ポリファーマシーの副作用発現リスクを評価するツール——POLSETの臨床応用と有用性
第1回
多剤処方ではなぜ副作用発現リスクが増加するのか
ポリファーマシーは「5〜6剤以上」といった薬剤数だけで線引きできるものではない。同じ副作用をもつ薬剤がどれだけ重なっているかが,副作用発現リスクを左右する。本連載では,処方に潜む副作用発現リスクを可視化するツール「POLSET」を紹介する。第1回は,開発のきっかけと,214処方の分析から見えてきた「多剤処方でなぜ副作用発現リスクが増加するのか」を解説する。
はじめに
高齢化の進行により,複数疾患の併発に対処する併用処方を目にすることも多くなっているのではないでしょうか。このような処方は薬物有害事象の頻度が高いことから,ポリファーマシーへの適切な対応が,患者さんの生活の質(QOL)向上と医療費削減につながる重要な鍵となっています。平成28年度の診療報酬改定では,厚生労働省が薬剤総合評価調整加算を新設し,これが後押しとなって,マスコミで取り上げられるポリファーマシーの問題に患者さんが触れる機会も増えました。さらに,インターネットから薬剤情報を入手し,薬や治療について患者が自分なりの考えをもつことも,いまでは当たり前になりました。医療関係者がポリファーマシーの対処例を学べる書籍も増え,ポリファーマシー対策への理解力も対応力も着実に高まっており,現在の状況は少しずつ改善に向かっていると期待されます。一方では,令和4年の日本保険薬局協会の報告によれば,服用薬剤調整支援料の算定件数は多いとはいえず,多剤服用に対する薬剤師のいっそうの取り組みが望まれています。
ポリファーマシーの定義として「5〜6剤以上の処方」とされることもあります。しかし本来は,10剤処方でもポリファーマシーでない場合もあれば,2剤処方でもポリファーマシーとなる場合もあります。医療の現場では,「併発疾患の治療に必要とされるよりも多くの薬剤が処方され,薬物有害事象が発生しやすい状態」とするのが適切であると考えられているからです。
POLSETのはじまり
筆者は,さまざまな方から「薬剤性転倒の事故が多くて困っている」とか,「多剤処方ではどんな副作用を疑えばよいか,可能性がありすぎてわからない」などの相談をいただくことが多くありました。そこで2005年頃から,日本医科大学千葉北総病院薬剤部(当時)の浜田康次氏からいただいた「原因薬剤の重複数を表示できるツールがほしい」というアドバイスを手がかりに,薬学生の卒業研究の一環として,ポリファーマシーの副作用発現重複評価ツールの作成を始めました。その後は長期間にわたり,多くの学生や教員,薬剤師の皆様と共同研究を進めてきました。
2019年からは,コスモス医薬情報AI解析研究所において,医療現場での実践的な活用を意識した本格的な実用版の開発を進め,2021年秋にようやく完成したツールを,polypharmacy side effect toolにちなんで「POLSET」と命名しました。POLSETを使用することで,「副作用発現が重複するすべての原因薬剤について,その発現頻度を加算する。合計発現頻度が高くなるような副作用を内包する処方は,ポリファーマシーとなる可能性がある」ということを,自然に理解できるようになりました。POLSETは,従来ありがちな「記憶と経験に頼る服薬指導」から「医療DX時代にふさわしい合理的な服薬指導」への転換を,強力にサポートしてくれる補助ツールであるといえます。
ポリファーマシーは,適切なタイミングで介入することが大切だともいわれています。しかし,忙しい日常業務のなかで,処方薬の副作用情報を網羅的に収集し整理することは,大変な作業です。そうしたなかでPOLSETを活用すれば,その処方における副作用発現リスクの全体像を瞬時に把握することができます。患者さんの背景に応じたさらなる詳細調査もスムーズに進められるようになり,医師や薬剤師をはじめとする医療関係者の皆様が,チームとして最善の対応を検討しやすくなるものと期待されます。
多剤処方ではなぜ副作用発現リスクが増加するのか?
