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「RxInfo TV」では,「今」そして「未来」を考える医療に関わる人々の挑戦や取り組みを,『調剤と情報』編集部セレクトで紹介しています。
服薬管理ツールとしてお薬カレンダーやお薬ボックスなどがありますが,なかには患者さんの生活にうまくなじまず,服薬アドヒアランスの介入に頭を悩ませることもあるのではないでしょうか。そこで,一包化薬をより簡単に管理できるツールを生み出した川村 典康氏(株式会社サンポーウェルズ 代表/りぼん薬局野洲店 管理薬剤師)に,患者さんの服薬支援に取り組む思いやアドヒアランス改善のためのコツを伺いました。

川村 典康(株式会社サンポーウェルズ 代表/りぼん薬局野洲店 管理薬剤師)

充填の手間を極力省いた服薬管理ツール

—— 一包化された薬包を管理するためのツールとして開発された「お薬束」ですが,セロハンテープを連想させる面白い管理方法ですね。どのようにして生まれたのか,まずはきっかけを教えてください。

当局で一包化された処方薬を内服している患者さんの多くは,自己管理ができる方です。しかし,年間を通してみると,残薬調整や紛失・破損のための追加処方が必要になる方など,アドヒアランスが良好とはいえないケースも時折見受けられます。そこで,服薬指導時に「薬はどこに置いていますか」と聞いてみるようにしたところ,「戸棚に置いているが,薬を引き出したときにテーブルに置いたままになる」「椅子の上に置くことがある」「薬袋の内容量が減って小さくなると,落ちたり見失ったりしてしまう」といった声が集まりました。アドヒアランス改善のために既存の服薬管理ツールを紹介しても,「充填が面倒くさいので,薬袋のまま管理したほうがいい」と言われることもあり,たとえ服用時に便利なツールであっても,自己管理ができる方ほど充填の手間が導入の障壁となることを知りました。そこで,充填の手間がなく,大きさが変わらないといった条件(表1)を満たすような管理方法が必要と考え,新たなツールの開発を始めました。


表1 一包化薬の自己管理支援に求められる条件

その結果,一包化の薬包を切らずに丸めて,服用時に「引っ張って,切るだけ」のツールであるお薬束®が生まれました(図1)。箱型の形状なので,薬袋のように,内容量が減るにつれて大きさが小さくなって見失うようなこともなくなりました。


図1 引っ張って切るだけの服薬管理ツール「お薬束

—— 入れ物の大きさが変わらないことは,管理するうえでのメリットになりますね。初めから箱型のツールだったのでしょうか?

まず初めに作ったのは,種苗シートを切って作ったツール(図2)でした。これは大失敗でした! 充填の手間がかかるうえに,場所をとる,落としたらバラバラに……といった具合でした。


図2 種苗シートに一包化薬を挿したのが始まり

そこで一念発起して,100円ショップで材料を探し,工作したのが図3のツールです。これを何人かに試してもらったところ,ある患者さんはボロボロになるまで使ってくれて,「兄ちゃん,また作ってや」と言ってもらえました。そのことがきっかけで,たくさんの方のご支援のもと使いやすく改良され,いまの形になりました。


図3 100円ショップのグッズで自作したツール



服薬状況を話すことが自分への“約束”になる

—— 最初から引っ張る形ではなかったのですね。改良後の「お薬束」を使用した患者さんからの反応はいかがでしたか?

充填の手間が少なく,引っ張って切るだけなのが何より好評でした。また,置きたい場所に置けるので,台所や戸棚のほか,仕事の前に飲むのでパソコンの横に置いているといったように,生活動線上に置いている患者さんが多いようです。置き場所が固定化されると服用が自然と習慣化し,飲み忘れ防止にもつながっています。その他にも,自分で薬を準備できるようになったことで介護者の負担軽減につながったり,残薬確認がしやすくなったりしているそうです。

また,お薬束®の活用を通じて,患者さんのアドヒアランスが向上していくプロセスをうかがい知ることができた気がします。具体的には,①いろいろなツールを比較したうえで,患者さん自身がメリットを感じてお薬束®を選択する,②家に持って帰ったあと,自分で置き場所を決める,③服用という行動を積み重ねるなかで,「あれ,最近飲み忘れていない」ということに気づく,④それが自己効力感につながり,次回来局時に「〇〇に置いて,引っ張って切って飲んでいる。飲み忘れなくなった」と話すようになる,そして,⑤自分が飲めている成功体験を他人に話すことが“宣言”となり,自分への“約束”になる。それが,アドヒアランス向上をさらに強めている気がします。

この「自分に約束する」という部分,これがお薬束®の名前の由来にもなりました。

「自己管理」に特化した支援ツールが少ないことへの気づき

—— 服薬管理ツールとしてはお薬カレンダーが代表的ですが,使い分けについて,患者さんにどのようにアドバイスされているのでしょうか?

