1カ月早い流行シーズン入り!
医師に聞くインフルエンザの流行の実際
2025年10月3日,厚生労働省はインフルエンザが全国的な流行シーズンに入ったと発表した。例年より約1カ月早いシーズン入りとなり,薬局での対応も早期化が求められる。北海道で感染症診療に携わる医師の黒沼幸治 先生(札幌医科大学 医学部 感染学講座感染症学分野)に,今シーズンの展望と薬局での対応ポイントを聞いた。
2024年よりも1カ月早いシーズン入り
──猛暑や大阪万博の影響の可能性が指摘されていますが,現場ではどのように感じていますか。
近年,沖縄など南の地域では流行時期が早まる傾向がみられています。すでに2025年も東京や大阪でインフルエンザの増加がみられていますが,インフルエンザは人の移動により広がる輸入感染症的な側面があり,大阪万博の開催や訪日外国人が過去最高を記録するなど,海外からの渡航者が多く訪れる地域を中心に注意が必要です。
2025/26年シーズンの流行予測
──2024/25年は大流行でしたが,今シーズンはどうなると予想されますか。
確かに2024/25年シーズンに大流行がありましたが,2025/26年シーズンの流行開始が早いことを考えると,2025/26年シーズンもそれなりに大きな流行になる可能性があります。特に2024/25年シーズンは肺炎や重症化例も多くみられたため,2025/26年シーズンも警戒が必要です。
2025/26年シーズンのワクチン株
─ 2025/26年シーズンの流行株の情報とワクチンの予想株について教えてください。
2025年10月9日時点の東京都の病原体サーベイランスによると,A型H3N2(香港型)が主流となっており,2024/25年シーズンの主流であったA型H1N1とは異なる展開をみせています1)。ただし,流行が始まったばかりでデータがまだ不足している状況のため,今後の動向に注意が必要です。
2025/26年シーズンのワクチン株については,3価ワクチンです(表1)。2024/25年シーズンは4価ワクチンが使用されましたが,B型山形系統のウイルスが2020年3月以降,世界的にほとんど検出されなくなったため,WHOの推奨に従い山形系統が除外され,2025/26年シーズンより3価ワクチンとなっています。
表1 2025/26年シーズンのワクチン株
| 型 | 分離された地名 | 株番号 | 分離された年 | 亜型 |
|---|---|---|---|---|
| A型 | Victoria(ビクトリア) | 4897 | 2022 | (H1N1)pdm09 |
| A型 | Perth(パース) | 722 | 2024 | (H3N2) |
| B型 | Austria(オーストリア) | 1359417 | 2021 | (ビクトリア系統 |
ワクチン接種の考え方
─ 早期のシーズン入りで,「もうかかったから接種不要」と考える患者も想定されます。特に高齢者への情報提供はどうすべきでしょうか。
インフルエンザワクチンの目的は重症化予防であること,またA型とB型のインフルエンザがあるため,どちらかに罹患してももう一方に罹患する可能性があることを情報提供するのがよいと思います。逆に,流行してからワクチンを接種するという人もいますが,効果発現までにだいたい接種後2週間程度かかるため,すでに流行が始まっている以上,早めの接種を勧めたいところです。
特に,心疾患や肺疾患,免疫不全などの重症化リスクが高い方には接種のメリットが大きく,正しい情報提供が重要であると思います。
薬局での対応のポイント
─ 薬局で気をつけるべきことや受診勧奨のポイントを教えてください。
薬局は患者の処方内容を最も把握できる立場にあります。つまり,その処方内容から重症化リスクのある患者をスクリーニングできる立場にあるといえます。したがって,処方内容をみて,インフルエンザの重症化リスクがありそうだなという方には積極的に「今シーズンのワクチンは接種されましたか?」と声がけしていただければと思います(表2)。
表2 重症化リスクが高い患者
さまざまな医療関係者からの声がけが接種行動につながりますので,「かかりつけ医に予防接種の予約をしてください」といった助言を積極的にお願いします。
黒沼 幸治
札幌医科大学医学部 感染学講座感染症学分野 教授。札幌医科大学附属病院感染症内科 診療科長,同感染制御部 副部長。日本感染症学会感染症専門医・指導医。