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「処方箋がないと薬局に入ってはいけない」と思っている地域住民に出会ったことのある薬剤師は少なくないはずだ。本来,薬局は「一番身近な医療の専門職のいる場所」といえるはずだ。ところが,住民にはまだその認識が広まっておらず,薬局が十分に活用されていないというのが現状である。
この現状を変えようと挑戦しているのが,福島県会津若松市にあるひのき薬局だ。同薬局は図書館を併設し,処方箋がなくても気軽に立ち寄れる場として地域に開放している。さらに,地域住民が自由に利用できるフリースペースや,管理栄養士が常駐する認定栄養ケア・ステーションを設け,多様な接点から地域の健康を支えている。
「RxInfo TV」第18回では,会喜地域薬局グループの馬場 祐樹 先生に,この取り組みに至った背景や具体的な実践についてうかがった。

「一番身近な医療の専門職のいる場所」という考え方

——ひのき薬局では「一番身近な医療の専門職のいる場所」という言葉を掲げていらっしゃいます。この言葉にはどのような考えが込められているのでしょうか。

処方箋がなくても相談できる場所だと認知されていない──そういう課題は以前から感じていました。厚生労働省も「かかりつけ薬剤師」や「健康サポート薬局」などの施策を打ち出していますが,一般の方にはなかなか届いていないのが現実です。そこで,まず敷居を下げようと考えました。

薬剤師は専門家であるべきだと思っています。ただ,「先生」と呼ばれると敷居が上がって相談しづらくなる。「あの人,そういえば薬屋だったな」くらいの距離感がちょうどよいと考えています。医療の専門性は保ちながらも距離感は近い存在。それが「一番身近な医療の専門職」という言葉に込めた思いです。

——「処方箋がないと薬局に入ってはいけない」と思っている住民は少なくありません。そうした声を,現場で感じることはありましたか。

おっしゃるとおり「入っても大丈夫ですか?」と,おずおずと入ってくる方は多いですね。薬局は扉があって,パーテーションで区切られていて,カウンター越しに対面する。処方箋という"入場チケット"がないと,薬局に入ってはいけないと思っている方が少なくないのだと思います。

もちろん,よく来てくださる近所の方は「こんにちは,元気?」と気軽に寄ってくれます。ただ,薬局は普段健康だと行かない場所ですから,"入場チケット不要"だと知る機会自体がなかなかないのだと思います。

——"薬局に入るための入場チケット"という認識を変えるために,ひのき薬局では図書館,フリースペース,認定栄養ケア・ステーションと複数の施策を展開されています。この3つを選んだ理由を教えてください。

この場所に薬局を開局したのが約25年前なのですが,建物の老朽化もあり建て替えの必要性が生じていました。以前の薬局は,外から薬局の中が見えないような,いわゆる昔ながらの薬局の構造でした。シンプルに薬局を建て直しただけでは,"薬局に入るために入場チケットが必要"という認識を変えることはできないと思っていたので,「地域の方の居場所になれる薬局にしよう」というコンセプトで新しい薬局を作ろうと考えました。

地域の方に開かれた薬局ということで,カフェにしようなどの案もあったのですが,結局,カフェにするとコーヒー代という"入場料"が発生してしまいます。それでは「地域の方の居場所」としての機能が不十分になってしまうので,"入場料"の発生しない図書館とフリースペースを併設した薬局というスタイルを選びました。

認定栄養ケア・ステーションについては,少し切り口が異なり,実は建て替え前から取り組んでいます。管理栄養士に活躍の場を提供したいというのと,食事は健康をプラスにもっていくアプローチという面があるので,より積極的に地域の健康を支えたいと継続して取り組んでいます。

馬場 祐樹 氏

図書館について

——薬局に図書館を併設するというのは全国的にも珍しい取り組みです。この発想はどこから生まれたのでしょうか。

静岡県焼津市に「みんなの図書館さんかく」という,市民が「一箱本棚オーナー」として自分の好きな本を置いて,店番も担うといった地域の方の参画で成り立っている図書館があります。地域の方の参画というところは,私の目指すところでもありますから,この運営の仕組みを参考にすることにしました。

