MIBS-4と薬局薬剤師の役割
片頭痛予防療法の新展開と発作間欠期負担の評価
はじめに
片頭痛の予防療法について,『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』1)では「片頭痛発作が月に2回以上,または生活に支障をきたす頭痛が月に6日以上」と規定されていた。しかし『頭痛の診療ガイドライン2021』2)では「片頭痛発作が月に2回以上,または生活に支障をきたす頭痛が月に3日以上」と変更され,より多くの患者が予防療法の対象となった。この背景には,カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)関連抗体薬の登場による予防療法の効果向上と早期介入の重要性の増大3),さらに海外のガイドラインにおいて「生活に支障をきたす頭痛が月に3日以上」で予防療法を推奨していることがある4)。
すなわち,予防療法の適応拡大は,発作そのものだけでなく,発作のない時期(発作間欠期)を含めた生活全般のQOL向上を目指す流れといえる。しかしながら,2020年に実施された大規模横断的疫学調査〔OVERCOME(Japan)study〕では,片頭痛患者のうち「片頭痛または重度の頭痛のために医療機関を受診したことがある」のは57.4%にとどまり,「トリプタンの使用経験」は20.1%,「予防薬の使用経験」はわずか10.2%であった5) 。この結果は,多くの片頭痛患者がいまだ適切な治療に到達していない現状を示している。
本稿では,予防療法の重要性が高まる片頭痛治療の現状を概説するとともに,発作間欠期の負担評価に有用な片頭痛発作間欠期負担評価尺度(MIBS-4)6)に着目し,薬局薬剤師が担う新たな役割について考察する。
片頭痛サイクル
片頭痛は,発作期(予兆期,前兆期,頭痛期,発作後期)および発作間欠期から成る周期性疾患である7)(図)。
図 片頭痛サイクル(発作期と発作間欠期)
〔Vincent M,et al:Front Neurol,13:1032103,2022より〕
予兆期は,頭痛の1~72時間前に現れる非特異的な全身症状が特徴であり,患者の約80%が経験する。主な症状には,疲労感,あくび,食欲亢進,甘いものへの欲求,光・音・臭いへの過敏,集中力低下,思考困難,頸部痛,むくみ,イライラ,吐き気などがある。
前兆期は,頭痛の直前(5~60分前)または頭痛中に現れる一過性の局所神経症状で,片頭痛患者の約20~30%が経験する。代表的な症状は,視覚症状(閃輝暗点,キラキラした光,視野の歪み),感覚異常(チクチク,ビリビリ,感覚鈍麻),運動障害(手足の動かしにくさ),脳幹症状(めまい,複視,運動失調),失語症状などである。これらは「可逆性の大脳皮質または脳幹に由来する局在神経兆候」と定義されている。
頭痛期は,片頭痛の主症状である頭痛が現れる段階である。特徴は,片側性で拍動性の痛み,中等度~重度の強さ,日常動作で悪化すること,随伴症状として悪心・嘔吐,光過敏,音過敏があること,発作が通常4~72時間持続することである。
発作後期は,頭痛が治まった後に続く症状の段階で,数時間から数日間持続することもある。主な症状は,倦怠感,集中力の低下,気分の変調(抑うつ,解放感),首や肩のこり,軽度の頭痛残存などである。
発作間欠期は,片頭痛の発作と発作の間にあたる「頭痛のない期間」全体を指す。従来は発作期の症状に注目されてきたが,近年では発作間欠期に生じる症状や負担の改善も重要視されている。
MIBS-4の特徴と実務応用
MIBS-4の評価方法
これまで片頭痛患者が発作間欠期の症状を医療者に伝えることは難しく,発作間欠期負担に関してはあまり注目されてこなかった。MIBS-4は,片頭痛発作間欠期における生活への影響を評価可能にした4項目の質問票である6)。測定項目は「職場や学校での支障」「家庭生活や社会生活での支障」「計画や約束することの困難」「感情的/情緒的および認知的苦痛」の4項目であり,各項目について過去4週間における発作間欠期での影響を評価する。回答は,「わからない/該当しない(0点)」「全くなかった(0点)」「ほとんどなかった(1点)」「時々(2点)」「多くの時間(3点)」「ほぼいつも/いつも(3点)」の6段階で行い,合計点は最大12点となる(表1)。合計点が0点を「支障なし」,1~2点を「軽度」,3~4点を「中等度」,5点以上を「重度」とし,中等度以上で予防治療の検討が推奨されている。
