J i M a g a z i n e

自己増幅型ワクチンとしてMeiji Seikaファルマより発売された「コスタイベ®筋注用」。その新たな機序を含めて注目を集めています。そこで,Meiji Seikaファルマの方にインタビューしました。

—— 自己増幅型ワクチンとは,どのような特徴をもったワクチンなのでしょうか?

「コスタイベ®筋注用」は新規のmRNA技術を使用した次世代mRNAワクチン(レプリコン)であり,少量でも効果が長続きするため,年1回の定期接種に最適なプロファイルを有するワクチンです。安全性については既承認mRNAワクチンと同様であり,有害事象の多くが軽度または中等度であることが国内外の臨床試験で示されています。

—— 既存ワクチンと比較して,どのような利点が挙げられるのでしょうか?

中和抗体価の持続性が挙げられます。12カ月の「コスタイベ®筋注用」と従来型のmRNAワクチンの中和抗体価の持続性比較結果が,2024年10月7日に学術専門誌『The Lancet Infectious Diseases』に掲載されました1)。この結果から,次世代mRNAワクチンは従来のmRNAワクチンより発症予防効果および重症化予防効果が持続する可能性が示されており,年1回の定期接種において新たなワクチンの選択肢を提供するものと考えます。

—— 少量でも効果が長続きする秘密として「自己増幅」とともに「脂質ナノ粒子(LNP)」がキーワードになっているとのことですが,LNPについて教えてください。

mRNAワクチンで使用されるLNPは,カチオン性またはイオン化脂質,構造リン脂質,PEG化脂質,コレステロールなどの脂質で構成されており,mRNAをLNP中に内包することにより,mRNAが細胞に取り込まれる前に分解されるのを防ぎ,細胞内にmRNAを効果的に送達する役割を果たしています。

—— 臨床試験の成績および期待される予防効果について教えてください。

ベトナムで実施された初回免疫第Ⅲ相試験(ARCT-154-01試験)において,初回免疫における有効性(発症予防効果)はプラセボに対して56.6%,重症化予防が95.3%でした。また,国内で実施された起源株対応ワクチンを用いた追加免疫第Ⅲ相試験(ARCT-154-J01試験)において,起源株に対する中和抗体価がコミナティに対し,非劣性であるという検証がされています。さらに,同じく国内で実施された起源株およびオミクロン株対応の2価ワクチンを用いた追加免疫第Ⅲ相試験(ARCT-2301-J01試験)において,起源株およびオミクロン株に対する中和抗体価の優越性が,コミナティに対し検証されています。

—— 副反応の状況および既存ワクチンと比較したときの違いはありますか?

安全性について,有害事象および副反応の発現頻度は,既承認mRNAワクチンと同様であり,その多くが軽度または中等度でした。また,発現までの日数および持続期間についても,既承認mRNAワクチンと同様であることを確認しています。

なお,2024年10月29日現在,国内で販売開始以降に集積した副反応は10例14件でした。その内訳は,発熱が6件,注射部位仏痛が5件,倦怠感が2件,頭痛が1件であり,重篤な副反応の報告はなく,電子化された添付文書の使用上の注意から予測できる既知の事象でした。

—— RMPにおいて,重要な特定されたリスクに「ショック,アナフィラキシー」が設定されていますが,この背景について教えてください。

コスタイベ®筋注用の国内臨床試験(ARCT-154-J01試験,ARCT-2301-J01試験)では,アナフィラキシーは認められていませんが,海外臨床試験(ARCT-154-01試験)において,重篤なアナフィラキシー反応が1例1件および過敏症関連の重篤な副反応が3例3件(過敏症,薬物過敏症,Ⅳ型過敏症反応,各1件)認められています。また,他の新型コロナワクチンの製造販売後においてショック,アナフィラキシーが報告されていることや,発現すると生命を脅かす可能性があり医学的介入が必要になることから,より慎重に観察する必要があると判断し,「ショック,アナフィラキシー」を重要な特定されたリスクに設定しました。

—— 既存ワクチンにおいて,添加剤のポリエチレングリコール(PEG)が「ショック,アナフィラキシー」の原因になっているのではないかという話があったかと思いますが,コスタイベ®筋注用の添加剤として含まれているのでしょうか?

PEGは,ワクチンを含む医薬品の添加剤および化粧品など,幅広く使用される添加剤です。LNPの安定化や核酸の効率的な送達に寄与することから,既承認のmRNAワクチンのすべてにPEGを含む脂質誘導体が含まれており,mRNAワクチン製剤において重要な役割を果たしています。しかし,mRNAワクチン接種後のアナフィラキシー症例ではPEGが関与した可能性を指摘する報告もあり,引き続き研究が進められています2), 3)

—— RMPにおいて,重要な潜在的リスクとして「心筋炎,心膜炎」「ギラン・バレー症候群」が設定されています。これは新型コロナワクチンの副反応および新型コロナ感染症の症状の一つとして指摘されているための潜在的なリスクと考えてよいのでしょうか? また,現在までに報告例など把握されている情報はありますか?

