J i M a g a z i n e
「RxInfo TV」では,「今」そして「未来」を考える医療に関わる人々の挑戦や取り組みを,『調剤と情報』編集部セレクトで紹介しています。
セルフメディケーションは,健康寿命の延伸や社会保障制度の維持という観点から非常に重要です。令和6年度調剤報酬改定においては,地域支援体制加算の要件にOTC医薬品の48薬効群の取り扱いが加わったことや,スイッチOTCの議論の活発化などの流れから,薬剤師によるOTC医薬品の相談販売や受診勧奨など,セルフメディケーションの支援における薬剤師の役割が大きくなってきています。そこで今回は,OTC医薬品の販売から講演会,SNSによる情報発信などを積極的に行っている鈴木伸悟先生に,セルフメディケーション推進のための取り組みや販売時の工夫などについてお伺いしました。

薬局をファーストアクセスの場に

—— 先生がセルフメディケーションに興味をもち,OTC医薬品の販売に力を入れ始めたきっかけを教えてください。

私は幼い頃,口内炎ができたり虫に刺されたりしたときは,まず商店街にある薬局に行き,OTC医薬品を購入していました。当時の薬局は医療のファーストアクセスの場であり,購入する際には薬剤師が症状や商品の選び方などを丁寧にヒアリングしてくださり,「薬剤師さんは地域住民に頼りにされる,すごく身近な存在だな」と子どもながらに感じていました。この経験から,お客さまの症状や背景を聞いて,自らの判断で薬を選ぶ「OTC医薬品を販売する仕事」に興味をもつようになりました。

しかし,私が就職活動する頃の薬局業界は,処方箋調剤をメインとした医療機関の目の前にある調剤薬局と,医薬品のみならず雑貨や食品などを幅広く取り扱う量販店化したドラッグストアに二極化しており,幼い頃に通っていた自分が理想とする,昔の“薬局”は非常に少ないことに気づきました。そこで,時代の変化を感じながらも,昔ながらの薬局を蘇らせたいと思ったのが,薬局でOTC医薬品の販売に取り組んだ原点です。薬剤師国家試験に合格後は,大手ドラッグストアでのOTC医薬品の販売経験を経て,現在は調剤を主体とした調剤薬局でOTC医薬品販売に取り組んでいます。

薬局でのOTC販売は難しい……?

—— 薬局で OTC医薬品を販売していくにあたり,どのような取り組みをされているでしょうか?

普段の業務では,OTC医薬品を中心とした物販品の発注,陳列,販売,管理といった一連の業務などをしています。地域支援体制加算の要件を満たすために,ひとまずOTC医薬品48薬効群を配置したものの,これらの商品を「有効的に活用できるか」が課題となっている薬局もあるのではないかと思います。なかには「OTC医薬品は売れる見込みがない」「調剤薬局に置く意味があるのか」と思っているスタッフもいるでしょう。このマインドを変えるためには,まずは「OTC医薬品がある程度売れないと始まらない」と私は思っています。

—— 一般的に,来局者にとって調剤薬局は「処方箋の薬をもらうところ」という認識があると思います。処方箋をもたないお客さまが調剤薬局に来局し,OTC医薬品を買うケースは少ないのではないかと感じますが,OTC医薬品を販売するために,どのような工夫をされているのでしょうか?

はじめに,もともと1薬効群につき1品目であったラインナップを,相談が多いと想定される薬効群においては2~5品目程度まで種類を増やし,薬効群のみを意識するのではなく,頭から手足の先まで幅広い相談に対応できるよう,配置する商品を約150品目まで拡充しました。

また,「えびな応援価格」として,一部の商品は特価でお客さまに提供し,薬局としてセルフケアのサポートを大きくアピールしました(図1)。さらに,値札POPを統一し(図2),空箱を利用して売り場のボリュームを出したり,売り場が明るくなるような工夫をしたりしています。


図1 OTC医薬品の売り場



(左上から値札,受診勧奨すべき症状一覧,管理帳簿などの保管ファイル)

図2 販売時に必要な資料


—— 販売にあたり,品揃えや値段だけではなく,売り場作りにも注力されているのですね。実際にこれらの取り組みを開始されて,どのような変化がありましたか?

OTC医薬品の拡充を実施したメディカルモール内にあるガーデン薬局ViNA GARDENS店では,これらの取り組みを実施した初月で雑貨・食品などを除くOTC医薬品が120点ほど購入され,特に解熱鎮痛薬をメインに幅広いカテゴリーの商品が売れました。販売実績はOTC医薬品48薬効群に振り分けて分析し,今後薬学部との共同研究や学会発表をしていく予定です。

—— 48薬効群のなかでも,どのカテゴリーの OTC医薬品が購入されやすいのかという研究は大変興味深いですね。ただ,48薬効群もあると,適切な商品選びができるか自信をなくしてしまったり,不安感を抱いたりするスタッフもいらっしゃるのではないでしょうか?

