スウェーデンで行われた胎児中脳組織のPD患者への移植例では,移植片にもレビー小体が観察されたことが,この伝播仮説を支持する根拠の一つとなっている4)

つまりPDとは,診断のはるか前から全身で進行し,運動症状はその氷山の一角にすぎない疾患なのである。

薬物療法の全体像

小原先生は「(PD治療薬は)ドパミン系と非ドパミン系に大きく分けることができる」として,薬物療法の全体像を整理した。PDの薬物療法は多彩で,作用機序の異なる薬剤を,個々の患者の症状と病期に応じて組み合わせて使う。まずは全体像を俯瞰しておきたい(表1,2)。

中心となるのはレボドパであるが,末梢で芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)やカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)により分解されてしまう。そのため,AADC阻害薬〔ドパ脱炭酸酵素阻害薬(DCI)〕,COMT阻害薬,モノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬との併用が基本となる。さらに,ドパミン受容体を直接刺激するアゴニストや,ドパミン遊離を促進するアマンタジンなどもドパミン系の選択肢に加わる。一方,ゾニサミドやアデノシンA2A受容体拮抗薬,中枢性抗コリン薬など,ドパミン系とは異なる経路から運動症状にアプローチする薬剤群も重要な役割を担っている。

表1 ドパミン系関連薬

分類 主な薬剤 作用機序のポイント 注意すべき副作用・留意点
レボドパ(L-ドパ) レボドパ/カルビドパ配合剤,レボドパ/ベンセラジド配合剤 ドパミン前駆物質。血液脳関門(BBB)を通過し,脳内でAADCによりドパミンに変換 長期投与でwearing-off,ジスキネジア。急激な減量・中止で悪性症候群のリスク。閉塞隅角緑内障に禁忌
AADC阻害薬(DCI) カルビドパ,ベンセラジド 末梢でのレボドパ→ドパミン変換を抑制し,脳内移行率を向上 レボドパとの合剤として使用。AADC阻害薬自体はBBBを通過しない
COMT阻害薬 エンタカポンなど 末梢でのレボドパ→3-O-メチルドパへの代謝を抑制 レボドパの作用延長。3-O-メチルドパはレボドパの脳内移行も阻害するため,その抑制は合理的
MAO-B阻害薬 セレギリン,ラサギリンなど 脳内でのドパミン分解を抑制 セレギリンはアンフェタミン系代謝物に注意。抗うつ薬との併用禁忌
ドパミン受容体アゴニスト 非麦角系:プラミペキソール,ロピニロールなど
麦角系:カベルゴリンなど
ドパミンD2受容体を直接刺激。現在は非麦角系が主流 非麦角系:突発的睡眠,衝動制御障害に注意
麦角系:心臓弁膜症のリスク
ドパミン遊離促進薬 アマンタジン シナプスからのドパミン遊離促進。NMDA受容体拮抗作用も ドパミン神経が完全に変性すると無効。NMDA受容体拮抗作用により,ジスキネジアにも有効

表2 ドパミン賦活・非ドパミン系複合作用薬

分類 主な薬剤 作用機序のポイント 注意すべき副作用・留意点
ゾニサミド トレリーフ チロシン水酸化酵素の発現促進,MAO-B阻害作用など複合的 抗てんかん薬からのリポジショニング。運動症状改善とwearing-off短縮
アデノシンA2A受容体拮抗薬 イストラデフィリン 線条体のアデノシンA2A受容体を遮断し,ドパミンD2受容体と拮抗的なバランスを回復 Wearing-offの改善に使用
中枢性抗コリン薬 トリヘキシフェニジルなど 線条体のコリン作動性神経の過活動を抑制 振戦に有効とされるが,認知機能障害・幻覚・せん妄のリスクが高い。高齢者には慎重投与
ノルアドレナリン前駆物質 ドロキシドパ AADCによりノルアドレナリンに変換 すくみ足や起立性低血圧に有効。PDではノルアドレナリン系も障害される

処方設計の実際:何を,なぜ選ぶのか

PDの薬剤は種類が多い。処方箋を受け取る薬剤師にとって,「医師はなぜこの薬を選んだのか」という処方設計の思考プロセスを理解しておくことは,患者への説明や副作用モニタリングの精度を高めることにつながる。後半の伊関先生は「今使える薬で,臨床ではこのように処方している」という立場から,2つの仮想症例を提示した。

ケース1:不安が強く午前中に動けない77歳女性

発症2年,レボドパ/DCI配合剤300mg/日を1年ほど使用中。主訴は午前中の動作緩慢(wearing-off)と,それに伴う強い不安である。

この患者では,まず「なぜ午前中に動けないのか」という病態の整理が出発点となる。すなわち,レボドパの血中濃度が治療域を下回っているoff時間が午前中に集中していると考えられる。レボドパの効果の「量」か「持続時間」,あるいはその両方が不足している可能性があることから,選択肢として浮上するのは,表3に示すような薬剤である。

