—— 実際に食べてみると,スポンジをしっかりと感じながらも,全体が調和してスッとした喉ごしで,おいしく食べられるケーキですね。いちごとあんのケーキは,食べると口いっぱいにいちごの味が広がって,嚥下の問題でケーキを諦めていたような人に大変喜ばれるのではないかと思いました。やはり,嚥下機能が低下した人や家族が購入されることが多いのでしょうか?
介護食として開発したわけではなく,誰でも一緒に食べられるケーキというのがポイントのケーキで,さまざまな人の選択肢の一つになればと思っています。そのため,変に嚥下機能障害患者用と限定しないために「新食感なめらかケーキ」という販売名で提供しています。実際,高齢の人から小さい子ども連れや若い人まで,多種多様な人にケーキを楽しんでいただいています。
—— 確かに,店内では若い人から高齢の人まで,さまざまな人が食事を楽しまれたり,勉強や仕事をしたりしていて,「インクルーシブ」が溶け込んでいる空間が実現されていますね。
店内は,もちろんバリアフリーを採用し段差はありません。また,ベビーカーや車椅子が通れるように通路の幅も広く取ったり,みんなのトイレや授乳室,さらにはドッグテラスも完備したり,人だけでなくペットも含めインクルーシブなカフェとして営業しています。その人らしさが当たり前のように輝く場所として,今後もカフェを運営していければと思います。

—— インクルーシブスイーツは医療の現場での提供はされているのでしょうか?
先ほども紹介したとおり,胃瘻の人なども食べることができるケーキです。以前,医師の指導のもと,胃瘻の子どもにケーキを食べてもらったことがあるのですが,胃に入るとパッと顔が明るくなって喜んでくれたことがいまでも忘れられません。医療の現場でも大変喜ばれるケーキであると思いますし,実際に,病院食として出したいという要望をいただくこともあります。
しかし,このケーキはLintos caféのパティシエが独自のレシピで一つひとつ手作りしているものです。また,特殊性から普通のケーキと比べて崩れやすく,輸送難度が高くなります。冷凍して輸送もしていますが,食べる当日に解凍し当日中に食べないといけないなど,病院食として提供するには課題が多くあります。
また,われわれをはじめカフェのスタッフには医療従事者も医療の専門家もいませんので,医療サービスを受けているような人が食べるという場合は,主治医や医療従事者とよく相談していただく必要があります。
今後,一つひとつ課題を克服しみんなが笑顔になる食卓に貢献できるケーキとしていければと思います。
—— 近年,さまざまな分野において「地域」という視点がクローズアップされています。本日,お話をうかがい,インクルーシブが地域において重要なテーマの一つなのではないかと思いました。最後にメッセージをお願いします。
Lintos caféの理念は「誰もがともに過ごし,共通の価値を享受できる場を提供する」です。「インクルーシブ」とは単に「受け入れる」ことではなく,ともに生き,ともに楽しむことなのだと思います。「嚥下障害で食べられなくても」「障がいがあっても」「小さい子どもがいても」,どのような人でも過ごしやすい場所が地域にあるということが大切だと思いますし,そこを中心に良い街が広がっていくのではないかと思います。認め合う世界を目指して,今後も取り組んでいきます。