患者さんの来局が少なくなった昼の時間に,ショートタイムでOTC医薬品販売に必要なルールの確認や,OTC医薬品の選び方などをスタッフにレクチャーしています。要指導医薬品や第1類医薬品,濫用等の恐れがある医薬品など,商品の違いや販売方法をスタッフ間で共有することで,自信をもってOTC医薬品を売ってほしいという思いで,何度もレクチャーを実施しています。

また,OTC医薬品の拡充を実施した際には,近隣医療機関の医師を訪問し,地域支援体制加算へOTC医薬品48薬効群の取り扱いが要件化されたことや,受診勧奨の取り組みなどを説明させていただき,連携を図るようにしています。

スタッフが同じベクトルを向いて取り組む

—— 先生がこれらの活動するうえで,やりがいを感じる点や,苦労している点などはありますか?

薬局でOTC医薬品を販売し,薬局機能を向上させるためには,自分一人では限界があります。一人ひとりの薬剤師や事務員などのスタッフとコミュニケーションをとって,皆が同じベクトルを向いて取り組むことが大切だと思っています。外来調剤や在宅医療の対応で,ただでさえ忙しい状況にもかかわらず,OTC医薬品の対応にも力を入れることはそう簡単ではありません。計画を練って,無理なく進めるよう心がけ,自分自身も現場で患者対応することも大事だと思っています。

現場でOTC医薬品の対応をした際にお客さまから「ありがとう」と感謝されることはもちろん,OTC医薬品を拡充した店舗の薬剤師がOTC医薬品に興味をもって前向きな質問をしてくれたり,スタッフが医薬品登録販売者を目指したいと相談してくれたりしたときはやりがいを感じました。

OTCに対するイメージの改革

—— セルフメディケーション推進のための取り組みにおいて,先生が大切にされていることや,今後の目標を教えてください。

現在OTC医薬品販売に取り組んでいる店舗では,処方箋調剤のついでにOTC医薬品を購入される方がほとんどです。しかし,ゆくゆくは処方箋なしでもOTC医薬品の購入や相談にいらっしゃる方が増えてくるのではないかと予想しています。そのためには,当薬局に来れば,「薬剤師に相談できる」「種類は多くはないけれど,欲しい商品がある」「価格もお手頃である」といったアピールをしていく必要があると考えています。ドラッグストアや量販店ではなく,あえてメディカルガーデンの薬局に訪問していただくには何が必要かということを徹底的に追求し,スタッフにもきめ細やかに共有しています。現場で勤務する薬剤師のOTC医薬品に対するイメージを,「どうせ売れない」から「薬剤師としてのやりがい」として,自らOTC医薬品を提案したり,受診勧奨をしたり,最終的に行動変容を促すことが私の仕事だと思っています。

また,OTC医薬品に関連した取り組みは社内にとどまらず,全国各地でのセミナー,コラムの連載,OTC医薬品選定アプリのコンサルタントなど多岐にわたります。業界発展のためと理解し,応援してくれるメディカルガーデンには深く感謝しています。

—— 貴重なお話をありがとうございました。最後に,読者の皆さまへひとことメッセージをお願いします!

私は,OTC医薬品は地域住民とのコミュニケーションツールだと考えています。OTC医薬品の相談や販売によって薬局機能を向上させることが,何よりも薬局の利益や薬剤師としてのやりがいにつながると考えています。




メディカルガーデンは,在宅医療と外来調剤,オンライン服薬指導を強みとして,神奈川県海老名市を中心に9店舗を運営する地域密着型の薬局ですが,そこにOTC医薬品販売などの健康サポート機能を拡充し,地域に超密着した『最大ではなく最強』の薬局を目指していく一端を担っていきたいと考えています。当社が目指す最強の薬局とは,すべてのお客さまに寄り添い,健康な方のセルフケアサポートから在宅医療を必要とする方の薬物治療まで,高品質なサービスを提供することです。まずは,外来におけるOTC医薬品販売を浸透させていき,近い将来,在宅医療においてもOTC医薬品の有効活用ができないか模索し,新しいことに全力でチャレンジしていきたいと思っています。

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掲載号
調剤と情報2025年1月号

摂食嚥下障害だけじゃない!?
錠剤嚥下障害


企画:倉田 なおみ(昭和大学薬学部 社会健康薬学講座 社会薬学部門 客員教授/臨床薬学講座 臨床栄養代謝学部門 客員教授)


「錠剤嚥下障害」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。実は,「摂食嚥下障害」ではないにもかかわらず,「錠剤(薬)を飲めないという人」は少なくないのです。したがって,「服薬における嚥下」は「食事における嚥下」とは別のこととして考える必要がありますが,いままで問題視されることはありませんでした。しかしながら,患者は服薬に不安を感じたり,我慢しながら服薬を続けており,薬剤師による錠剤の嚥下能力評価に基づいた服薬の対応策が求められます。
本特集では,「錠剤嚥下障害」の基礎や現状・課題について解説します。さらに,国内初の服薬時の嚥下に特化した自記式アセスメントツール「PILL-5[日本語版]」などについて紹介します。