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第34回日本医療薬学会年会が11月2~4日,千葉県の幕張メッセとTKP東京ベイ幕張ホールで開催された。薬物療法をはじめ,教育,研究,医療DXなど幅広いテーマで61のシンポジウムが設けられたほか,ポスター発表は1,000題を超えるなど,さまざまな角度から白熱した議論が各会場で展開された。編集部がレポートする。

第34回日本医療薬学年会の会場となった幕張メッセ

消化管内の薬物動態を考える

年会企画シンポジウム2「薬物消化管吸収を科学する」では,白坂善之氏(金沢大学医薬保健研究域薬学系薬物動態学研究室)が「最先端イメージング技術で視る薬物吸収動態とその変動要因」と題し講演を行い,消化管吸収は「カオス」であると,その複雑さについて解説するとともに,最先端技術を用いて得られた知見について述べた。

はじめに白坂氏は,薬物の吸収にはX軸(膜透過などの薬物動態的な影響),Y軸(飲食物,疾患,性差の影響など),Z軸(崩壊性などの製剤学的な影響)があるとし,それぞれを個々に考えることが大切であるとする一方で,身体の中を総合的に考える必要があるとした。

このうち,経口医薬品の薬物動態においては「消化管内の薬物動態」が重要であり,薬物を服用する際の飲水量に血中濃度は影響を受けると解説した。具体的にはアモキシシリンやダナゾールなどの溶解性の低い薬物を水250mLまたは水25mLで服用した場合,血中濃度推移が異なるという。

なぜ,血中濃度推移が異なるのか。これには,消化管内の薬物の濃度と消化管内の表面積(有効表面積)が関係している。薬物の吸収において「濃度勾配に比例する(単純拡散)」という言葉が示すとおり,「濃度」が重要である。しかし,難溶性薬物の場合は溶けにくく,服用した薬物のすべてが溶解するわけではないため,水250mLでも水25mLでも飽和濃度で一定となる。したがって,この「濃度」だけでは飲水量の違いが,血中濃度推移に影響を与えるということの説明ができない。

そこで注目されるのが「消化管の表面積(有効表面積)」である。消化管と薬物との接触表面積が大きければ大きいほど,薬物が吸収されやすいことは容易に想像されるが,飲水量がこの「有効表面積」に影響を与えているのではないかということが考えられる。

この仮説を検討するにあたり用いたのが「量子ドット」および「組織透明化技術」に「薬物動態」をあわせた最先端イメージング技術である。この技術を用いて,消化管内で薬物の接触している部位を調べたところ,少量の水で服用した場合は消化管の片側のみしか触れておらず,消化管表面の一部でしか薬物が吸収されていない可能性が示唆された。また,飲水量を増やすと,有効面積が大きくなることも示唆されたという。

つまり,難溶性薬物を服用する際の飲水量が異なると,消化管内の「薬物濃度」は飲水量に関わらず一定であるが,飲水量が多ければ,有効面積が増加するため,血中濃度が上昇すると説明した。また,よく水に溶ける薬物では,薬物がすべて溶解しているため,飲水量の増加により,希釈されて薬物濃度が低下する。一方,有効表面積は難溶性薬物と同様に増加するため,相殺されて,あまり変わらないということが示された。

その他,講演内では糞便形成の影響についても解説した。本来,大腸は吸収能を有しているが,一般的に,ほとんど吸収が起こらない。この疑問に対して,糞便中に薬物が移行した結果,薬物が大腸で吸収されないのではないかというものである。

イメージング技術を用いて検討したところ,一定時間を経過すると,量子ドットはすべて糞中に移行することが示されたとし,溶解した薬物は量子ドットと同じ動きをすると考えられることから,すべて糞便に移行してしまい大腸で吸収できないのではないかと語った。

最後に白坂氏は,創薬の視点では,難吸収性といわれる薬物において,糞中に取り込まれないよう工夫することで,大腸からの吸収が期待でき,難吸収性薬物の吸収率をあげることができるのではないかとした。また,臨床としては,剤形の選択や相互作用について検討する際にデータとして活用できるようにしたいと語った。

掲載号
調剤と情報2024年12月号
認知症パンデミック時代における 薬剤師の役割


企画:三輪 高市(鈴鹿医療科学大学 薬学部)


地域包括ケアシステムの構築のめどとなっている2025年には、高齢者の5人に1人が認知症になるといわれています。2040年には認知症患者数は800万人に達し、その社会的コストは21兆円を上回ると推計されています。認知症治療において、早期発見と継続した薬学的管理が、患者予後の面にも社会的コストの面にも重要であることは明らかです。したがって薬剤師が職能を発揮し、活躍することが期待されています。
本特集では、「認知症パンデミック時代における薬剤師の役割」をさまざまな視点で検討します。