表1 日本語版Migraine Interictal Burden Scale-4(MIBS-4:片頭痛発作間欠期負担評価尺度)
〔Buse DC,et al:Mayo Clin Proc,84:422-435,2009/第一三共Medical Community:患者指導用資材より〕
一方,頭痛インパクトテスト(HIT-6)は,片頭痛発作時の支障度を評価するためのツールである8)。われわれの調査では,HIT-6スコアとMIBS-4スコアには正の相関関係があることを報告している9)。さらに,HIT-6で「支障なし」や「ある程度の支障」と判定された群のなかにも,MIBS-4で「中等度以上」と判定される患者が存在していた9),10)。このことから,HIT-6では捉えにくい発作間欠期のQOL低下をMIBS-4が評価可能であることが示され,その臨床的意義が改めて確認された。
なお,第一三共株式会社の医療関係者向けサイトでは,HIT-6とMIBS-4を用いた「頭痛があるとき・頭痛がないときチェックシート」11)が公開されており,現場での活用が進んでいる(表1)。
治療効果のモニタリング
MIBS-4は,片頭痛治療の必要性や効果を評価するうえでも有用である。米国で実施された大規模横断的疫学調査(OVERCOME US Study)では,支障がない群と比較して,MIBS-4スコアが重度(5点以上)の群は2.6倍,中等度(3~4点)の群は1.8倍,片頭痛治療を求めていることが報告されている12)。
さらに,他剤で効果不十分な片頭痛患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(CONQUER試験)では,ガルカネズマブの二重盲検投与期間において,投与開始1~3カ月でプラセボ群と比較してガルカネズマブ群で有意にMIBS-4スコアの改善が認められた。また,3カ月以降の非盲検投与期間(全群でガルカネズマブを投与)においても,すべての群でMIBS-4スコアの改善が確認された13)。
最近では,大場らが,急性期治療,経口予防薬,CGRP関連抗体薬のいずれもMIBS-4スコアを改善させるが,特にCGRP関連抗体薬でより高い効果が示されることを報告している14)。
以上より,MIBS-4は発作間欠期の支障を測定するだけでなく,治療効果のモニタリング指標としても有用である。
中枢神経感作との関連
近年の研究では,MIBS-4が片頭痛の発作間欠期負担だけでなく,中枢神経感作の程度も反映し得ることが報告されている15)。片頭痛が反復・持続することで慢性化し,その過程で中枢神経感作が重要な役割を担うと考えられている。
中枢神経感作が進行した患者では,頭痛がない日でも不快感や「スッキリしない」感覚が残り,日常生活に支障をきたすことが特徴である。さらに,ガルカネズマブなどのCGRP関連抗体薬は,中枢神経感作を改善することが報告されている16)。
特に,MIBS-4が3点(中等度)以上の患者では中枢神経感作が進行しているとされ15),MIBS-4は中枢神経感作の指標となる可能性が示唆されている。
片頭痛予防療法の最新動向
『頭痛の診療ガイドライン2021』2)では,片頭痛予防療法のゴールとして,①片頭痛発作頻度の減少・重症度の軽減・頭痛持続時間の短縮,②急性期治療への反応性の改善,③生活機能の向上と生活への支障度の軽減─の3点が示されている。また,予防療法の効果は「発作頻度または日数の50%以上の減少」で判断されることが一般的である。臨床試験でも「片頭痛日数50%以上の減少」が有効性の基準とされるが,ベースラインの頻度によって患者に残る負担は大きく異なる。例えば,月20日の片頭痛が10日に減少しても,依然として重度の障害が残ることになる。
Saccoらは,国際頭痛学会のポジションステートメントにおいて,片頭痛治療では「最低限の改善」にとどまらず,「理想的なアウトカム」を目指すべきだと提唱している17)。具体的には,発作間欠期の負担も含めて解消されることが理想的であり,最適な片頭痛コントロールの指標として「中等度~重度の片頭痛で,片頭痛日数が月4日未満」という基準が示されている17)。
こうした理想的アウトカムの達成には,発作頻度だけでなく,発作間欠期を含む生活全体への支障度を評価する視点が不可欠である。MIBS-4は,片頭痛による生活支障度を簡便に定量化できるツールとして,予防療法の効果判定や治療目標の再設定において,患者中心のアプローチを支える実践的な指標となる。この考え方は薬局現場における片頭痛患者の支援にも応用可能であり,薬剤師は発作間欠期を含む生活全体の支障度を評価し,患者のセルフケアや受診のタイミングをサポートすることで,理想的アウトカムの達成に寄与できる。この視点は,次項で述べる薬局薬剤師の具体的な役割と直結する。
