地域密着型のサービスで築く信頼
—— 薬局を移転してから,どのような変化がありましたか?
薬局の移転後は,インショップのときのように“ついで買い”のお客さまがいなくなり,お客さまの数が半分以下になってしまいました。しかし,その分,漢方相談ではお客さま一人ひとりとの関わりが深くなり,相談内容も濃くなりました。大変なことも多いですが,今の薬局になってからのほうが,私が理想としているお店に少しだけ近づき,さらにやりがいも感じるようになりました。
想いをつなぐ,手書きのDM
ところが移転して月日が経つにつれて,さらにお客さまが少なくなりつつあるのを肌で感じるようになりました。これにはとても焦りました。そこで,目の前のお客さまを大事にするのと同時に,少しでも多くのお客さまに「あの薬局に行きたい」「あの薬局で相談をしたい」と思っていただくために,「ビッグママあこ薬局は,こういう気持ちでいますよ。このような取り組みをしていますよ」という内容を書いた,「ようこそ」という薬局の名刺がわりのお手紙を作りました(他の薬局の先生が作られていたのを参考にさせていただきました)(写真2)。来店されたお客さまで,「できればゆっくり相談していただきたいな」と思うような方へお渡ししています。

そして,「毎月手書きのDMを一年は続けよう!」と,いままで定期的ではなかった手書きのDMを毎月出すことにしました。ありがたいことに,「いつも楽しみにしています!」「毎月届くお手紙,ファイルに綴じています!」など,届くのを楽しみにしてくださっている声をいただいており,今ではすっかりやめられなくなってしまいました。手書きのDMは今年で11年目になります。DMでこちらの想いを伝え続けていると,同じような想いの方が来てくれるようになり,お客さま対応もしやすくなるように感じています。
—— 薬局では,どのようなイベントを開催しているのでしょうか?
例えば毎年6月に開く「お花いっぱいプレゼント」や,年末の「輪投げチャレンジ」など,季節ごとのイベントをたくさん開催しています。特に女性のお客さまはお花が好きな方が多いので,大変好評です。薬局もお花で賑やかになり,またお花の話などで盛り上がることもあり,お客さまとのコミュニケーション作りにも役立っています。
そして,お客さまにもっと喜んでいただけるイベントはないかと考えているときにスタッフから提案されたのが,「薬局ライブ」です。実は,以前から「ポレポレ♫」というグループ名で,友人と二人で弾き語りをやっていました。数年前から,薬局を会場として,夏は「夕涼み薬局Live」,冬は「年忘れ薬局Live」と名付けてライブを開催しています。披露する曲は,「言葉屋」といわれる歌手の中島みゆきさんの歌です。
—— 薬局ライブはどのような感じで行われているのですか?
曲と曲の間に,歌詞の解釈や,お客さまの心と身体を元気にするための食養生のお話などを挟みながら進めています。例えば,中島みゆきさんの『糸』という曲の歌詞に,「逢うべき糸に出逢えることを 人は仕合わせと呼びます」とあります。“幸せ”ではなく“仕合わせ”という字をあてており,これは「めぐりあわせ,運命」という意味になるそうです。「良いことも悪いこともすべて,一緒に糸のようにつないでいきたい」という思いを歌った曲なのです。
東洋医学では,気持ちの「気」が動かないと身体の中の「血」も「水」も動かず,気持ちの「気」が動くことで痛みが楽になったり,鬱々した気持ちが楽になったりと,気持ちも身体も元気にしてくれるという考え方があります。歌を聴いて涙を流される方や,帰り際に「元気が出ました。ありがとうございました」と言ってくださる方もいます。しかし,実際はいつも私たちのほうが元気をもらっています。音楽の力は本当に偉大で,「ポレポレ薬局ライブ」はできる限り続けていきたいと思っています(YouTubeで「ポレポレ薬局ライブ」と検索してみてください!)。
また,在宅医療の現場でも患者さんのご自宅にギターを持ち込んだことがあります(写真3)。この患者さんは,脳症による影響で手のひらに爪が刺さるくらい強い拘縮がありました。しかし,歌を聴いてくださる時だけ拘縮が緩み,その間に奥さまが爪を切ることができたと,とても喜んでくださいました。まったく,音楽の力はすごいのです。

—— いまはラジオもされているそうですね。始めたきっかけや,放送している内容を教えてください。
コロナ禍のとき,薬剤師である夫が地元のFMラジオ局で「新型コロナ ワンポイントアドバイス」というコーナーを担当して,毎日5分間ラジオを放送していました。新型コロナウイルス感染症が5類になったことをきっかけに,「心と身体,健やかラジオ」という番組名に変えて,今度は私が「健やかに生きるためのさまざまな情報」を発信しています。
このように町の行事に参加することも,「ビッグママあこ薬局」の存在を地域の皆さまにわかっていただくきっかけになるのではないかと思っています。
薬局内から地域へ!─“いのちの大切さ”を伝える
ラジオの他にも,地元の学校薬剤師として小中学校で「薬物乱用防止教室」を開催したり,町が実施している「高齢者大学」や「いきいきサロン」などで講演をしたりしています。また,地域の人権擁護委員にも任命されており,小中学校の「人権教室」では“いのちの大切さ”を知ってもらうため,本物の聴診器で友達や自分の“いのち(心臓)の音”を聞いてもらう機会を設けています。