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「RxInfoTV」第8回は薬剤師のヒーロー「オーガマン」に注目しました。オーガマンは特撮ヒーローをモチーフとし,福岡県を中心にヒーローショー,YouTubeや特撮テレビドラマを通して,薬剤師の認知度の向上,残薬問題の啓発のための活動を行っています。医療の課題を楽しく伝えるための革新的な取り組みについて教えてもらいました。

薬剤師のヒーロー「オーガマン」とは

—— まずはオーガマンについて教えてください。

オーガマンは特撮ヒーローをモチーフにした,大賀薬局(当社)のオリジナルヒーローです。「不必要な薬を減らす」という使命のもと,ヒーローショーを通じて残薬問題の啓発活動を行っています。YouTubeでプロモーションビデオを公開しているほか,2020年からは福岡県を中心に,オーガマンと地域のヒーロー達が登場する特撮テレビドラマ「ドゲンジャーズ」が放送されています。

—— 残薬を減らす薬剤師のヒーローとして活動されるようになったきっかけについて教えてください。

オーガマン誕生のきっかけは「薬剤師の役割を知ってもらうヒーローを作ろう」という私の提案です。この発案の背景には,私の特撮ヒーローへの強い思いがありました。私は幼少期から仮面ライダーなどのヒーローに憧れを抱いており,経営に携わるようになってからも,その憧れをかたちにしたいと考えていました。当時,医師を題材にしたヒーローはある程度の知名度がありましたが,薬剤師のヒーローはまだ認知されておらず,また,薬剤師の仕事も生活者から十分な理解が得られているとはいいがたい状況でした。

加えて,中学高校が同卒という縁で紹介してもらった後輩が福岡で「悪の秘密結社」という企業を立ち上げていたことも,オーガマンが今の姿で誕生することになったきっかけの一つです。この会社はヒーローショーの敵役の提供や,シナリオ,スーツ制作を手掛けており,その協力もあって本格的なキャラクター設定を練ることができました。


全店で配布しているお薬手帳「やくいく手帳」



—— オーガマンを世に出すにあたって,意識したことはありますか?

ヒーローにとって重要なのは,「戦うべき大義」だと考えています。そのため,オーガマンの場合,「何を敵とし,どのような社会課題を解決するのか」を明確にすることを意識しました。

薬剤師の使命として「安全な医療の提供」「医療費の適正化」が挙げられます。医薬分業もこうした目的のために行われている制度です。そこで,薬剤師のヒーローであるオーガマンの大義を定める際には,これらの観点から問題視されている「残薬問題」を最大の敵として定めました。

また,残薬問題を解決するためには,次の世代への啓発が不可欠です。子どもたちに親しんでもらうために,オーガマンのデザインにも徹底的にこだわりました。スーツの質にも妥協せず,子どもたちが本当に「かっこいい!」と思えるものに仕上げています。

活動の反響

—— イベントではどのような活動をしているのですか?

ヒーローショーでは,「処方された薬は最後まで飲み切ることが大切」というメッセージを伝えたり,お薬手帳の正しい使い方について説明したりしています。参加者にはオーガマンの変身アイテムでもあるオリジナルのおくすり手帳「やくいく手帳」を配布し,楽しみながら薬育ができるよう工夫しています。参加した子どもの薬育がきっかけとなり,家族にも薬を適切に使用することの大切さが伝わる足がかりとなることで,残薬問題の啓発につながっていくのではないかと考えています。ただし,現時点ではその効果を具体的に調査できていないのが課題です。

—— ちょうどコロナウイルスの流行が始まったタイミングでのデビューでしたが,コロナ禍の影響はありましたか?

デビュー当初は商業施設や保育園,幼稚園を訪問し,ヒーローショーを開催していました。しかし,新型コロナウイルスの流行により,大規模イベントがすべて中止になってしまいました。せっかく作り込んだスーツを活用できず,もどかしい日々でした。そこで,YouTubeでの活動に力を入れたところ,そのクオリティの高さが話題となり,オーガマンの知名度向上につながりました。


保育園を訪問するオーガマン



コロナ禍が落ち着いてからは,生活者の衛生管理への関心が高まり,「手洗いやうがいの大切さ」を伝えるための依頼を受ける機会も増えました。他にも,福岡市の官民学連携プロジェクト「福岡100」と協力し,市と共同でポスターを制作し,若年層向けの感染予防啓発活動も行っています。福岡市保育士協会とも連携し,2022年から本格的に保育園訪問を再開しています。現在までに240園を訪問し,これまでに2万5千人以上の園児が参加してくださいました。

—— 生活者や医療従事者からの反応はいかがでしたか?