また,薬局に図書館を併設すると,例えば医療系や健康系の本を置けば,地域の方と薬剤師の会話のきっかけにもなったり,本を借りに来ただけの方が,気づいたら薬剤師と顔見知りになっていて,気軽に健康相談できるようになっていた──そういう関係が生まれるのではないかと思うようになりました。また,図書館のみを作るのと違い,薬局併設の場合は,薬局で図書館の運営費を賄うことができるため,純粋に"入場料のかからない居場所"を提供できる点において,相性の良さに気づいたというのも重要だったと思います。

——ひのき薬局に併設された図書館(ひのき図書館)は,地域の方と一緒に図書委員会を立ち上げ,運営されているそうですが,どのような体制で運営されていますか。

薬局の管理者とは別に図書館長を置き,図書委員として地域の方2〜3名,さらに社内スタッフ数名で運営しています。蔵書管理には「まちライブラリー」という私設図書館向けのシステムを用いており,現在の蔵書は1,082冊です。

また,図書館の運営には司書の知識も重要です。近所に現役を退いた司書さんがいらっしゃるので,図書の分類や管理などについて助言をいただいています。「予算もつけて本の購入もしないとダメよ」といった,図書館をさらに利用してもらうためのアドバイスもいただいており,大変ありがたいです。

——推し本コーナーや朗読会など,地域住民が参加できるかたちを意識的に採用されていますが,そのねらいを教えてください。

まず図書館に来てもらい,「ここに居場所があるよ」ということを知ってもらうことが大事だと考え,地域住民が参加できるものを積極的に採用しています。

例えば,推し本コーナーは薬局スタッフの発案で始めた取り組みで,地域の方にご自身の推し本を自分の言葉で紹介してもらうというものです。好きな本を紹介でき,参加できるという点で,図書館の活動を自分事として捉えてもらうのに重要な取り組みとなっています。また,お勧めコメントを読んだ別の方がその本を手に取り,今度はご自身の推し本としてコメントを寄せてくれる──こうした本を通じた地域の輪を広げていければと考えています。

朗読会は,近所の小学校などで朗読劇をやっている団体に協力いただき開催しています。実際に開催すると40〜50名ほどが集まることもあり,地域の方に気軽に足を運んでいただけるきっかけになればと思っています。

図書館の本棚

フリースペースについて

——フリースペースはどのような位置づけで設けられたのでしょうか。

設計を進めていくと,「図書館なのだから落ち着いて本が読めるスペースが欲しいよね」とか「会議室も欲しいよね」「料理教室ができるキッチンがあるといいよね」とさまざまな希望やアイディアが生まれてきました。それらは,地域の方が薬局に来るハードルを下げることに直結するものだったので,「すべて採用した薬局を設計してほしい」と設計士にお願いしました。ですので,地域の方の居場所を提供したいというコンセプトから自然と生まれたものともいえます。

——フリースペースの利用者はどのような方が多いですか。

午前中は比較的お子さん連れのお母さんが多いですね。絵本も多く揃えているので,調剤を待っている間にお子さんと一緒に過ごしていらっしゃいます。午後になると,特に3時以降は地域の子どもたちが多くやってきます。今の子どもたちは,友だちの家に遊びに行くのは「お父さんかお母さんが家にいるときにしましょう」と学校から指導されているようです。共働きの家庭も多いので,昔と違って子どもが遊ぶ場所がないという状況のようで,そうした子どもたちの居場所になっています。また,小学生だけでなく中学生や高校生も来ていて,小学生にとっては遊び場,中高生にとっては勉強場所として機能しています。

