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『調剤と情報』は,2025年4月臨時増刊号として「本と動画で現場の常識を学ぶ デキる薬剤師をつくる現場の教科書Next」を4月1日に発行しました。“初代 デキ薬”として第一弾が発行されたのが2019年,そこから2022年の第二弾を経て,今回が“三代目 デキ薬”となります。“初代 デキ薬”が発行された2019年は,コロナ禍の前。あれから6年が経過し,薬剤師を取り巻く環境はさまざまに変化しています。そこで「いまの“デキる薬剤師”とは?」をテーマに,企画・編集を務めていただいた武庫川女子大学 薬学部の川添 哲嗣 先生に話を聞きました。

—— “初代 デキ薬”が発行されてから6年が経過しました。この間には,新型コロナウイルス感染症の流行など社会を大きく変えるような出来事もありました。先生はこの6年間をどのように感じていますか? また,“デキる薬剤師”とは,どのような薬剤師だと考えていますか?

(川添)薬局薬剤師という視点でいうと,新型コロナのパンデミックを契機に,薬局の再編や淘汰が進んだ印象を受けています。一方,病院薬剤師という視点でいうと,医師とディスカッションをする機会が増えたり,チームとしてパンデミックに立ち向かった時期であったりと,薬剤師として一歩成長する機会になったと感じています。また個人としては,博士号を取得するための“チャレンジの6年間”でもありました。

新型コロナ,医療DX,AI技術の進歩など,昨今のさまざまな出来事や変化のなかで,社会から求められる薬剤師像も変化しており,柔軟に対応していくことが大切です。ただし,それだけではいけません。「自分が成長するためにはどうしたらよいのか」「自分の弱点は何なのか」ということを突き詰めて,自分の課題に対してトライできる薬剤師が“デキる薬剤師”なのではないかと思います。

—— 「自分の弱点を理解する」というのは,意外と難しい命題ですよね。先生が考える“デキる薬剤師”に求められる条件は何ですか?

(川添)大前提として,標準的な調剤や服薬指導ができること,必要な薬学的知識を有していることはいうまでもありません。そこが未熟という人は,まずそこを鍛える必要があります。そのうえで,私が考える“デキる薬剤師”は,患者さんに「薬剤師と話して良かった」と思わせる服薬指導ができる人なのではないかと思います。実際にそういう服薬指導をできる人は,患者さんの様子をよく観察し,話を丁寧に聞き,適切なあいづちや助言をすることができます。また,患者さんにとって良いことや楽しいことだけを伝えて「話して良かった」と思ってもらっても,それは“デキる薬剤師”とはいえません。副作用なども含め,患者さんにとって不都合な情報であっても,伝えるべきことをきちんと伝える。そのうえで,不安を煽るようなことはなく適切に話すことができる。これが本物の薬剤師なのだと思います。

このような“デキる薬剤師”は,調剤室のなかでも,同じように振る舞うことができます。つまり,調剤室を和ませたり,雰囲気を良くすることができる人なのです。このようなチカラを“人間力”とするのであれば,“薬学の知識と技術”と“人間力”の両輪が揃っていることが,“ デキる薬剤師 ” の条件なのかもしれません。

また,経験を積んだ人であれば,若手を育てられるということも“デキる薬剤師”の条件の一つに加わってきます。実は私自身,若手に偉そうに指導して失敗した経験があります。その経験から,もしこれから若手の指導にあたるという人がいれば,PNP(ポジティブ・ネガティブ・ポジティブ)という話法をお伝えしたいと思います。

PNP では,まず良いところ(ポジティブ)を伝え,次に課題(ネガティブ)を示したうえで,前向きな提案(ポジティブ)でクロージングします。このような構成で伝えられると,指導を受ける側も身構えずに話を聞くことができるため,指導内容を受け取りやすく,そのうえで課題を明確にすることができ,ポジティブな提案でクロージングするので,前向きに課題に取り組むことができるのです。ちなみに,これは服薬指導などで,患者さんに何かを伝える必要があるときの方法としても活用することができます。

—— “薬学の知識と技術”と“人間力”を磨いていくことが“デキる薬剤師”になるために重要なテーマということですね。ところで「デキる薬剤師をつくる現場の教科書」は三代目となりました。最新の“三代目デキ薬”の特徴について教えてください。

(川添)初代,二代目と比較して大きな特徴が二つあると思います。まず一つ目は,66名の著者が似顔絵となって登場することです。イラストも可愛いですし,著者の顔が見えることで親しみやすい誌面になっていると思います。

