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はじめに

片頭痛は有病率8.4%と高く,患者の生活の質(QOL)や社会的生産性に大きな影響を及ぼす疾患である1)。従来,その管理における課題として注目されてきたのは「薬剤の使用過多による頭痛(Medication Overuse Headache;MOH)」であった。しかし近年,急性期治療薬や予防薬が十分に使用されないこと,すなわち「過少使用」が慢性化に寄与しうることが指摘され,「薬剤の過少使用による頭痛(仮称,Medication Underuse Headache)」という概念が議論されるようになってきた2)

本稿では,この薬剤過少使用の背景と臨床的影響を整理し,身近な相談窓口である薬局において薬剤師が果たしうる介入の視点を示す。

薬剤の過少使用の定義と背景

薬剤過少使用とは,急性期治療薬や予防薬が適切に使用されないことによって片頭痛が慢性化する状態を指す2)。単なる服薬量の不足ではなく,治療的介入が必要な状況にもかかわらず,患者側・医療者側双方の要因によって適正使用が成立しない状況と位置づけられる。具体的には表1に示す要素を含む。

表1 適正使用が成立しない状況

日本の片頭痛治療の実態を示した近年のOVERCOME Japan studyでは,患者のOTC医薬品使用率が62.1%以上と高く,医師に相談している患者でも51.3%が処方薬よりOTC医薬品を多用していたことが報告されている3)。筆者らの調査においても,医療機関未受診者の74.2%がOTC医薬品のみで対応しており,症状を「軽度」「一時的」と自己評価する傾向が確認された4)。さらに,トリプタン製剤の認知率は34.5%にとどまり,急性期治療薬の適切な利用が広く普及していない現状も示されている3)

トリプタン製剤については,「価格が高い」「強い薬だと思う」といった理由から使用を控える行動がみられ,軽度発作時に服用をためらう傾向もある。発作初期の服用遅延は薬効を減弱させ,中枢神経感作(脳が痛み信号に対して敏感になり,痛みの増強や慢性化が生じやすくなる状態)の進行を助長する。このため,服薬タイミングに関する薬剤師の指導は臨床的に重要な意味をもつ。

一方,予防薬の早期導入はカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)経路の過活動を抑制するが,導入が不十分な場合は慢性化リスクが高まるとされる2)。しかし実際には予防薬の導入が頭痛発症から平均約10年後であるとの報告があり5),この深刻な遅延は薬剤過少使用の実態を裏づけるデータといえる。

臨床的影響とMOHとの比較

過少使用は,発作頻度の増加,治療反応性の低下,QOLの著しい低下を招き,医療経済的負担をも増大させる。筆者らの調査では,薬剤師への相談率は20.7%にとどまっており,薬剤師に相談した患者のうち,助言が受診動機となった割合は34.0%にすぎなかった4)。薬局における相談・介入の機会が十分に活用されておらず,治療不足の状態にある患者が適切な医療へつながっていない現状が浮かび上がる。

表2に示すように,MOHと薬剤過少使用は薬剤使用の方向性こそ対極にあるが,いずれも不適切な治療行動が中枢神経感作を助長し,慢性化リスクを高めるという点で共通している。他方,MOHが「薬物乱用」に起因する問題であり薬剤使用量の是正が主な対応となるのに対し,薬剤過少使用は「治療不足」に起因する問題であり,服薬タイミングの適正化や予防療法の導入が求められる。この点に両者の本質的な違いがある。

表2 MOHと薬剤の過少使用による頭痛の比較

治療戦略と薬剤師の役割

治療戦略の中心は,急性期薬の適切な使用と予防薬の早期導入である。この戦略を実臨床で成立させるうえで,薬局薬剤師は患者の行動変容を支援する重要な役割を担う。国際頭痛学会は2025年のポジションステートメントで,片頭痛治療の理想像として「発作間欠期の負担も含めて解消されること」を掲げ,最適なコントロールの指標として「中等度~重度の片頭痛で,片頭痛日数が月4日未満」という基準を示した6)。この視点は,急性期治療のみならず発作間欠期の負担評価と予防療法の重要性を示すものである。

CGRP関連抗体薬や経口CGRP受容体拮抗薬(ゲパント製剤)は片頭痛の慢性化を防ぐ可能性が示されており7),発作初期使用により痛み刺激の反復入力を遮断できる点に特徴がある2)。なかでもゲパント製剤はMOHを起こさない急性期薬としても位置づけられており,過少使用による慢性化という観点からも注目される2)。わが国では,2025年12月にナルティーク®OD錠(リメゲパント硫酸塩水和物)が発売され8),急性期治療と予防の両面からの介入が現実的な選択肢となった。CGRP関連抗体薬による予防治療ではHeadache Impact Test-6(HIT-6)9),10)スコアが平均5点以上改善し,患者報告アウトカム(PROMs)において治療効果が確認されている11)(表3)。HIT-6とMigraine Interictal Burden Scale-4(MIBS-4)を併用した評価が患者の治療理解と管理の改善に寄与することも示されており,両指標の臨床的有用性は高い10),12)(表4)

表3 日本語版HIT-6(頭痛があるときの支障度)

〔Kosinski M, et al:Qual Life Res, 12:963-974, 2003/第一三共Medical Community:患者指導用資材より〕

表4 日本語版Migraine Interictal Burden Scale-4(MIBS-4:頭痛がないときの支障度)

〔Buse DC, et al:Mayo Clin Proc, 84:422-435, 2009/第一三共Medical Community:患者指導用資材より〕