薬局での実践と新たな展開
ジメトチアジンのスイッチOTC化と意義
ジメトチアジンメシル酸塩は,1972年から医療用医薬品(ミグリステンⓇ錠)18)として使用されてきたが,2024年12月20日の要指導・一般用医薬品部会において要指導医薬品として承認され,シオノギヘルスケアおよびゼリア新薬工業から「マイフェミン」「ミグリステンS」の商品名で販売される見込みとなっている。効能・効果は「片頭痛・緊張型頭痛における頭痛発作の発症抑制および症状緩和」であり,以前に医師の診断・治療を受けたものに限るという条件が付されている。
わが国において片頭痛予防薬がスイッチOTC化されるのは初の事例であり,患者が薬局で直接予防薬を入手できる新しい選択肢として注目される。一方で,効能・効果に「予防」という文言は明示されておらず,薬剤師による適正使用支援の重要性は従来以上に高い。
薬剤師の課題と求められる役割
『頭痛の診療ガイドライン2021』2)では,ジメトチアジンがスイッチOTC薬候補成分として申請中であることが明記され,OTC医薬品として紹介されている。一方,『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』1)には予防薬としての記載はなかった。われわれが行った薬剤師を対象とした調査では,ジメトチアジンは薬局において調剤頻度および採用率が低く,薬剤師にとって馴染みの薄い薬剤であることが明らかとなった19)。しかし,片頭痛に対する改善率は,わが国における第一選択薬であるロメリジンとほぼ同等であり20),その有用性が期待される。予防薬の適正使用には,患者自身による頭痛タイプの理解,服薬タイミングや継続性の把握が不可欠である。薬剤師は,表2に示す観点からの支援が求められる。
| 頭痛タイプの確認 | 片頭痛か緊張型頭痛か、急性期治療薬との違いを明確に説明 |
|---|---|
| 服薬指導 | 服薬タイミングや継続期間を理解させ、効果を最大化 |
| 受診勧奨 | 必要に応じて医療機関への紹介や相談を促す |
| 治療効果のモニタリング | MIBS-4を活用し、発作間欠期の生活支障度の評価と改善状況を把握 |
MIBS-4の薬局での活用
MIBS-4は,薬局薬剤師が片頭痛治療を支援するうえで有用なツールである(表3)。
| セルフモニタリング支援 | 患者が自身の生活支障度を把握し,改善点を認識できる |
|---|---|
| 治療効果評価 | 処方薬やスイッチ OTC 薬の効果を客観的に確認できる |
| 医療機関との橋渡し | MIBS-4 の結果をもとに受診勧奨や治療方針の相談を行うことで,医療機関との連携を強化できる |
薬剤師に求められる視点
片頭痛治療において予防療法の重要性が高まるなか,発作間欠期の生活支障度を可視化するMIBS-4は,患者中心のケアを実現するための有力なツールである。MIBS-4は,従来のHIT-6では捉えきれなかったQOLの低下を補完し,予防治療の必要性判断や治療効果のモニタリング,さらには中枢神経感作の評価にも応用できる。
薬局薬剤師は,MIBS-4を活用することで,患者のセルフモニタリングを支援し,医療機関との橋渡し役としての機能を強化できる。特に,ジメトチアジンのスイッチOTC化により薬局での予防薬提供が現実のものとなるいま,薬剤師がMIBS-4を用いて適正使用を促すことは,片頭痛治療の質を高めるカギとなる。
今後,薬局薬剤師には「発作間欠期のQOL」にも目を向ける視点が求められる。MIBS-4は,その視点を支える実践的な評価指標として,片頭痛治療の新たな地平を切り拓く可能性を秘めている。
引用文献
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- Huang T,et al:Efficacy and safety of calcitonin gene-related peptide antagonists in migraine treatment:A meta-analysis.Brain Behav,12:e2542,2022
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