どのイベントでも,参加者の方々にはとても喜んでいただいています。特に保育者の方々からの反応がよく,子どもたちの楽しそうな姿を見て「こんなに喜ぶなら,また参加させたい」と感じてくださるそうで,次年度以降も継続して応募してくださる園が多くあります。

また,Webサイト上で「大賀薬局を知っていますか?」というアンケートを実施したところ,「知っている」と回答した割合は2023年時点で75.4%だったのに対し,2024年時点では80.8%と着実に増加しています。医療従事者に特化した調査は行っていませんが,保育園,幼稚園などで行ったイベントだと,参加した園児のなかには医療従事者のお子さんが一人はいることが多いので,医療従事者である保育者の方々から「子どもがとても楽しんでいた」といった感想を直接いただくことがよくあります。このような声を通じて,医療従事者の間でもわれわれの活動が徐々に認知されていることを実感しています。

オーガマンのこれから

—— 活動の今後の展望や,さらに取り組んでいきたい課題について教えてください。

2024年から新たに,小学校高学年などを対象にした出前授業を開始しました。この授業では,薬局の役割やその歴史,薬剤師になるまでの道のり,最新の薬局設備などを動画で紹介しながら,薬剤師という職業を身近に感じてもらうことを目的としています。ちょうど将来の進路を考え始める時期の子どもたちに,薬剤師という職業を選択肢の一つとして考えてもらえたら嬉しいです。

現在,福岡市内には約150の小学校がありますが,そのうち30校での授業実施を予定しています。オーガマンが登場すると,子どもたちの反応もとても良く,授業後には会社のSNSに直接メッセージが届くこともあります。「薬剤師に興味をもちました」「将来なってみたいと思いました」「医師になりたいけれど,薬剤師の仕事も魅力的だと感じました」といった声をいただくと,未来の薬剤師が増えていく可能性を感じ,非常にやりがいを感じます。

また,新たな取り組みとして,若年層の薬物乱用防止活動にも力を入れていきたいと考えています。現在,学校薬剤師の役割として違法ドラッグに関する啓発活動は行われていますが,OTC医薬品の適正使用について学ぶ機会はまだ少ないのが現状です。当社には学校薬剤師として薬学教育を担当しているスタッフもいるため,オーガマンの存在を活かし,よりインパクトのあるかたちで啓発活動を展開できるのではないかと考えています。オーガマンの新たな活動を通じて,地域の若者が正しい薬の知識をもち,安心して相談できる環境を整えていきたいです。


福岡市内で開始した出前授業



おわりに

—— 薬局で働く薬剤師へ向けたメッセージをお願いします。

薬局薬剤師の皆さんは,日々の業務のなかで患者の健康を支え,最善の提案をしながら医療を支える重要な役割を果たしています。その姿はまさにヒーローそのものです。私たちは,そうした薬剤師の皆さんの素晴らしい活動をより多くの人に知ってもらいたいという思いで活動を続けています。

残薬を減らし,患者にとっても,医療財政にとっても,よりよい医療環境を実現することは,私たち薬剤師にとって大きな使命の一つです。今後もともに力を合わせ,より良い医療の提供を目指していきましょう。

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掲載号
調剤と情報2025年3月号

食物アレルギー最前線


企画:中村 陽一(豊田地域医療センターアレルギーセンター)


食物アレルギーは、身近なアレルギーの一つです。食物アレルギーを有する患者に対して、薬物治療における注意点は薬剤師であればもちろん理解していますが、“常識”だけでは情報が不足してきていることはいうまでもありません。
本特集では、食物アレルギー最前線と題し、食物アレルギーの知識を整理するとともに、薬学部であまり学んできていない交差抗原性や「大人の食物アレルギー」、さらには食物アレルギーの治療や対応などについて、その“最前線”を解説します。