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茨城県の最北端にある人口約1万4,000人,高齢化率50%を超える茨城県久慈郡大子町に,地域密着型の薬局,「ビッグママあこ薬局」があります。今回の「RxInfoTV」では,調剤をはじめ,OTC医薬品や漢方相談を通じて,地域住民の健康を支える活動についてお話を伺いました。

「ビッグママ」に込められた想い

—— 「ビッグママあこ薬局」という薬局名がとても印象的ですが,名前の由来を教えていただけますか。

「ビッグママ」には特別な想いがあります。ひとつは,「地域の皆さんに覚えてもらいやすい名前」を付けようと思ったこと。もうひとつ目指したのが,子どもに対して見返りを求めない無償の愛で接する「お母さんの姿」で,「お母さんのような気持ちでお客さまに接したい」という想いで名付けました。


根田氏のラジオ収録風景



もともとスーパーの中にインショップの形で開局していましたが,スーパーが閉店することになり,11年前に路面店に移転しました。この移転を機に,名前を「ビッグママ」から「ビッグママあこ薬局」に変更しました(写真1)


写真1 ビッグママあこ薬局の外観


—— 「あこ」とは,どのような意味ですか?

実は,開局時の正式登録名も「ビッグママあこ薬局」でした。「わが子」という意味の吾子を平仮名で表し,「あこ」と名付けました。「あ」は“あ行”のなかで一番上にあるので「天」,「こ」は“か行”のなかで一番下にあるので「地」と考え,「天と地からエネルギーをいただいて,お客さまに差し上げたい」という思いも込められています。

地域密着型のサービスで築く信頼

—— 薬局を移転してから,どのような変化がありましたか?

薬局の移転後は,インショップのときのように“ついで買い”のお客さまがいなくなり,お客さまの数が半分以下になってしまいました。しかし,その分,漢方相談ではお客さま一人ひとりとの関わりが深くなり,相談内容も濃くなりました。大変なことも多いですが,今の薬局になってからのほうが,私が理想としているお店に少しだけ近づき,さらにやりがいも感じるようになりました。

想いをつなぐ,手書きのDM
ところが移転して月日が経つにつれて,さらにお客さまが少なくなりつつあるのを肌で感じるようになりました。これにはとても焦りました。そこで,目の前のお客さまを大事にするのと同時に,少しでも多くのお客さまに「あの薬局に行きたい」「あの薬局で相談をしたい」と思っていただくために,「ビッグママあこ薬局は,こういう気持ちでいますよ。このような取り組みをしていますよ」という内容を書いた,「ようこそ」という薬局の名刺がわりのお手紙を作りました(他の薬局の先生が作られていたのを参考にさせていただきました)(写真2)。来店されたお客さまで,「できればゆっくり相談していただきたいな」と思うような方へお渡ししています。


写真2 薬局の名刺がわりのお手紙——「ようこそ」


そして,「毎月手書きのDMを一年は続けよう!」と,いままで定期的ではなかった手書きのDMを毎月出すことにしました。ありがたいことに,「いつも楽しみにしています!」「毎月届くお手紙,ファイルに綴じています!」など,届くのを楽しみにしてくださっている声をいただいており,今ではすっかりやめられなくなってしまいました。手書きのDMは今年で11年目になります。DMでこちらの想いを伝え続けていると,同じような想いの方が来てくれるようになり,お客さま対応もしやすくなるように感じています。

—— 薬局では,どのようなイベントを開催しているのでしょうか?

例えば毎年6月に開く「お花いっぱいプレゼント」や,年末の「輪投げチャレンジ」など,季節ごとのイベントをたくさん開催しています。特に女性のお客さまはお花が好きな方が多いので,大変好評です。薬局もお花で賑やかになり,またお花の話などで盛り上がることもあり,お客さまとのコミュニケーション作りにも役立っています。

そして,お客さまにもっと喜んでいただけるイベントはないかと考えているときにスタッフから提案されたのが,「薬局ライブ」です。実は,以前から「ポレポレ♫」というグループ名で,友人と二人で弾き語りをやっていました。数年前から,薬局を会場として,夏は「夕涼み薬局Live」,冬は「年忘れ薬局Live」と名付けてライブを開催しています。披露する曲は,「言葉屋」といわれる歌手の中島みゆきさんの歌です。

—— 薬局ライブはどのような感じで行われているのですか?

曲と曲の間に,歌詞の解釈や,お客さまの心と身体を元気にするための食養生のお話などを挟みながら進めています。例えば,中島みゆきさんの『糸』という曲の歌詞に,「逢うべき糸に出逢えることを 人は仕合わせと呼びます」とあります。“幸せ”ではなく“仕合わせ”という字をあてており,これは「めぐりあわせ,運命」という意味になるそうです。「良いことも悪いこともすべて,一緒に糸のようにつないでいきたい」という思いを歌った曲なのです。

東洋医学では,気持ちの「気」が動かないと身体の中の「血」も「水」も動かず,気持ちの「気」が動くことで痛みが楽になったり,鬱々した気持ちが楽になったりと,気持ちも身体も元気にしてくれるという考え方があります。歌を聴いて涙を流される方や,帰り際に「元気が出ました。ありがとうございました」と言ってくださる方もいます。しかし,実際はいつも私たちのほうが元気をもらっています。音楽の力は本当に偉大で,「ポレポレ薬局ライブ」はできる限り続けていきたいと思っています(YouTubeで「ポレポレ薬局ライブ」と検索してみてください!)。

