昭和医科大学 岸本桂子氏に聞く
個人輸入と個人輸入代行サイトの現状
患者が服用している薬を,薬剤師はどこまで把握できているだろうか。医療用医薬品,OTC医薬品,サプリメント……それだけでは把握しきれていない可能性がある。そう,海外から個人輸入した医薬品を服用している可能性だ。その入手経路のひとつが,海外医薬品の個人輸入代行サイトである。存在を知っていても,実際にどのような医薬品が,どれほどの規模で流通しているのか,その実態を把握している薬剤師は少ないかもしれない。
この実態について,第35回日本医療薬学会年会(2025年11月)で昭和医科大学 薬学部の岸本桂子氏らにより報告された。5つの代行サイトから304成分・846製品を抽出・分析したこの調査は,個人輸入の実態を可視化した貴重なデータといえる。
本稿では岸本氏へのインタビューを通じて,その実態と現場薬剤師への示唆を探る。
個人輸入と個人輸入代行サイトの現状
医薬品の個人輸入について,制度上はどのような位置づけになっているのでしょうか。
個人輸入自体は,個人が自己使用目的で行う限り,法律上の問題はありません。一方,個人輸入代行サイトについては,海外の事業者が運営しているため,日本の法律が適用されないという位置づけになっています。
ただし無法地帯になっているというわけではなく,厚生労働省が公表している「個人輸入してはいけない医薬品のリスト」に掲載されている医薬品は個人輸入できませんし,個人輸入代行サイトのほうでも原則として取り扱われていません。具体的には,麻薬や覚醒剤はもちろん,中絶薬,サリドマイド,経口ニキビ薬,脳機能向上を標榜する医薬品などが該当します。また,それ以外の医薬品についても,毒薬・劇薬・処方箋医薬品は1カ月分以内,それ以外は2カ月分以内というルールが適用されます1)。
代行サイトへのアクセスや購入のハードルは,実際どの程度なのでしょうか。
さきほど申したとおり,個人輸入代行サイトの運営は海外法人なのですが,実際にWebサイトを見てみると,綺麗にデザインされていて信頼のある日本の会社が運営しているのかなと思うほどです。また,自然な日本語を用いて作られているので,一般消費者が怪しまずに購入に踏み切れる環境が整えられているという印象です。
一方で,日本の法律である薬機法の適用外である海外の運営元であることから「口コミ」機能が実装されている薬が数多くあります。日本で運営される場合,こういった広告は薬機法の規制を受けるためできません。実際に,口コミを見てみると,もちろん本当に消費者が書いたものかはわかりませんが,抗菌薬や抗ウイルス薬に対し,「風邪の予防薬として……」「わが家の常備薬として……」などと記載されており,一般消費者が正しくない知識をベースに購入している実態が疑われます。
個人輸入のリスク
今回の調査では国内未承認の成分も含まれていたとのことですが,どのような医薬品が販売されているのでしょうか。
承認医薬品がない成分としては,デフラザコート(ステロイド)やブプロピオン(抗うつ薬),イロペリドン(非定型抗精神病薬)などが挙げられます。また,承認医薬品は存在するものの日本の規格よりも大きいものが多数確認されています。例えばフルバスタチンの40mg錠(国内の通常用法:20~30mg/日)など,日本人が服用するにはどうやって服用したらよいのだろうかというものも確認されています。
その他にも,シルデナフィルとバルデナフィルの合剤といった,われわれの常識から考えると,考えられない合剤が入手可能なことも確認しました。また,こういった薬剤だけでなく,ゲフィチニブなどの抗がん薬や免疫抑制薬なども取り扱われていることを確認しています。
さらに少し話は逸れますが,日本国内で承認を受けていない海外の医薬品であるはずなのに,パッケージが日本語になっている製品も存在しました。言い換えれば,日本語パッケージをわざわざ作っているわけですから,明らかに日本がマーケットとしてねらわれていることの表れだと感じています。
インタビューに答える岸本桂子氏
個人輸入医薬品に関する研究を通じて,特に問題だと感じた点はありますか。
特にリスクがあると感じているのは,次の2点です。
1つ目は,「一般消費者が個人の判断で医療用医薬品を服用できてしまうこと」です。日本では,医薬品にリスクがあるからこそ,安全かつ適切に効果を得られるよう薬機法や健康保険制度で厳格に管理されています。しかし個人輸入では,医療用医薬品としてしか国内流通していない成分,あるいは類似の成分を含む製品を,一般消費者が自己判断で購入できてしまいます。医薬品のリスクを十分に理解しないまま使用できてしまう環境は危険です。これは「個人輸入はいけません・危険です」という立場ではなく,薬物治療についての正しい知識・情報がないなかで個人が判断してしまうという実態に問題があるのではないかと考えています。
