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「RxInfo TV」第10回で紹介するのは千葉県船橋市にあるLintos café(リントスカフェ)です。インクルーシブ(あらゆる人を排除せず受け入れるという考え方)をコンセプトに運営されているカフェで,嚥下機能が弱い人でも安心して食べられるインクルーシブスイーツを提供しています。今回は,インクルーシブとは何か,そして,「地域」における役割について考えていきます。

(左)木村文さん(Lintos café店長),(右)小林広樹さん



—— 「インクルーシブ」を中心に据えたカフェとして 2023 年にオープンされたとのことですが,コンセプトや背景について教えてください。

Lintos caféがある千葉県船橋市は,われわれ三和製作所(以下,弊社)創業の地です。弊社は,「健康(医療・介護)」「安全(防災・防犯)」「教育(教育・教材)」の3つの分野における,ものづくりと流通を得意とする会社です。そしてここは,その流通拠点の倉庫でした。現在は,流通倉庫は別の場所に移転しましたが,流通倉庫だった頃は,トラックがずらっと並んで道を塞いでしまうなど近隣住民に多くの迷惑をおかけしていました。そのため,流通拠点が移転する際に,この場所は近隣住民に還元できるような施設として活用できないかと考えました。

弊社は教育分野において,障がいのある子ども向けの特別支援教育用品の開発にも注力しているので,「あらゆる人を排除しない」というインクルーシブに強い想いがありました。

近隣住民に還元できる施設かつインクルーシブな空間ということを考えた結果,誰もが安心して食べられるカフェを作ろうということで,Lintos caféをオープンしました。

—— Lintos caféでは,パスタなどのカフェメニューの他に,「インクルーシブスイーツ」を提供されていますが,「インクルーシブスイーツ」について教えてください。

「インクルーシブスイーツ」は,「子どもから高齢者まで,障がいの有無にかかわらず,同じ空間・同じタイミングで,加工することなく,一緒に『いただきます』できるケーキ」というのがコンセプトです。嚥下機能が低下している場合,誤嚥性肺炎のリスクから,健常な人と同じものを食べることができないことも少なくありません。また,リスクを下げるために柔らかくなるまで煮たり,ムース状にしたりなど加工を行う場合もありますが,そうすると,どうしても健常な人向けのものと見た目が変わってしまいます。そこでそのような課題を解決できないかと,戸原 玄 先生(東京科学大学)などと共同研究し,見た目も華やかで嚥下機能障害の有無にかかわらず,一緒においしく食べられるケーキを作ろうと研究・開発したのがインクルーシブスイーツです。

また,嚥下機能障害は子どもや高齢者だけでなく,さまざまな障害のために「口」から食べることのできない人もいます。つまり「鼻」や「胃」からも,同じ食卓で一緒に食べることができるということも,インクルーシブの観点から重要でした。そこで,経鼻経管栄養や胃瘻の人もチューブを介して食べることができるようにと開発しました。

通常のケーキは,スポンジやクリームなど,さまざまな硬さや粘度のもので構成されていますが,この違いが,むせや誤嚥性肺炎の原因となります。そのためインクルーシブスイーツは,スポンジ部分も含め,すべて同じ硬さ・粘度になるように工夫して,誰でも安心して食べられるようにしています。例えば「いちごとあん」のケーキはいちご大福をイメージしており,一番上の層はおかゆのゼリーです。嚥下機能が低下していると,なかなか食べることのできない「いちご大福感」を味わえると喜ばれています


新食感なめらかケーキ
(後列)ほうじ茶とチョコ,ゆずとチーズ
(前列)抹茶と黒ごま,いちごとあん


—— 実際に食べてみると,スポンジをしっかりと感じながらも,全体が調和してスッとした喉ごしで,おいしく食べられるケーキですね。いちごとあんのケーキは,食べると口いっぱいにいちごの味が広がって,嚥下の問題でケーキを諦めていたような人に大変喜ばれるのではないかと思いました。やはり,嚥下機能が低下した人や家族が購入されることが多いのでしょうか?

