J i M a g a z i n e
静岡県熱海市の中心,市役所前に店を構える岡田薬局。創業75年を超えるこの老舗を継いだ代表の三井 敦先生は,薬剤師でありながら,ご当地チョコミントアイス「あたみんと」を生み出した。着想のもとになったのは,調剤室で扱うハッカ油である。

今回の「RxInfoTV」では,薬剤師がアイスづくりに取り組んだ3年間の歩みと,その先に三井先生が見据える薬局のかたちについて聞いた。

「薬を渡すだけ」にとどまらない

あたみんと

──三井先生は大のチョコミント好きだそうですね。まずは熱海で薬局を営む薬剤師として,普段どんな思いで日々の仕事に向き合っているのか聞かせてください。

会社の理念として「明日をもっと健やかに」を大切にしています。患者さんに健康を届ける薬局であることはもちろんですが,働く社員も,自分自身も,そして地域も,どう健やかにできるかを意識しています。薬剤師というと「薬を渡す人」,いわゆる袋詰めをする人というイメージがあるかと思いますが,そこにとどまらない何かができないかと日々考えながら,薬局を営んでいます。

熱海は,全国平均と比べてもかなり早いペースで高齢化が進んだ地域です。実際,ほぼ2人に1人が高齢者であり,熱海市の高齢化率は2023年の集計で48.6%と,全国平均(29.1%)を約20ポイント上回っています。さらに今後も上昇が見込まれており,2045年には55.6%に達すると推計されています。したがって,日本全体がこれから直面する高齢化を,一足早く経験しているともいえます。在宅の需要も増えていますが,処方箋やお薬を通して関わる人だけでなく,熱海に来た人にも,ワクワクしたり元気になったりしてもらえる,そんな価値提供が薬局からできないかと考えています。

──岡田薬局は,観光地・熱海の中心,市役所前という立地にあります。現場で働く薬剤師からみると,一般的な門前薬局とは患者層も来局動機もずいぶん違うのではないかと思います。日々,どんな方が訪れ,どんな対応をされているのでしょうか。

岡田薬局は,いわゆる「門前」をもたない薬局です。以前は隣にクリニックがあり,その門前として営んでいたのですが,10年ほど前に閉院されてからは,門前のない状態で続けています。

患者層は,約95%が地元の高齢者で,「ここだったら昔の情報まで全部わかるでしょう」「薬剤師の対応が丁寧で優しい」「雰囲気が好きだから」と言ってくださる方が多いです。岡田薬局は創業75年で,もともと薬店としてスタートしています。その後,先々代の代に「これからは処方箋調剤もやるぞ」と保険調剤を行うようになり,いまに至ります。

三井 敦 先生

薬局×何か──ハッカ油という入り口

──薬局がアイスを手がけるというのは,現場の薬剤師からすると,正直かなり意外な取り合わせだと思います。日々薬局に立つなかで,三井先生がこうした取り組みに向かっていったのは,どんな思いからだったのでしょうか。

もともと,薬局単体で完結させるのではなく,「薬局×何か」というかたちを実現したいという思いがありました。知り合いにも,本屋を併設した薬局や,喫茶を併設した薬局があって,さまざまなものを掛け合わせている。その姿を見ていて,自分も何か掛け合わせたいと考えていたんです。

岡田薬局を引き継いだのは2021年7月ですが,何を掛け合わせるかは,しばらく決めかねていました。そう考えるうちに,ここは熱海で,観光客が訪れる地域だと,改めて思ったんです。観光で来られる方と薬局が接点をもつのは,せいぜい突発的な体調不良や船酔いの薬くらいで,処方箋を介して関わることはほとんどありません。それなら,観光客に向けた何かを届けたいと考えました。

ちょうど熱海は,スイーツの街として盛り上がっていて,プリンをはじめ数多くの専門店が軒を連ねています。その流れに乗るかたちで,スイーツで何かできないかと自然に考えていきました。

──着想のきっかけは,調剤室のハッカ油だったと伺いました。そこから,薬剤師がアイスを一から世に出すというのは,相当な道のりだったと思います。最初の一歩は,何から始めたのでしょうか。

スイーツに挑戦しようと決めたものの,具体的に何を作るか考えあぐねていたとき,思い当たったのが,調剤室で扱うハッカ油でした。あの匂いがとにかく好きで,ずっと気になる存在だったんです。

はじめは,北海道・北見の名高いハッカ専門店の商品を取り寄せて,そのまま薬局で売ることも考えました。ただ,それでは熱海とのつながりがない。やはり自分でつくるしかないと考え直したんです。ハッカ油をどう使うか思案していた矢先,ハッカ油を使用した調剤の最中に,ふと「ハッカはミントなのだから,チョコミントアイスにできるじゃないか」とひらめきました。

しかし薬局には,アイスを作る設備も技術もありません。そのため,まずは製造委託先を見つける必要がありました。インターネットで「アイス 製造委託」と検索し,見つかった候補先に片っ端から「こういうものを作りたい」と連絡を入れる。本当に,そこからのスタートでした。

