—— プログラムの内容はどのようなものなのでしょうか?
池田:プログラムは2つのパートに分かれていて,フレイルやオーラルフレイルに関する簡単なセミナーと,折りたたみ椅子を使ったチェアダンスの実践となります。セミナーのパートでは座学だけではなく,歯科医師が主導となって口腔機能低下症予防に有効とされる体操やセルフマッサージも行います。

池田:チェアダンスのパートでは,チェアレスクⓇの基本的動作をゆっくりした動きで数セット,休憩を挟みながら行います。本来のチェアレスクⓇならば,露出度の高い衣装を纏い,ヒールの高い靴を履いてアクロバティックな動きを行うこともありますが,本プログラムではチェアレスクⓇを高齢者向けにアレンジし,優雅でゆったりとした動作のみに絞っています。解説を挟みながらお手本のチェアダンスを柚月が躍るので,参加者には無理のない範囲で柚月にあわせて躍ってもらいます。チェアダンス用の楽曲は,70〜80代の参加者によく知られているナンバーを事前に用意していますが,私たちが用意していたチェアダンスのセット数よりも,もっとたくさん躍りたい,物足りないなどのご意見をいただくこともあります。そのため,当日のリクエスト曲にも対応するようになりました。
—— 参加者の反応や反響はいかがですか?
池田:「楽しく体を動かせて気分がスッキリした」「肩こりが軽くなった」「口の健康について意識するようになった」などの感想を参加者からいただきました。参加者の満足度は高く,再参加希望者も多いことがアンケート調査でわかっています。また,チェアダンスの感想を短歌で詠んでくださった参加者もいました。芸術活動の感想を芸術作品で返されるという嬉しい経験です。
また,知人の歯科医師や高齢者施設の施設長などの医療関係者からも「エンタメ要素を加えたほうが,高齢者も楽しくサルコペニア予防ができそう」「オーラルフレイルの予防のため,継続的に講義をしに来てほしい」といった好意的なご意見をいただきました。

—— アンケートからもわかるように,エンターテイメント性を取り入れたフレイル対策ということで,参加者も楽しく取り組めるのではないかと思います。一方で,課題や難しさを感じた部分などはあるのでしょうか?
池田:フレイルやオーラルフレイルという言葉の認知度の低さですね。参加者へのアンケート調査では「フレイル」については30%の人が,「オーラルフレイル」については50%の人がまったく知らないと回答していました。たしかに,このような専門用語を知らなくても健康増進の自助努力は可能でしょう。しかし「私は問題なく毎日ご飯が食べられている。まだ自分は大丈夫」などと思い込み,口腔ケアの重要性を十分に理解していないケースがあるかもしれません。今後はプログラムのなかに,オーラルフレイルのセルフチェックを追加する予定です。
—— 今日はありがとうございました。今後,フレイルやオーラルフレイル予防のプログラムの目標を教えてください。
池田:高齢者向けのチェアダンスプログラムを全国展開したいと考えています。私たちが近畿圏に住んでいることから,現在は大阪,兵庫,京都,奈良に活動が限定されています。今後は,東京など遠方の都市部やオンラインでも活動していく予定ですので,私たちのプログラムに賛同してくれる医療従事者やダンサー仲間などを増やしたいと思っています。
本誌の読者の薬剤師の先生方も,おくすり相談や薬に関するセミナーの講師などとして即戦力です。少しでも,私たちの活動に興味をもっていただけるのであれば,直ちにご連絡いただければと思います。ぜひ,一緒にやりましょう。もちろん,「薬に関する活動だけでは物足りない」「チェアダンスを高齢者に教えたい」という方も大歓迎です。服薬指導とチェアダンスの指導,両方のスキルを兼ね備えた仲間がいれば無敵です。また,医療従事者は体力勝負なところがありますから,ご自身の薬局や薬剤部でも,部下や上司にチェアダンスのレッスンをしてあげてください。ただし,コンプライアンス違反にならない程度の運動強度でお願いします(笑)。
—— 最後に,薬局で働く薬剤師へ向けたメッセージをお願いします。
平井:高齢者が最も身近に利用する医療機関の一つが薬局です。薬剤師は,服薬指導だけでなく,未病を病に進行させない,すなわち健康増進も薬剤師の仕事という認識が広まってきています。超高齢社会では,フレイルやオーラルフレイルの早期発見のキーパーソンとして,薬剤師は重要な役割を果たせます。「食事・運動・睡眠」が健康の必須要素とはいえ,具体的にどんな運動をやればいいか,それを持続させるにはどうするか,医師から指導されることは少ないように思われます。こういうときこそ,薬剤師の出番です。皆さんのスキルを薬局のなかにとどめておくのはもったいない。アウトリーチ型の健康サポート活動で地域に貢献してみませんか? ぜひ私たちと一緒に高齢者向けイベントを開きましょう。