介護食として開発したわけではなく,誰でも一緒に食べられるケーキというのがポイントのケーキで,さまざまな人の選択肢の一つになればと思っています。そのため,変に嚥下機能障害患者用と限定しないために「新食感なめらかケーキ」という販売名で提供しています。実際,高齢の人から小さい子ども連れや若い人まで,多種多様な人にケーキを楽しんでいただいています。

—— 確かに,店内では若い人から高齢の人まで,さまざまな人が食事を楽しまれたり,勉強や仕事をしたりしていて,「インクルーシブ」が溶け込んでいる空間が実現されていますね。

店内は,もちろんバリアフリーを採用し段差はありません。また,ベビーカーや車椅子が通れるように通路の幅も広く取ったり,みんなのトイレや授乳室,さらにはドッグテラスも完備したり,人だけでなくペットも含めインクルーシブなカフェとして営業しています。その人らしさが当たり前のように輝く場所として,今後もカフェを運営していければと思います。


店内の様子


—— インクルーシブスイーツは医療の現場での提供はされているのでしょうか?

先ほども紹介したとおり,胃瘻の人なども食べることができるケーキです。以前,医師の指導のもと,胃瘻の子どもにケーキを食べてもらったことがあるのですが,胃に入るとパッと顔が明るくなって喜んでくれたことがいまでも忘れられません。医療の現場でも大変喜ばれるケーキであると思いますし,実際に,病院食として出したいという要望をいただくこともあります。

しかし,このケーキはLintos caféのパティシエが独自のレシピで一つひとつ手作りしているものです。また,特殊性から普通のケーキと比べて崩れやすく,輸送難度が高くなります。冷凍して輸送もしていますが,食べる当日に解凍し当日中に食べないといけないなど,病院食として提供するには課題が多くあります。

また,われわれをはじめカフェのスタッフには医療従事者も医療の専門家もいませんので,医療サービスを受けているような人が食べるという場合は,主治医や医療従事者とよく相談していただく必要があります。

今後,一つひとつ課題を克服しみんなが笑顔になる食卓に貢献できるケーキとしていければと思います。

—— 近年,さまざまな分野において「地域」という視点がクローズアップされています。本日,お話をうかがい,インクルーシブが地域において重要なテーマの一つなのではないかと思いました。最後にメッセージをお願いします。

Lintos caféの理念は「誰もがともに過ごし,共通の価値を享受できる場を提供する」です。「インクルーシブ」とは単に「受け入れる」ことではなく,ともに生き,ともに楽しむことなのだと思います。「嚥下障害で食べられなくても」「障がいがあっても」「小さい子どもがいても」,どのような人でも過ごしやすい場所が地域にあるということが大切だと思いますし,そこを中心に良い街が広がっていくのではないかと思います。認め合う世界を目指して,今後も取り組んでいきます。

リントスカフェへのアクセス

Lintos café


営業時間:11:00〜18:00(LO:17:30
定休日:毎週月曜日,火曜日(※臨時休業日あり)
リントスポート内
〈電車〉
JR総武線…西船橋駅より徒歩20分
京成線…海神駅より徒歩11分
〈車〉
京葉道路 船橋IC(東京方面より)より1分
駐車場4台(近隣にコインパーキングあり)

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掲載号
調剤と情報2025年5月号

こっそり学び直したい薬剤師のためのホルモンの学校


企画:森山 賢治(武庫川女子大学薬学部 臨床病態解析学研究室)


薬学部で学んできたはずのホルモン関連薬ですが、ホルモンの作用機序の複雑さや、理解不足などから、苦手とする薬剤師も少なくありません。また、性ホルモンは更年期障害や月経困難症、緊急避妊薬、女性アスリートの性ホルモンの問題、男性の更年期障害や男性型脱毛症(AGA)など、薬局の薬剤師においても身近な話題に関連しています。

本特集は、ホルモンの学校と題し、ホルモンについて、薬剤師がこっそり学び直せる企画です。第1限目となる今回のテーマは「女性ホルモン・男性ホルモン」とし、医師視点のアプローチや薬局での対応などについて解説します。