コスタイベ®筋注用の臨床試験では報告されていませんが,他のCOVID-19のmRNAワクチンの製造販売後において報告されているため,潜在的リスクに設定しました。リスク最小化活動として電子添文および医療従事者/被接種者向け資材による注意喚起を実施しています。また,「心筋炎,心膜炎」「ギラン・バレー症候群」の発現状況に関する情報を幅広く収集するため,通常の情報収集に加え,一般使用成績調査において,使用実態下での情報収集を行っています。なお,2024年11月27日現在,国内で販売開始以降に集積した副反応において,「心筋炎,心膜炎」「ギラン・バレー症候群」は認められていません。

—— 添付文書には,腎機能障害や肝機能障害を有する患者は「接種要注意者である」と書かれています。「腎機能や肝機能が低下している患者」に注意ということは,消失経路へ何かしらの影響が出る可能性があるということでしょうか? また,コスタイベ®筋注用の消失経路に関する情報などがあればあわせて教えてください。

電子添文には,「予防接種法第5条第1項の規定による予防接種の実施について」(平成25年3月30日付健発0330第2号厚生労働省健康局長通知)の別添「定期接種実施要領」に基づき記載しました。新型コロナワクチンを含むワクチン共通の記載です。

コスタイベ®筋注用に含まれるmRNAの消失は,腎機能や肝機能とは関係なく,生体内の酵素により,分解され消失すると考えられます。

一方で,LNP成分の消失経路については,動物試験および試験管内試験の結果から,尿中排泄(腎クリアランス経路)と代謝または胆汁排泄(肝クリアランス経路)の両方が関与している可能性が示唆されています。しかしながら,腎機能障害者や肝機能障害者では,LNP成分の半減期が延長する可能性があるものの,腎および肝の両経路で消失すると考えられるため,機能障害が本成分の曝露に大きな影響を及ぼす可能性は低いと推定されます。

—— 添付文書には,「ブタ・ウサギ由来の酵素」の使用があると記載されていますが,例えば,豚肉アレルギーなどが理由で豚肉が食べられないという人にとって接種はリスクとなりますか?<

コスタイベ®筋注用に含まれるmRNAの原材料であるATP,GTP,CTP,およびUTPは,動物(ブタやウサギ)由来の酵素を用いて製造されています。これら原材料の製造工程にはフィルター濾過による精製過程があり,原理的にはそこで酵素は適切に除去されるため,食肉アレルギーを有する方に対してリスクになるとは考えていません。

—— 「自己増幅する」という機序から,呼気や汗から伝播(シェディング)するのではないかと心配する声が一部であがっています。シェディングについて改めて教えてください。

コスタイベ®筋注用を含むmRNAワクチンは,生ワクチンなどと異なり,感染性のウイルス粒子を作るために必要な構造タンパク質の設計図をもたず,ウイルス粒子を形成しないことから,他者に感染することはありません。コスタイベ®筋注用は全世界で,約1万8,000人を対象にヒトでの臨床試験を実施していますが,シェディングといわれる事象やそれによって有害事象がもたらされたという報告は確認されていません。厚生労働省の新型コロナワクチQ&Aにおいても,「現在,色々な国で,新型コロナワクチンのレプリコンワクチンを含め,様々な疾患を対象としたレプリコンワクチンの開発が進められていますが,これまでに,レプリコンワクチンを受けた方から他の方にワクチンの成分が伝播するという科学的知見はありません」4)とあり,その科学的知見がないことが明確にされています。

また,日本感染症学会,日本呼吸器学会,日本ワクチン学会より「2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解」5)が公表されていますが,厚生労働省が発信しているQ&Aと同様,シェディングはないと明言されています。

—— 「日本だけでしか承認されていない」という情報が出回っています。改めて,海外での承認や臨床試験の状況,今後の見通しなどについて教えてください。

日本のみで承認されたということではなく,コスタイベ®筋注用は国産ワクチンとして国からの支援のもと,国内治験開始から極めて短期間に,厳正な薬事手続きを経て世界に先駆けて先行して承認されたものです。グローバルの権利を有しているCSL Seqirus社は欧州において承認申請済みであり,審査が進んでいます。また,米国や他の国で開発を進めていると聞いています。

引用文献
1) Meiji Seikaファルマ:NEWS RELEASE(2024年11月19日)
(https://www.meiji-seika-pharma.co.jp/pressrelease/2024/detail/pdf/241119_01.pdf)
2) Picard M,et al:Safety of COVID-19 vaccination in patients with polyethylene glycol allergy:A case series.J Allergy Clin Immunol Pract,10:620-625.e1,2022
3) Pastor-Nieto MA,et al:Allergic contact dermatitis resulting from cetyl PEG/PPG-10/1 dimethicone in a deodorant cream.Contact Dermatitis,78:236-239,2018
4) 厚生労働省:新型コロナワクチンQ&A
5) 日本感染症学会,他:2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解

参考文献
1) Meiji Seikaファルマ:コスタイベ筋注用 市販直後調査 第1回中間報告(販売開始から1カ月間)
(https://www.meiji-seika-pharma.co.jp/medical/product_med/item/000536/upload/revision/side/000536_SID.pdf)

掲載号
調剤と情報2025年1月号

摂食嚥下障害だけじゃない!?
錠剤嚥下障害


企画:倉田 なおみ(昭和大学薬学部 社会健康薬学講座 社会薬学部門 客員教授/臨床薬学講座 臨床栄養代謝学部門 客員教授)


「錠剤嚥下障害」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。実は,「摂食嚥下障害」ではないにもかかわらず,「錠剤(薬)を飲めないという人」は少なくないのです。したがって,「服薬における嚥下」は「食事における嚥下」とは別のこととして考える必要がありますが,いままで問題視されることはありませんでした。しかしながら,患者は服薬に不安を感じたり,我慢しながら服薬を続けており,薬剤師による錠剤の嚥下能力評価に基づいた服薬の対応策が求められます。
本特集では,「錠剤嚥下障害」の基礎や現状・課題について解説します。さらに,国内初の服薬時の嚥下に特化した自記式アセスメントツール「PILL-5[日本語版]」などについて紹介します。