二つ目の特徴は本と動画の連動です。第一線で活躍している先生方の実践的なお話が,本に関連した動画として視聴可能aなので,視覚・聴覚からスムーズに知識を吸収できるというのは特徴的だといえます。これは単なる読み物ではなく,知識の“入り口”であり,“道しるべ”のようなコンテンツなのではないかと感じています。

動画イメージ(左下の似顔絵の口が川添先生の声にあわせて動きます)

さらに e-learning「elephamt(エレファント)」とコラボレーションしており,動画をelephamtで視聴した場合は,研修認定薬剤師の単位を取得することも可能cです。「本→動画→(さらに必要な人は)e-learning」と非常にユニークな三段構成のコンテンツになっていると思います。

川添哲嗣先生の似顔絵

—— ご自身の似顔絵や,他の先生の似顔絵をご覧になられていかがですか?

(川添) 私の似顔絵は少し若すぎる気もしますが,特徴をとらえて可愛らしく仕上げていただきました。他の先生方の似顔絵もそっくりな先生が多く,噴き出してしまうほど似ている先生もいます。キャラクター化することで,親しみやすく,本の魅力が増したと思います。また,動画に登場する似顔絵の口が動いて,アニメーションのようになっているところも面白いところです。

—— 今日はありがとうございました。最後に,“デキる薬剤師”予備軍の人,また“デキる薬剤師”を養成するために指導する“先輩 デキ薬”に向けてメッセージをお願いします。

(川添)2025年4月から息子が研修医として働き始めたのですが,彼が医学生だった頃のエピソードを一つ紹介したいと思います。

彼が医学部の 3 年生ぐらいのある日に,定期テストに向けて毎日10時間ぐらい勉強していました。私自身の経験でいえば,そこまでやらなくても定期試験で合格点(60点)を取ることはできると思ったので「医学部の試験はそんなに難しいの?」と尋ねたことがあります。そのときの息子の答えは「過去問を3回ぐらいやったら合格点は大丈夫だと思うよ」という答えでした。私は「60点を取るのに,毎日10時間も勉強しないといけないのか? 医学部のテストは合格点が80点なのか?」と,さらに疑問に思いました。

息子の答えは「合格点は 60 点だよ」でした。私は思わず「なんでそんなに勉強するの?」と聞いたのですが,そのときの彼の答えはこうだったたんです。

「お父さんよく考えて。60 点の知識しかない医者に診てもらいたい? 100 点の知識のある医者に診てもらいたいでしょう?」

「60点(合格点)取れればよいという意識の薬剤師」と,「100 点を目指して学んでいる医師」が同じテーブルで医療に向き合うことができるのでしょうか? 私自身も含め「60点でよい」というマインドでは,医師に到底太刀打ちできないと,息子の言葉に強い衝撃を受けました。

私は薬学部の講義においても,このエピソードを伝えるようにしています。大切なのは,試験のための知識だけでなく,患者さんに寄り添いたいというプロ意識です。それは60点でよいというマインドではなく,薬の専門家として 100 点の薬剤師を目指すということと同義です。

私自身,学生時代はギリギリで通ってきた「60 点男」でした。しかしこのままではいけません。知識も人間性も “100 点を目指す ” という心構えが,本物の“デキる薬剤師”になるための礎なのではないかと思います。

関連号
調剤と情報2025年4月臨時増刊号

デキる薬剤師をつくる現場の教科書 Next


企画編集:亀井 美和子(帝京平成大学 薬学部)
川添 哲嗣(武庫川女子大学 薬学部)


一人前の「デキる薬剤師」になるために、臨床現場に出てから先輩薬剤師に教わる「大学ではあまり教わらないけど現場では必要な知識や、知っておくと現場で得する技術のコツ」をまとめた好評書“デキ薬”がパワーアップして帰ってきました。
内容のアップデートはもちろんのこと、eラーニングサイト『elephamt for pharmacists』とコラボした動画コンテンツやWebサイト『JiMagazine』での追加コンテンツなど、新世代の「デキる薬剤師」になるための1冊です。

掲載号
調剤と情報2025年6月号

精神科領域における対人業務


企画:竹内 尚子(湘南医療大学 薬学部)


精神疾患の治療においては、薬物療法への不安や精神症状そのものが服薬アドヒアランスに影響を及ぼす要因となります。実際に、「薬剤師によるフォローアップが役立った」と回答した精神疾患患者も多いとの報告があり、患者の不安に寄り添った服薬フォローアップの重要性が改めて認識されています。一方で、精神疾患患者への対応について、慎重になり過ぎてしまい苦手意識をもっている薬剤師も少なくありません。
本特集では、精神疾患患者への対応を向上させるべく、患者対応のポイントについて解説します。