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医療の進歩や地域包括ケアの推進により,人工呼吸器や経管栄養などの医療的ケアを必要とする子どもたちが,病院から自宅での療養へと移行するケースが増えています。こうした小児在宅医療の現場では,薬剤師にも高度な服薬支援や家族支援が求められるようになりつつあります。「RxInfo TV」第12回では,小児在宅に関する経験の少ない環境のなかで小児在宅への介入を開始し,5年にわたって現場を支え続けている信安恵見先生(ぞうしき薬局)に,その挑戦の歩みと,支援のなかで見出した気づきについてお話をうかがいました。

経験ゼロから始めた小児在宅医療への挑戦

小児在宅訪問を開始してから約5~6年が経過し,現在では薬局全体で月40件程度,およそ25人の患児を継続的に担当しています。「小児在宅」に興味はあっても,小児の処方には調剤手技や計算も複雑なことから「経験がないと難しいのでは」と,一歩踏み出せない薬剤師も多いかもしれません。 当薬局でも最初の依頼を受けた時点では小児在宅の経験はなく,不安もありました。

それでも「小児の在宅医療に挑戦したい」という想いを大切にし,初めての介入を決断しました。その一歩が,現在の継続的な支援体制へとつながっています。現在,医療の進歩により在宅医療が必要な医療的ケア児も増えており,薬剤師のニーズも高まっているので,ぜひ勇気を出して踏み出してもらえたらと感じています。

患児だけでなく家族を支える薬剤師の視点

最初の1件目で学んだ「家族を支える基本の姿勢」

医療ケア児の在宅支援では,薬剤管理や意思疎通の多くを担うのが患児の家族です。最初に担当した感じの例ですが,多職種と比較し,ご家族との関係性にやや距離があり,どのように関係性を築くべきか模索していました。そうしたなかでも毎回「お薬のことで困ったら,いつでもご相談くださいね」と伝え,寄り添い続けていったところ,少しずつ信頼関係が構築され,いまでは薬についてすぐに尋ねてもらえる関係となり,患児も私たち薬剤師の顔を覚え,訪問時に近寄ってきてくれるように。

小児は成長する存在であり,在宅支援は中長期にわたることが多くなります。時には関係性の構築がスムーズにいかないこともありますが,家族に寄り添い,薬剤師から積極的に声をかける勇気もとても大切であることを痛感する経験でした。

処方箋送信アプリを活用したご家族との連携

こうした「すぐに相談できる関係づくり」の一環として,当薬局では,処方箋送信アプリ(kakari,図1図2)を導入し,事前の処方箋送信だけでなく,チャット機能を活用して薬に関する相談を24時間受け付ける体制を整えています(返信は営業時間内)。電話では相談しにくい内容でも,チャットであれば気軽に送ってもらえるため,ご家族にとっても利便性の高い手段となっています。こうした日々のやり取りが,訪問時の会話のきっかけとなるほか,薬剤師が訪問できていない間の患児の状態を把握するうえでも非常に役立っています。


図1 ぞうしき薬局における処方箋送信アプリ「kakari」の活用例

〔メドピア株式会社作成資料より一部抜粋〕


図2 薬局配布用の処方箋送信アプリの案内資材

〔株式会社大和調剤センター ぞうしき薬局作成〕

患児の家族ごと支える姿勢も不可欠

患児に兄弟のいる場合には必ず,兄弟の名前を覚えて訪問時に名前を呼んで挨拶するようにしています。こうした配薬のみで終わらせない小さな心配りは,家族との信頼関係づくりの一助となるだけでなく,コミュニケーションを通じて得られる情報が,処方の妥当性の判断材料となり,医師との処方見直しに発展することがあるのも事実です。

また,あるケースでは,患児の母親がAD/HDを抱えており,部屋の整理やスケジュール管理がうまくできず,患児のケアに影響が出ていました。小児在宅では通常,ケアマネジャーのサービスは利用できないため,病院や訪問看護師が中心となって進められますが,この事例ではどの職種も対応が難しい状況でした。薬局は比較的関与しやすい立場にあったため,まずは母親の疾患に対する介入を開始し,訪問看護師の導入につなげた結果,部屋の片付けやスケジュール管理ができるようになり,患児の状態も安定。最終的には患児の在宅医療の卒業までにつながったケースもあります。

患児のケアは適切な情報収集と多職種連携が重要

情報収集と学習の工夫

介入当初は,専門的な勉強に加え,患児の病態理解のために診療情報提供書を読み込み,医師や看護師と密に連携しながら,必死で小児在宅に取り組みました。小児の疾患や薬物療法は専門的で,疑問に対して一人で答えを出すのが難しいことも多々あります。私は小児薬物療法研究会に所属し,定期的な勉強会への参加や他の薬剤師との情報交換を通じて知識を深めました。社内外を問わず,学びや相談ができる環境を整えておくことは,小児在宅に取り組むうえで大きな力になります。

他職種・病院・薬局内─あらゆる連携が不可欠

小児在宅では,他職種との関係性がピラミッド型ではなく,“輪”として築かれます。医療的ケア児の薬物療法は複雑なことが多く,薬剤師の意見が重視される場面も少なくありません。

当薬局では,患児のケアの決定に地域の多職種連携ツール「メディカルケアステーション(MCS)」を活用し,医師や歯科医師,訪問看護師,医療ソーシャルワーカーなどとリアルタイムで情報共有を行っています。訪問前に患児の状態や家族の様子を把握できるため,より的確な支援が可能になります。また,小児在宅クリニックの医師からも常に「いつでも相談して」と声がけしてもらえるので,疑義照会に限らず,電話での確認もスムーズに行えています。

そして患児は病状の変化も多いため,病院薬剤師との薬薬連携や病院や小児在宅クリニックの医師や看護師ら,市役所職員らが参加するカンファレンスへ参加し,最適なケアの決定を行うことが大切です。そして小児在宅は薬剤のセットや物品の用意・配達など,一人で完結できる業務ではないからこそ,薬局内でも助け合いが欠かせなく,ともに取り組んでくれる薬局スタッフには本当に感謝をしています。

小児在宅で得た学びと 次の一歩を踏み出すあなたへ

小児在宅は,正直にいえば本当に大変です。しかしその分,患児の成長を家族と一緒に見届けられる喜びがあり,大きなやりがいがあります。一つひとつの家族にそれぞれの物語があり,薬剤師としてそのなかでどのように支えられるかを考え続ける日々です。小児在宅支援は中長期にわたることが多く,家族は一人で頑張りすぎてしまう傾向にあるといわれています。患児・家族への積極的なサポートも継続し,多職種で協働しながら,薬物治療においては地域の頼れる存在となるよう努めていきたいと考えています。みなさんの地域にもきっと支援を求めているクリニックや患児・家族がいらっしゃるかもしれません。小児在宅医療も薬剤師としての職能がふんだんに発揮できる場であると思っています。興味がある方はぜひ,勇気を出して一歩踏み出してみていただけたら嬉しいです。

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掲載号
調剤と情報2025年7月号

薬剤師なら知っておきたい はたらく肝臓


企画:柘植 雅貴(広島大学病院 肝疾患センター)


肝臓は,薬物の代謝を行う主要な臓器であり,肝臓の状態は副作用や相互作用に直結します。近年,抗ウイルス療法の進歩によりウイルス性肝疾患のコントロールは飛躍的に向上しましたが「MASLD/MASH」(従来の「NAFLD/NASH」)の患者数は増加しています。

本特集では,いま一度肝臓のことを深く考える機会として,生理学から病理学,薬物代謝学まで,さまざまな視点で肝臓を掘り下げていきます。