—— 市川先生は薬局専門税理士として活動されていますが,薬局専門税理士とは,どのような税理士なのでしょうか? 市川先生のご経歴とあわせて教えてください。
(市川)もともと,薬局で薬剤師として働いているときに,税理士資格に興味をもったのがきっかけです。なので,税理士の世界に入ったときも「薬剤師」がベースにあったため,ヘルスケア領域に強い事業部に配属されました。そこで税理士として,訪問看護や在宅医療の現場と関わるなかで,薬局・薬剤師だからみえる課題をなんとかしたいと思い,薬局専門税理士と名乗るようになりました。
—— 今回『調剤と情報』の臨時増刊号で「お金の話」を取り上げたいとお声がけをさせていただきました。本臨時増刊号にも記載がありましたが,そのときのお気持ちについて教えてください。
(市川)きっかけは,私が立ち上げたWebサイトでした。最初はブログのようにはじめたのですが,「薬局の経営課題」「税務上の最新の知見」などを書いたところ,薬局経営者の方などから,多くの感謝の声をいただき,薬局専門税理士のニーズの高さを感じました。また,時を同じくして『調剤と情報』の編集部からお声がけをいただき,薬局・薬剤師のお金に関する課題を解決する一助になればと思い,企画・編集を担当させていただきました。
—— 「10年前の経営手法が,いまは通用しない」とのことですが,薬局・薬剤師のお金の話はどのように変化してきたのでしょうか?
(市川)薬局のニーズが高かった10年前,そのニーズはM&A市場においても同様であり,自身が経営してきた薬局を売却しようとした場合,かなり良い値段がついていた時期がありました。しかし,市場再編や,オンライン診療をはじめとした医療DXの浸透により,薬局に10年前と同じ需要があるかというと,そうではありません。つまり,10年前と同じ値段はつかないということです。言い換えれば,10年前の成功例は,いまでは通用しません。いまの時代にあった戦略を,薬局経営者として描いていく必要があるのです。
インタビューに答える市川秀 氏
—— 「いまのお金の話」として知識をアップデートしていく必要があるということですね。ところで,ちょうど年末調整(2024年11月22日取材)の書類を提出したのですが,この時期になると「ふるさと納税」や「新NISA」「iDeCo」など,お金に関する話が多くなります。また,「税制」に関する議論が活発化するなど,年末から年明けにかけて,お金に関するさまざまな情報が入ってくるのですが,薬剤師または薬局の経営者として,どのように情報を得ていけばよいのでしょうか?
(市川)お金に関して詳しく,かつ信頼をおける人に相談するのが間違いないと思います。例えば,国だったり,顧問税理士だったりといった,金融商品や制度による利益がない人に相談するのがよいでしょう。何かしらの金融商品を扱っている人に相談した場合,都合の良い話だけをされるリスクがあることに注意が必要です。
また自分でアンテナを張り,お金の情報を得ることも重要ですが,情報をキャッチするためには,それ相応の知識が必要になります。そこでオススメなのは,ファイナンシャル・プランナー(FP)技能検定の参考書や問題集を読んでみることです。2級程度の知識があれば,お金に関する情報をキャッチしやすくなると思います。また,実際に検定を受ける必要はないので,参考書のすべてを読む必要はありません。「保険」「株式」「不動産」など,自分の興味のあるところだけを読むというようなアプローチも,頭に入りやすくてよいかもしれません。
なお昨今,税制に関する議論が白熱していますが,例えば,税制が変わるとなれば,国がパンフレットやリーフレットを制作します。この資材も重要な情報源となるので,しっかりと入手しておくことをお勧めします。ちなみに,じほうで発行されている『知らないと絶対損する 薬剤師のためのお金の強化書』も良書なのであわせて一読いただくのがよいと思います。
—— 弊社書籍の紹介までいただきありがとうございます。他の本ではなく,臨時増刊号のご紹介ということで,おすすめポイントやこだわったポイントなどについて教えてください。
(市川)まず,第1章のM&Aの話題がポイントとして挙げられます。ここだけで20,000文字以上もあり,M&Aを検討している方などがいれば,ぜひ読んでいただきたいと思います。また,それ以外のところでは,相続税,贈与税,所得税など,新人薬剤師に「知っておいてほしい」「読んでおいてほしい」をコンセプトに執筆をしたので,ぜひ手に取っていただきたいと思います。
—— ところで,本臨時増刊号はマンガという特徴もあります。表紙やマンガに登場する税理士の先生が,市川先生に似ている気がするのですが,ご本人的にはどのように感じていますか?
(市川)いろいろな人に,似ていると言われています(笑)。ちなみに最近は,あまりメガネをかけていないのですが,今日はインタビューがあるということで,ちょっとキャラクターに寄せてメガネをかけてきました。
本増刊号に登場するキャラクター
—— 本家のほうから寄せていただいたのですね! 誠にありがとうございます(笑)。さて改めて,「薬剤師とお金」について薬剤師の先生にメッセージをお願いします
(市川)対物業務から対人業務へとシフトしていくなかで,稼げる人と稼げない人の差がどんどん大きく開いていくのではないかと思います。一方で,本当に大切なお金の知識は,“お金を増やす知識”ではなく,“自分の生活(お金)を守るための知識”です。ぜひ本書が,お金について考えるきっかけに,そしてみなさんの生活を守るきっかけになればよいなと思います。