一方,ドパミンアゴニストやイストラデフィリンがここで選択肢に挙がらなかったのは,レボドパを軸とした戦略のほうが運動症状の改善効果が強く即効性も高いためである(しかし,これらも間違いではない)。不安が強く早期に症状改善を実感してもらいたい患者では,まず確実性の高い手段を優先するという判断になりやすい。

また,MAO-B阻害薬については,PD患者の抑うつ症状を改善する可能性が一部の臨床試験で示唆されている5)。効果の持続性や再現性にはなお議論があるものの,不安・抑うつを伴う患者では,運動症状と気分の両方にアプローチできる可能性があるという点で,薬剤選択の際に考慮に値する。こうした付加的な薬理作用まで視野に入れた薬剤選択が,PD処方設計の特徴の一つといえるだろう。

表3 薬物治療の選択肢

選択肢 期待される効果 この患者での判断ポイント
レボドパの増量 運動症状の直接的な改善。効果の確実性が最も高い パーキンソン病診療ガイドライン2018でもレボドパの過度な抑制は運動症状の増悪につながりうると注意喚起されている。不安が強い患者には早期に「動ける」実感を得てもらうことが重要
ゾニサミド追加 運動症状改善+ウェアリングオフ短縮 幻覚・妄想・衝動制御障害を悪化させにくい。副作用プロファイルの良さが大きな利点
MAO-B阻害薬追加 レボドパの効果延長,off時間の短縮 1日1回製剤が登場し服薬負担が軽い。抑うつ症状の改善を示唆する報告もあり,不安の強い患者では付加的利点となる可能性がある
COMT阻害薬追加 レボドパの効果延長,off時間の短縮 MAO-B阻害薬と同様にoff時間の短縮が期待できる

〔日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018(https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson_2018.html)/Barone P, et al: Eur J Neurol, 22: 1184-1191, 2015を参考に作成〕

ケース2:「変わりない」と答える80歳男性

振戦を主訴とする80歳男性。前回の受診時に薬剤を追加したが,本人は「変わりないですね」と答える。しかし,医師が診察すると,振戦は減少しており,同伴の妻は「良くなったじゃないの。」と述べた。

PD患者は思考の緩慢さ(ブラディフレニア)を伴うことがあり,以前と現在の自分を比較して状態を言語化すること自体が難しい場合がある。加えて,医師の前では症状を控えめに伝える傾向も指摘されており,PD患者の「変わりない」という言葉を額面どおりに受け取れないケースがあることは押さえておきたい。

この患者でより問題だったのは,中枢性抗コリン薬の追加後に夜間の幻視が出現していたことである。本人に自覚はなく,同伴した妻から「夜中に誰か来たと言っている」との情報で初めて明らかになった。中枢性抗コリン薬は振戦に有効とされる一方,PD治療薬の中でも幻覚・せん妄のリスクが特に高い。高齢者では本人に病識がないまま進行することがあり,本人だけの問診では見逃されやすい副作用である。

結果的に,この患者では抗コリン薬を減量・中止し,「振戦は一部諦める」という方針に切り替えられた。すべての症状をゼロにすることではなく,ADL(日常生活動作)の維持とリスクのバランスを取ることこそが,PD薬物療法の現実的なゴールといえるだろう。

薬局の窓口だからこそ拾える情報がある

PD患者は動作も思考も緩慢になりやすく,限られた診察時間の中で困りごとを十分に伝えきれないことが多い。また,ケース2のように本人に自覚のない副作用が進行していることもある。

レボドパの効き目はどのくらい持続しているか。「動けない時間帯」はいつか。夜間に普段と違う言動はないか。こうした情報を日常的に拾い上げ,処方医にフィードバックできるのは,薬局の窓口ならではの強みである。

パーキンソン・パンデミックの時代,PDの薬物療法は作用機序の異なる多数の薬剤を患者ごとに使い分ける精緻な営みである。だからこそ,患者に最も近い場所に立つ薬剤師の目と耳が,処方の最適化に果たす役割は大きい。

引用文献

  1. 1) Dorsey ER, et al: The Emerging Evidence of the Parkinson Pandemic. J Parkinsons Dis, 8: S3-S8, 2018
  2. 2) Dorsey ER, et al: A PLAN to address the Parkinson pandemic. J Parkinsons Dis, 15: 1322-1336, 2025
  3. 3) Schapira AHV, et al: Non-motor features of Parkinson disease. Nat Rev Neurosci, 18: 435-450, 2017
  4. 4) Li JY, et al: Lewy bodies in grafted neurons in subjects with Parkinson's disease suggest host-to-graft disease propagation. Nat Med, 14: 501-503, 2008
  5. 5) Barone P, et al: A randomized clinical trial to evaluate the effects of rasagiline on depressive symptoms in non-demented Parkinson's disease patients. Eur J Neurol, 22: 1184-1191, 2015

(文・「調剤と情報」編集部)