2つ目は,「輸入医薬品の品質が担保されているわけではない」という点です。日本の医薬品は厳格な品質管理のルールのもと製造されていますが,海外で製造されている医薬品のなかには,ずさんな管理で製造されているものが含まれている可能性があります。高温多湿の環境で,温度・湿度管理もされずに製造・保存された医薬品が,本当に効果を発揮できるのか,健康被害リスクがないのか,薬剤師であれば疑いの目を向けることができます。また,製薬企業が製造していない偽造医薬品の可能性もあります。しかし一般消費者の場合は,そのような発想がありませんので,きちんとパッケージされて堂々とWebサイトに掲載されていれば,安全なのではないかと思ってしまうのです。
以上,どちらのリスクにも共通した視点かもしれませんが,きちんとしたリスク評価ができないまま医療用医薬品を入手できてしまうという環境は,非常に危険だと感じています。
利用者像の変化
個人輸入というと,以前は性機能増強薬や発毛剤のイメージがありました。この傾向は,近年も変化ありませんか。
おっしゃるとおり,以前は性機能増強薬や発毛剤など,誰かに相談しにくい医薬品をこっそり個人輸入するというのが主な動機でした。また同様の動機かと思われますが,ここ最近目立つのは,痩身目的の糖尿病治療薬の個人輸入です。
しかしそれだけではなく,ここ数年の調査では高血圧やアレルギーの薬なども数多く販売されていることを確認しています。どれくらいの販売数や売り上げ,どれが人気の医薬品などはわかっていませんが,数多く販売されているということは,それだけ売れていると想像できます。個人的には,医師の治療方針と意見があわないときに,個人輸入を利用している人が一定数いるように感じます。
医療者が気づけないリスク
個人輸入薬は薬局で申告されることが少ない,いわば服薬管理の「死角」になる可能性があるかと思います。この服薬管理の「死角」によって,どのような問題が起こり得るでしょうか。
すぐに思いつくだけでも,相互作用や過量投与,重複服用といった問題が挙げられますよね。
それだけではありません。例えば「最近フラフラするけど理由がわからない」という主訴で,医師は脳や耳の疾患を疑い検査を行いますが,原因を見つけることができず,診断がつかないまま迷宮入りしてしまったという患者がいたとします。しかし,もしこの患者が個人輸入した糖尿病治療薬を服用していたとしたら……すぐに「低血糖では?」と疑えるはずです。服薬管理の「死角」に個人輸入医薬品があることで,副作用が見逃されてしまうリスクがあるのです。
2017年に個人輸入経験者にWeb調査を実施したのですが,実際に,健康被害を経験したことのある人が約20%でした。そのうち,受診時に個人輸入の医薬品の使用を医師や薬剤師に伝えたかを聞くと,25%の人は伝えていないと回答しています。これは,「不正なものを使用しているかも?」という患者の後ろめたさのようなものが背景にあるためで,患者から進んで開示してくれるような内容ではないということに留意する必要があるでしょう。
現場薬剤師への提言
本研究を踏まえて,現場の薬剤師に伝えたいことはありますか。
まずは,個人輸入という一般消費者が医薬品を簡単に入手できてしまうという世界が現実にあるんだということを,薬剤師をはじめ現場の医療者に知っていただきたいです。そして,さきほど話したとおり,患者さん自らが積極的に伝えてくれる情報ではないということも理解しておく必要があります。つまり,われわれから話を聞く必要があるのですが1点注意点があります。「強制的にやめさせるために聞く」わけではないということです。
患者さんは少なからず後ろめたさを感じています。そのことについて「やめなさい」と厳しく注意することは,より正確な情報を収集することを困難にし,最終的に患者さんにとって不利益な状況を招いてしまうかもしれません。「あなたの健康を守るために,安全に安心して医薬品を使用していただくことを支援したい」というスタンスが大切だと思います。個人輸入医薬品の使用を「悪」だと決めつけるようなことはせず,まずは海外から輸入したサプリメントなども含め,口にしているものを教えてもらえるように話すこと,そして自己判断で医療用医薬品を使用することのリスクと個人輸入医薬品のリスクを正しく伝え,理解していただくことが大切なのだと思います。
(聞き手・構成:編集部,2025年12月)
引用文献
- 厚生労働省:医薬品等の個人輸入について(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/kojinyunyu/topics/tp010401-1.html)