薬局の外側にはベンチを設けていて,そこは近所のおじいちゃん,おばあちゃんが散歩の途中に井戸端会議をする場所にもなっています。子どもから高齢者まで,地域の居場所として活用いただいている印象です。

利用する子どもたちからのメッセージ

——オープン当初は,薬局にフリースペースがあると知っている住民は少なかったと思います。地域への周知はどのように進めたのでしょうか。

イベント開催とメディアへの露出,そして口コミが主なところです。特に子どもの利用者が多いので,口コミの効果が一番大きいのではないかと思います。最初に4〜5人の子どもに声をかけたら,その子たちが友だちを連れてきて,またその友だちが別の友だちや兄弟を連れてきて──といった具合に利用者が増えていきました。

イベントとしては,朗読会などを学校の長期休暇にあわせて開催し,地域へ周知しています。また,管理栄養士がいるので料理教室も定期的に開催しています。こうしたイベントにお友だち同士で参加してくださったり,ここで新たにご近所同士のつながりが生まれたりと,コミュニティの場にもなっています。

認定栄養ケア・ステーションについて

——管理栄養士さんの話がありましたが,ひのき薬局は「認定栄養ケア・ステーション」を取得されているとのことでした。「認定栄養ケア・ステーション」という言葉にあまり馴染みがないのですが,改めて教えていただけますでしょうか。

日本栄養士会が認定する,地域における管理栄養士の拠点で,福島県内の薬局では,ひのき薬局が初めて認定を受けました。管理栄養士が常駐していて栄養相談ができる,あるいは管理栄養士の派遣を依頼できる拠点という位置づけです。

——福島県内の薬局で初めての取得だったとのことですが,取得に至った経緯を教えてください。

薬局は介護保険上の栄養士の配置基準に含まれていないため,なかなか算定に結びつけられず,「薬局で管理栄養士をどう活かすか」という問題に,多くの薬局が頭を悩ませているのではないかと思います。

ただ算定に結びつかずとも,食事は健康をプラスにできる要素です。したがって,疾患の有無に関係なく食事の相談ができるというのは,地域の方にとって良いことだと考えています。当薬局でも同様の問題を抱えていたところ,他県で管理栄養士を活用した先進的な取り組みをしている薬局さんに,認定栄養ケア・ステーションについて教えていただき,取得に至ったというわけです。

——料理教室を開催されているそうですが,薬局で開催するとなると「減塩」などをテーマに,高血圧が気になる方を対象にしているのかなと想像するのですが,どのような料理教室を開催しているのでしょうか。また,参加者の反響はいかがでしょうか。

おっしゃるとおり「減塩」などのテーマを毎回決めて開催しています。しかしながら,疾患に固執しているわけではなく,「タンパク質を摂りやすいメニュー」「フレイル予防のためのメニュー」などさまざまです。実際,参加者に参加動機を聞くと,「高血圧が気になるから」というような方はほとんどおらず,「面白そうだったから」「おいしそうだったから」という方や,「近所で楽しそうなイベントをやっていると聞いたから」という方など,純粋に料理を楽しむために参加していただいています。特に新作メニューを披露する教室は人気があり,チラシを配布すると3日ほどで満席になってしまうことも少なくありません。

また,料理教室には薬局スタッフにも一緒に参加してもらっています。薬局全体で食への関心を高める機会であると同時に,地域の方とのつながりの場としても重要だと考えているためです。

料理教室や朗読会などを開催できるフリースペース

——薬剤師と管理栄養士の連携は,具体的にどのように行っていますか。

薬局内では,薬剤師から管理栄養士に食事の相談をつないだり,逆に管理栄養士がフロアでお声がけして食事の相談を受けてから服薬指導につなげたりといった連携を取っています。

また在宅の患者さんは,食事の問題を抱えている方も少なくないので,管理栄養士が帯同して食事指導を行うという取り組みを行っています。また指導だけでなく,ケアマネジャーさん向けに「栄養チェックシート」を作成し,栄養のアセスメントを行う取り組みも進めており,ケアマネジャーさんから好評をいただいています。