また,在宅医療の現場でも患者さんのご自宅にギターを持ち込んだことがあります(写真3)。この患者さんは,脳症による影響で手のひらに爪が刺さるくらい強い拘縮がありました。しかし,歌を聴いてくださる時だけ拘縮が緩み,その間に奥さまが爪を切ることができたと,とても喜んでくださいました。まったく,音楽の力はすごいのです。


写真3 在宅医療の現場で弾き語りをする根田氏


—— いまはラジオもされているそうですね。始めたきっかけや,放送している内容を教えてください。

コロナ禍のとき,薬剤師である夫が地元のFMラジオ局で「新型コロナ ワンポイントアドバイス」というコーナーを担当して,毎日5分間ラジオを放送していました。新型コロナウイルス感染症が5類になったことをきっかけに,「心と身体,健やかラジオ」という番組名に変えて,今度は私が「健やかに生きるためのさまざまな情報」を発信しています。

このように町の行事に参加することも,「ビッグママあこ薬局」の存在を地域の皆さまにわかっていただくきっかけになるのではないかと思っています。

薬局内から地域へ!─“いのちの大切さ”を伝える
ラジオの他にも,地元の学校薬剤師として小中学校で「薬物乱用防止教室」を開催したり,町が実施している「高齢者大学」や「いきいきサロン」などで講演をしたりしています。また,地域の人権擁護委員にも任命されており,小中学校の「人権教室」では“いのちの大切さ”を知ってもらうため,本物の聴診器で友達や自分の“いのち(心臓)の音”を聞いてもらう機会を設けています。

心の通う薬局を目指して

—— 先生が目指されている理想の薬局像を教えてください。

スマホやSNS,メタバースなどのデジタル技術がますます進化を遂げていますが,これは人間の「心」や「ぬくもり」が遠ざかる原因の一つになっているような気がします。人の温かい心や,ぬくもりなしでは生きていけないのが私たち人間です。だからこそ,多くの方が誰かに相談できる場所,温かい心を必要としているように思います。

「薬を買ってこよう」「調剤をしてもらおう」というだけの薬局ではなく,「一度相談に乗ってもらおう」「話を聞いてもらおう」というように,ほんの些細なことであっても気軽に駆け込んでくださる薬局になれるよう,地道に歩んでいきたいと思っています。そこには“心”がないと,本当にお客さまを元気にすることはできないのではないでしょうか。これからのキーワードは“心”ではないかと感じます。

—— 貴重なお話をありがとうございました。最後に,読者の皆さまへひとことメッセージをお願いします!

今年,17回忌を迎える私の三男なくして,今の私はありません。親が子どもを育てるのは当たり前ですが,私は子どもに育てられて今があるとつくづく感じています。

三男はいろいろな合併症をもち,ダウン症で生まれました。ビッグママあこ薬局の相談コーナーに並んでいるサプリメントや漢方をはじめとした推奨品は,「子どもをどうにか少しでも元気にしたい」「1分でも1秒でも元気でいてほしい」という思いで集めたものばかりです。人としての生き方,さまざまな考え方,そして先生方や良い商品との出会いを,身をもって教えてくれて天国に旅立った三男に感謝する毎日です。

最後に,「バカボン秘話」を紹介します。三男のお葬式の日,あるお坊さんの書いた『これでいいのだ』という本を知り合いの方からいただきました。このセリフは,漫画家・赤塚不二夫さんの『天才バカボン』でバカボンのパパが言っていた言葉です。「私を元気づけようとしてくれたのだな!」と思って本を読み進めていたのですが,最後のページに心を打たれました。そこに「バカボン秘話」が書かれていたのです。これはただの楽観的な言葉ではなく,人生の苦労や困難を受け入れ,それでも自分を見つめて歩んでいく覚悟の言葉なのかもしれません。

バカボン秘話

天才バカボンには次のような秘話がある。
バカボンのパパは早稲田大学のとなりのバカダ大学の秀才だった。同期のママと結婚して子供ができた。うれしかったパパは病院へかけつけると,生まれた子供は頭のうしろが絶壁のダウン症の子供だった。ショックのパパはふらふらと道に出て,車にはねられてしまう。つよく頭を打ったパパは起き上がった時に一言。「これでいいのだ」。「わしはバカボンのパパになるのだ」とさけぶ。以後,名前もなくなりバカボンのパパになり,いつでもこれでいいのだといって歩くようになったという。これでいいのだ以外には,タリラリラーンのタリラリラーンと言うだけだが,この言葉は実はチベットのマントラなのだ。緑ターラの真言で,明治時代に日本へはいって能楽にとりいれられた。まったくパパはすごいのだ。

(野口法蔵:これでいいのだ.七つ森書館,2009より)

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掲載号
調剤と情報2025年4月号

アトピー性皮膚炎の薬物治療


企画:大久保 ゆかり(東京医科大学 皮膚科学分野/東京医科大学病院アレルギーセンター)


アトピー性皮膚炎は遺伝的要因に加え、さまざまな要因が絡み合う完治の難しい疾患です。かつては子どもの病気とされていましたが、近年はさまざまな化学物質や紫外線などが原因となり、成人での有症率も増えています。薬物療法に加え、生活環境の見直しや、アトピー性皮膚炎の原因を回避する指導も治療においては重要であり、薬剤師による服薬後のフォローアップが求められます。また、アトピー性皮膚炎の薬物治療はステロイドを基本としていますが、新薬も続々登場しており、薬物治療についてアップデートが必要な時期に差し掛かっているといえます。
本特集では、近年発売された新薬を中心に、それぞれの特徴やフォローアップにおける注意点を解説します。