薬剤師が作るチョコミントアイスと目指した世界一

──「あたみんと」は現在,ホワイトチョコミント,ショコラミント,塩ミルクミント,はちみつレモンミントの4種類が販売されています。なかでも最初に生まれたホワイトチョコミントとショコラミントは,同じチョコミントでも味わいがかなり違うそうですね。それぞれどんな味を目指し,使うミントはどう変えているのでしょうか。

ミント好きの方にはホワイトチョコミント,苦手な方にはショコラミント。そんな住み分けになっています。

ホワイトチョコミントは,そもそも僕が最初に作ろうとしていたアイスのかたちです。チョコミントアイスといえば青緑のような色をイメージされると思いますが,それだとインパクトがない。そこで,一般的なイメージとまったく異なる真っ白なチョコミントアイスを作ろうと考えたんです。「ハッカ油」を使った「真っ白」なチョコミントアイスが,「あたみんと」の原点でもあります。

ホワイトチョコミントだけでもいいかと思っていたのですが,ミントが苦手な人や,食べたことがない人にも楽しんでほしい。そう考えて,ミントを弱めにしたショコラミントを開発しました。こちらはペパーミントを使っていて,探せば「いるかな」というくらいの,ささやかなミント味です。

──アイスの種類によって,ミントを使い分けているということですが,ミントもハッカ油も同じカテゴリーのもので,違うものという意識は,あまりないように思います。実際のところ,両者はどのように違うのでしょうか。

まったく違いますね。同じ薬効群の薬でも,一つひとつ薬物動態や効き方が違うのと同じで,ミントも種類によって香りの強さや清涼感の質がそれぞれ違うんです。

いわゆる「ミント」と聞いて皆さんが想像するのは,ペパーミントだと思います。香りが強く,葉っぱっぽい。歯磨き粉やグリーンガムの香りと言うと,わかりやすいでしょうか。スペアミントはもう少し穏やかで,ほのかに甘い香りがします。一方,ハッカ油はそのどちらとも毛色が変わります。言葉にするのは難しいのですが,同じ爽やかさでも,とがったところがなく,それでいて清涼感はしっかりあって,ハッカそのものの匂いがするんです。

どのミントも,清涼感のもとになる成分はl-メントールです。ただ,含まれる量がそれぞれ違います。ハッカ油(和種のハッカ)はl-メントールの含有率が65〜85%程度と際立って高く,ペパーミント(50〜60%程度)やスペアミント(ほとんど含まず)と比べても,ずいぶん多い。ちなみに,スペアミントの甘い香りは,カルボンという別の成分が主体です。同じ「ミント」であっても,成分の構成は種類によってだいぶ違うんです。

──数あるミントのなかで,日本薬局方にも収載されているハッカ油を選ばれたのは,なぜだったのでしょうか。

シンプルに,薬局で扱っているのがハッカ油だったからです。だから,どのミントにしようかと選んだわけではなく,最初から「これを使う」と決めていました。実際,製造をお願いするときも,仕様として「このハッカ油で作ってください」と指定していたので,業者さんと「ミントではダメなんですか」という議論になったこともありません。

また,薬局である自分たちがアイスを作るわけですから,どこにでもあるミントではなく,あえてハッカ油を使うことに意味があると考えています。

──アイスづくりを進めるなかで,薬剤師としての視点が役立った場面はありましたか。

薬剤師の視点ということで言うと,2つあります。一つは,いまお話ししたハッカ油を使うこと自体です。市販のミント系のアイスを見ても,ハッカ油を使ったものはほとんどありません。そんななかでハッカ油に目をつけたのは,日頃その素材に触れている薬剤師でなければ,なかなか出てこない発想だったと思います。

もう一つは,倫理的なところです。開発当初は,とにかくミントを濃くすることにこだわっていました。ただ,濃くしていくと,清涼感を通り越して刺激や苦みのほうが立ってくる。突き詰めると,健康を害しかねないところまでいってしまうんです。

アイスは薬ではなく,あくまで嗜好品です。楽しんで食べてもらうものなのに,身体に害が及ぶようなものを作ってしまっては,本末転倒です。健康を守る立場の人間として,そこはやはり譲れませんでした。もっとも,どんなに尖ったものを作っても,美味しくなければ意味がないですからね(笑)。

──開発当初は「ミントを濃くすることにこだわっていた」とのことですが,そこまで「濃さ」を追い求めたのは,どんな思いからだったのでしょうか。

やるなら,誰もやったことのないことをやりたかったんです。薬局がアイスを作るというだけでも珍しいですが,どうせやるなら,とことん目立ちたい。目立つには一番になるしかないと思って,「それならギネスだ! 世界一だ!」と,今思えば,かなり安直に「ミントの濃さで世界一」を目指していました(笑)。