地域住民との関係性の変化

——冒頭でも触れた「処方箋がないと入りにくい」という認識は,変わってきていると感じますか。

リニューアルからまだ2年なので劇的な変化は難しいですが,いま頻繁にフリースペースを利用してくれている子どもたちが大きくなったときに,薬局をどのように見てくれるのか楽しみに思っています。

また,実際に「子どもからここ薬局だと聞いたんですけど」と来局される親御さんもいますし,近所の方からも「図書館の薬局」とよばれるようになりました。徐々に「処方箋を持っていなくても入ってよい場所」という認識が広がっているのかなと感じています。

——図書館やフリースペースをきっかけに,薬剤師への健康相談につながったというようなエピソードはありますか。

印象に残っているのは,ネグレクトが疑われる小学生のケースです。フリースペースを利用していた子どもについて,近所の方から「あの子,お腹空いているみたいだけど大丈夫かしら」とご相談をいただきました。そこから配食サービスにつないだり,児童相談所に連絡したりといった対応をしました。

また,普段から薬局を利用されている患者さんが図書館に立ち寄った際に,「そういえばあの薬,あんまり効かないんだけど」と相談されたこともあります。一番身近な医療職として,「そういえば」というタイミングで話を聞けたのは目指すべき姿を一つ体現できたのかなと思いました。

リニューアルから2年を経て

——リニューアルから2年が経ちましたが,「一番身近な医療の専門職のいる場所」という目標に対する手応えはいかがでしょうか。

地域への浸透という点では,「こういう場所がある」という認知が広がっているという手応えを感じています。特に「地域の方の居場所になる」という点においては,薬局は既存の行政制度からこぼれてしまう方の居場所になり得るということを示せているのではないかと実感しています。

——逆に,想定どおりにいかなかったことや,難しさを感じていることはありますか。

人が集まる場所を作ったとしても,そこに自然にコミュニケーションが生まれるわけではありません。薬局として,地域の健康拠点として活用いただくためのコミュニケーションは,こちらからアクションを起こす必要があります。かといって,押しつけがましく距離感を詰め過ぎれば,「あそこの薬局は使いにくい」と利用されなくなってしまいます。そういった適度な距離感や内部運営という点においては,まだまだ改善点があると考えています。

今後の展望と読者へのメッセージ

——今後,新たに挑戦したいことはありますか。

地域の方の居場所を作るという第一のミッションはクリアできたので,次にこの場所に,健康に関するポジティブなコンテンツを付加していきたいと思っています。例えば薬育系のゲームを用いたイベントなど,地域の子どもたちに健康や薬局・薬剤師に興味をもってもらえるような企画に取り組んでいきたいですね。子どもだけでなく大人も含めて,健康について気軽に考えられる空間にしていけたらと思います。

——最後に,地域との関わりを深めたいと考えている薬剤師に向けて,メッセージをお願いします。

さまざまな事例をみていると,薬局が地域との関わりを深めるには,まず自分から一歩踏み出していくという気概が大事であると思いますし,そこに薬局の規模は関係ないと思います。

実は私は薬局の規模が関係すると思い込んでいたので「十分な建物がないとダメだ」と思って,今回のリニューアルを行いました。しかし,実際やってみるとあまり建物のほうは関係ありませんでした。結局は人と人のつながりなので,地域へ自分から一歩踏み出さなければコミュニケーションは生まれません。「薬剤師さん」ではなく「薬局の○×さん」と名前で覚えてもらえるようにならないと,地域との関係は深まらないと思います。

「ここに住んでいる」「この地域の健康を担う」という覚悟をもって地域にどっぷり浸かることが,薬局が地域との関わりを深めるうえで重要なポイントなのだと思います。

SNS情報
ひのき薬局外観

ひのき薬局

住所:福島県会津若松市東千石1-2-30

電話番号:0242-38-2838

2026年2月号