筆者らの調査では,HIT-6やMIBS-4で高負担を示す患者でも医療機関を受診していないケースが多数存在し,OTC医薬品で自己対応する割合は74.2%に達していた4)。受診回避理由の最多は「OTC医薬品で対応できると思った」であり,薬局での初期対応が過少使用防止の最前線となる。薬剤師はOTC医薬品販売時に服薬状況や頭痛頻度を聴取し,服薬タイミングや鎮痛薬の重複使用を確認することで,過少使用の徴候を早期に把握できる。こうした介入は単発の助言にとどまらず,段階的かつ継続的に行うことが重要である。次に,薬局における具体的な介入の視点を示す。

1)MIBS-4を活用した発作間欠期負担評価

MIBS-4は,頭痛のない発作間欠期における生活支障度を4項目で評価する指標である13)。OVERCOME Japan Studyでは中等度以上の間欠期負担を有する患者が41.5%14),筆者らの調査でも65.1%に達しており15),発作間欠期の負担が見過ごされやすい現状が示されている。薬剤師がこの指標を用いて「頭痛がない日」の生活支障度を評価することで,服薬遅延や予防薬導入の必要性を可視化できる。薬局で簡易版MIBS-4をセルフチェック形式で活用すれば,患者自身が間欠期の支障を自覚し,医療機関受診や予防療法への動機づけにつながる。

2)HIT-6との併用による包括的評価

HIT-6は,発作期における頭痛の生活影響を6項目で評価する指標である9)。HIT-6で発作期の支障度を,MIBS-4で間欠期負担をそれぞれ把握し,両指標を服薬支援ツールとして提示することで,頭痛の重症度と生活影響を包括的に可視化できる。この組み合わせは,急性期薬の適切使用と予防薬導入を支援する患者教育の基盤となる。

3)スクリーニングと医療連携

来局時の簡易スクリーニングでは,服薬記録や問診から過少使用の徴候を検出し,必要に応じて医師へ報告することで治療計画の見直しを促す。特にトリプタン製剤は発作初期の服用で最大効果を示すにもかかわらず,「強い薬だから最後に使う」「高価なので控える」といった誤解や経済的懸念が過少使用の一因となっている。薬剤師にはこれらを正す役割が求められており,OTC医薬品販売時には服用タイミングの遅れ,自己判断による減量,繰り返し使用による減弱などを確認したうえで,適切な薬剤選択と受診の必要性を助言する。このような薬局でのトリアージ的介入は,過少使用の早期是正と慢性化防止に直結する。

これらの介入を通じ,薬剤師は患者のセルフケアを支援し,過少使用による慢性化リスクの低減に寄与できる。に薬剤師による片頭痛患者支援モデルを示す。

図 薬剤師による片頭痛患者支援モデルと片頭痛スクリーナー

〔Takeshima T, et al:日本頭痛学会誌, 42:134-143, 2015を参考に作成〕

おわりに

「薬剤の過少使用による頭痛」は,片頭痛治療の質向上において看過できない課題である。MOHと同様に,治療不足の防止は慢性化予防のカギであり,特に患者の治療行動に寄り添う薬局薬剤師の介入はその実現に不可欠な要素となる。MIBS-4で発作間欠期の生活負担を,HIT-6で発作期の支障度を把握し,急性期治療薬の適切使用と予防療法の早期導入を支援することで,患者のセルフケアと治療の最適化が可能となる。今後は,薬剤師による評価・介入を体系化し,医療連携のなかで共有可能なモデルとして標準化するとともに,ガイドラインへの反映が期待される。

引用文献

1) Sakai F, et al:Prevalence of migraine in Japan:a nationwide survey. Cephalalgia, 17:15-22, 1997

2) Rattanawong W, et al:Medication "underuse" headache. Cephalalgia, 44:3331024241245658, 2024

3) Ishii R, et al:Real-world use of over-the-counter medications by patients with migraine in Japan:results from the OVERCOME (Japan) 2nd study. J Headache Pain, 26:107, 2025

4) Ito I, et al:Factors influencing medical consultation in people with chronic headaches and the role of pharmacists. BPB Reports, 8:109-115, 2025

5) Danno D, et al:The Impact of Migraine on the Whole Life Course of Patients:Results from the OVERCOME (Japan) 2nd Study. Neurol Ther, 14:335-356, 2025

6) Sacco S, et al:Setting higher standards for migraine prevention:A position statement of the International Headache Society. Cephalalgia, 45:3331024251320608, 2025

7) Rattanawong W, et al:Medication underuse in real-life practice:the impact of galcanezumab towards achieving very low frequency episodic migraine in a southeast Asian middle-income nation. J Headache Pain, 26:13, 2025

8) ファイザー株式会社:ナルティーク,添付文書(2025年12月改訂,第2版)

9) Kosinski M, et al:A six-item short-form survey for measuring headache impact:the HIT-6. Qual Life Res, 12:963-974, 2003

10) 第一三共 Medical Community:患者指導用資材

11) Göbel CH, et al:Evaluating Treatment Success in CGRP Antibody Prophylaxis:A Retrospective Cohort Study Comparing Monthly Migraine Days, MIDAS Scores, and HIT-6 Scores. Pain Ther, 14:1899-1914, 2025

12) Terao T, et al:The utility of the approach to migraine treatment evaluation through the visualization of HIT-6 and MIBS-4 on a two-dimensional plane. JPN J Headache, 51:169-173, 2024

13) Buse DC, et al:Assessing and managing all aspects of migraine:migraine attacks, migraine-related functional impairment, common comorbidities, and quality of life. Mayo Clin Proc, 84:422-435, 2009

14) Matsumori Y, et al:Burden of Migraine in Japan:Results of the ObserVational Survey of the Epidemiology, tReatment, and Care Of MigrainE (OVERCOME [Japan]) Study. Neurol Ther, 11:205-222, 2022

15) Ishii M, et al:Identifying Factors Influencing the Interictal Burden of Migraine in Women. BPB Reports, 8:70-74, 2025

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