ところが,実際に一番濃い試作ができあがって口にしてみたら,「目指していたものはこれじゃない」と,頭をガツンとやられたような衝撃でした。チョコミントアイスが大好きな僕でさえ,おいしくなくて最後まで食べきれませんでした。こんなものを,わざわざ熱海まで来た人に楽しんでもらえるのか,記憶に残る良い体験になるのか。そう考えて,これは違うと「おいしさ」に舵を切ったんです。

ただ,世界一そのものを諦めたわけではありません。チョコミントアイスのフレーバーの数であれば,アイデアは無限に出てきますから,世界一を目指せるのではないかと考えています。

地域に開かれた薬局へ

──フレーバーを増やしていくというお話のとおり,新たに「塩ミルクミント」と「はちみつレモンミント」が加わりました。なぜ,この2種類だったのでしょうか。

この2つは,「熱海の塩」と「伊豆山のはちみつ」を使ったもので,熱海への恩返しという気持ちから生まれたフレーバーです。あたみんとは,熱海に来てくれた人に楽しんでもらうために作ったもの。せっかく熱海まで足を運んでくれたのなら,その土地ならではの味覚を味わってもらうことで,その思い出がより豊かなものになればと考えたんです。

──アイスづくりに対して,社内のスタッフやご家族は,最初どんな反応でしたか。その反応は,今では変わってきたのではないでしょうか。

最初は,「社長がまた勝手に何か始めたぞ」という反応でした(笑)。薬局の冷凍庫に試作のアイスがどんどん増えていくので,スタッフは「何だろう」と思っていたはずです。妻にいたっては,そもそもチョコミントアイスが苦手なので,しばらくは「なんでそんなものを」という様子でした。

ただ,アイスの開発が進み,実際に販売されるなど具体化していくと,反応は変わってきました。はじめは様子をみていたスタッフが「自分も手伝いたい」と言ってくれたり,試食して感想を寄せてくれたり。妻も,チョコミントアイスが苦手な立場から「これはいける」「これはダメ」とはっきり言ってくれています。また,新商品のチョコミントアイスをコンビニなどで見かければ買ってきてくれるようにもなりました。周囲の反応は,大きく変わったと思います。

試作を食べてもらいながら,少しずつ周りを巻き込んでいく。その積み重ねが,いまにつながっているのだと思います。

──薬局でアイスを売るというのは,普通はまず見かけない光景です。「あたみんと」の販売は,薬局という場所に何か変化をもたらしましたか。

来局される方の顔ぶれが大きく変わり,ラジオやSNSで「あたみんと」を知って,県外からわざわざ足を運んでくださる方が増えています。「チョコミントアイス好きの家族に,絶対に買ってこいと言われて来ました」という方もいるほどです。

もともと薬局は,処方箋やOTC医薬品など,「薬が欲しい」という理由がなければ,なかなか入りにくい場所です。ところが,「あたみんと」を目当てに来た方は,「アイスが欲しい」という理由があることで,ためらいなく扉を開けてくれます。「処方箋がなくても気軽に立ち寄れる薬局にしたい」という思いは多くの薬局にあると思いますが,そのためには,薬以外の入口がいる。「あたみんと」は,その入口になってくれたのだと思います。

おわりに

──最後に,ハッカ油から「あたみんと」を開発した三井先生に,同じ現場に立つ薬剤師へ伝えたいことをうかがえますか。

調剤や服薬指導をまじめにこなすことは,薬剤師として何より大切です。そのうえで,もし少し余裕があれば,「自分の薬局で,他に何ができるだろう」と考えてみてほしいんです。僕の場合は,それがたまたまアイスでした。でも,その「何か」は人それぞれでいい。一人ひとりが自分なりの答えを見つけていけたら,薬局はもっと面白い場所になっていくはずです。

体験レポート

真っ白なチョコミントアイス

ホワイトチョコミント(税込699円)※取材時

取材を終えたあと,店頭で「ホワイトチョコミント」を一つ購入した。

とにかく白い。三井先生が「色は絶対に白にしようと思った」と語っていたので白さは予想していたが,勝手にバニラアイスくらいの白さを思い浮かべていた。ところが実物は,その想像をはるかに超える真っ白さだった。

口に運ぶと,まずミントがしっかり香る。ぼんやりとした清涼感ではなく,輪郭のあるミントだ。調剤室のあのハッカ油が,こうしてアイスのなかで生きているのかと思うと,少し面白い。全体はすっきりとしていて,ホワイトチョコの甘さがちょうどよく追いかけてくる。爽やかさと甘さのバランスが取れていて,最後まで重たくならない。

「世界一濃いミント」を目指したものの,途中でおいしさへ舵を切ったという三井先生の話を思い出す。この穏やかなおいしさは,その方向転換の先にたどり着いた答えなのだろう。

✓岡田薬局

所在地:〒413-0015 静岡県熱海市中央町4-18
アクセス:JR伊東線「来宮駅」より徒歩約5分/JR「熱海駅」より徒歩約15分(市役所前・隣接有料駐車場あり)
開局時間:9:00〜18:00(土曜は16:00まで)
電話:0557-82-6111
運営:株式会社ふぁるめど
URL:https://atami-okadapharmacy.com/

2026年8月号