「在宅患者における薬物治療に伴う副作用」の全国調査では,14.4%の患者さんに薬物有害事象が発現していたと報告されています。また,入院高齢患者さんの処方の約5%がポリファーマシーであったとの報告もあります。さらに,救急外来や病棟管理の現場でも,頻繁に薬物有害事象を経験するとの医師からの指摘もみられます。
投薬数と薬物有害作用の関連性のエビデンス
複数の薬剤が処方された際に生じる,副作用の重複による発現頻度の増強は,原因となる薬剤の数に比例します。また,薬物相互作用〔医薬品添付文書(PI)に併用禁忌や併用注意と記載〕に起因する副作用発現頻度の増強は,相互作用が生じ得る薬剤の組み合わせがn(n−1)/2で増えることから,相互作用のある薬剤数nのほぼ2乗に比例して増加します。服薬数と薬物有害作用の関係を調べた研究や,精神神経系の服薬に関する指摘をまとめると,表のようになります。
| 表 投薬数と薬物有害作用の関連性 |
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〔鳥羽研二,他:日本老年医学会雑誌,36:181-185,1999/水上勝義:精神経誌,111:947-953,2009を参考に作成〕
これらの報告からは,薬物相互作用の影響を評価するよりもまず,単剤の副作用発現頻度をすべての原因薬剤について加算した結果を評価できるツールの開発が必要であると考えられます。
保険薬局で実施された副作用発現アンケート調査結果の分析
以前から,特に精神科の処方においては,ポリファーマシーが問題として指摘されていました。精神神経科で処方される薬剤には眠気,口渇,便秘という共通して多い副作用があり,患者さんの服薬アドヒアランス低下につながりやすいことが知られています。そこで2013年に,多剤処方における副作用発現が多い原因を探り,効果的な副作用対策を検討するため,大学病院の精神神経科を受診した214名を対象に,薬局において,眠気,口渇,便秘の発現の有無に関する聞き取り調査が実施されました。対象となった患者さんの服薬は2〜16剤で,処方箋を確認したところ,眠気は86名(発現率40.2%)に,口渇は68名(同31.8%)に,便秘は51名(同23.8%)に発現していました。
図1は,副作用発現率と合計スコアの関係を示したグラフです。合計スコアとは,副作用の発現頻度に応じた重みをつけて原因薬剤の重複を数えたものです(重みがすべて1であれば,合計スコアは重複数と一致します)。眠気,口渇,便秘のいずれにおいても,副作用発現率と合計スコアの間に強い相関がみられました。しかも副作用発現率との相関は,薬剤数よりも合計スコアのほうがかなり高いことが示されました。これは,「薬剤数が少なくても合計スコアが高い処方」や「薬剤数が多くても合計スコアが低い処方」が存在するためと考えられます。具体的な例については,第3回でご紹介します。
図1 アドヒアランスへの影響が大きい眠気,口渇,便秘の副作用発現率(縦軸)と合計スコア(横軸)の関係
〔富口匡史,他:第32回アポック研究発表会,2013/大竹麻衣子:東北薬科大学卒業論文,2015/佐藤和佳子:東北薬科大学卒業論文,2015を参考に作成〕
筆者らのグループが214例の処方を分析した結果を,図2に示します。まず,214例の処方中に併用禁忌の薬剤の組み合わせが含まれるものはありませんでした。また,①相互作用(併用注意)のある薬剤の組み合わせを含む処方群,②それ以外の処方群─に分類したところ,②の群が全体の45%と半数近くを占めており,この群でも副作用の発現が多くみられました。この結果から,薬物相互作用の影響ではなく,原因となる薬剤の重複に起因する副作用発現の重要性が,まず確認できたといえます。
図2 多剤処方に起因する副作用発現─重複効果と薬物相互作用の比較
〔富口匡史,他:第32回アポック研究発表会,2013/粟野裕貴:東北医科薬科大学卒業論文,2016/高橋佳奈:東北医科薬科大学卒業論文,2016/中坪みなみ:東北医科薬科大学卒業論文,2016/齋藤貴子:東北医科薬科大学卒業論文,2016を参考に作成〕
次に,①の処方群と②の処方群で副作用発現率を比較したところ,相互作用を含む処方群でやや高い傾向がみられたものの,有意水準5%でのχ2検定を実施した結果,両者に統計的な有意差は認められませんでした(p>0.05)。このことから,併用処方における副作用発現は,薬物相互作用の有無よりも,合計スコア,すなわち原因薬剤の重複による副作用発現頻度の合計によって説明できると考えられます。
薬物相互作用の影響は,併用禁忌の場合には非常に強いものの,併用注意の場合には比較的穏やかなものが多いことが知られています。214例の処方中に併用禁忌の組み合わせがまったく含まれていなかったことは,薬剤管理システムの発達や疑義照会の徹底により,患者さんに大きなリスクを伴う処方が多剤処方全体のなかでも極めて少ない可能性を示唆しています。また,筆者らが仙台の薬局から提供を受けた情報でも,処方受付の約200回に1回の割合で併用禁忌に関する疑義照会がなされており,併用禁忌の組み合わせを含む処方は少ないことが確認されています。
おわりに
前述の結果から,やはり単剤の副作用発現頻度を原因薬剤ごとに加算した結果を定量的に評価できるツールが必要であると考えました。筆者らは,それを目指してPOLSETの開発を進めたのです。
本連載では,POLSETと副作用情報のビジュアル化を行うAI-SOMをご紹介します。これらを通じて,ITやAIを用いた医療の未来について,一緒に考えられたら幸いです。次回は,このPOLSETの開発についてお話しさせていただきます。
謝辞
POLSETの完成まで長年にわたりご協力いただいた,アポクリート株式会社(元日本医科大学千葉北総病院薬剤部)浜田康次氏,元東北医科薬科大学薬学部講師 星憲司氏に感謝申し上げます。