お薬カレンダーに慣れ親しんだ人は,まずはお薬カレンダーが最適だと思います。暦と連動する点では,カレンダーに勝るものはないでしょう。しかし,お薬カレンダーでアドヒアランスが改善されなかったとき,そのまま諦めるのではなく,他のツールの検証を利用者と行っていければと考えています。

既存のツールであるカレンダーやお薬ボックスとお薬束の大きな違いは,「充填のタスクが少ない」という点です。自己管理ができる患者さんでも,内服の習慣化がスムーズにいかないこともあり,既存の管理ツールを紹介しても気が進まない様子の方は少なくありません。このような患者さんには,ぜひお薬束をお勧めしたいです。また,薬の管理者がご本人からご家族・介護職の方に代わるようなときにもご紹介したいです。

—— 患者さん自身で管理するからこそ出てくる課題もあるということですね。自己管理をサポートする際はどんなことに気をつけていますか?

自己管理できるからこそ,患者さん自身が納得できる管理方法を一緒に探るようにしています。意識しつづけるのは難しいので,服薬を習慣化できるような薬の管理の仕方を自分で選んでもらうことが重要だと考えています。そういう意味でも,お薬束®は生活動線上に置けるので,服薬の習慣化につながりやすいと考えています。

以前は,自己管理が困難になった時期からカレンダー調剤・カレンダー管理が導入され,薬剤師の服薬支援が始まるイメージを抱いていました。しかしながら,自己管理ができることと,継続できることは別物です。自己管理する段階でアドヒアランスが不良なら,服用への意識づけもしくは習慣化を薬剤師がサポートすることが必要ですし,この時点から積極的にサポートすることで,効果的な重症化・再発予防につながるのではないかと思います。同時に,服用状況のさまざまな変化に応じて,ツールを見直していくことも重要ではないでしょうか(図4)


図4 状況に応じた服薬支援・管理ツールの見直し


より便利に,より簡単に

—— お薬束®には片手で薬包を開封できるタイプもあるそうですね。服薬管理の利点に加えて,片麻痺がある患者さんの飲みやすさにもつながっている点に驚きました。どのような経緯で開発されたのでしょうか?

お薬束®を福祉用具センターに展示してもらったときに,たまたま片手用のはさみが展示されているのを見つけました。それがきっかけとなり,お薬束®も片手で使用できないかと考えるようになりました。作業療法士の方からは,「ある患者さんは,一包化されている薬を保管している箱やカレンダーから取り出し,口で噛み切って開封している」という話を聞きました。噛み切った勢いで薬包が破れ,中の薬剤が飛び散ることもあるとのことでした。

そこで,切断と同時に開封もできるような仕組みにしたのが「お薬束®レインボー」です(図5)。お薬束®の前にトレーを置いたことで,切断しても薬包は立ったままになり,かつ自然に開封されます。なお,「レインボー」という名前は,お薬束®からトレーまで薬包が弧を描いている様子が虹を連想させたのと,患者さんに希望をもっていただきたいという思いを込めて名付けました。


図5 片手でも簡単に開封できる「お薬束®レインボー」


薬剤師の役割は,「薬が生活になじむ調整」

—— 患者さんによって “服薬の正解 ”は異なるかと思いますが,服薬支援に関して,日頃どういう工夫をしていますか?

常に患者さんの本音が聞ける関係の構築,話しかけを意識しています。特に,過去の会話は重要であり,さりげなくこちらから,前回の会話から切り出せるようにしています。また,ご自身で選択することが大事なので,服薬管理ツールや100円ショップのグッズも薬局内に展示して,紹介しやすいようにしています(図6)。ガツガツ紹介されるのが苦手な方もいますが,展示しておけば興味が出てきたときに患者さんから聞いてもらえたりします。展示は,ちょうどいい距離感も作れる気がしています。


図6 薬局内に展示しているさまざまな服薬管理ツール


—— 先生は患者さんのトータルサポートを重要視しているそうですね。大切にしていることを教えてください。

まず,私の考えるトータルサポートとは,「いまの生活のなかで患者さんが薬になじんでいけるようにすること」と,「患者さんの状態変化にあわせて調整し直すこと」です。薬が生活になじむようにするために,「(内服なら)患者さんの口に入る。その状態を少しでも簡単にシンプルにする」ことを意識しています。そのためにも,患者さんから薬の一元化を任される薬剤師になることは必須です。また,患者さんの状態の変遷,つまり介助・介護の変遷においても,状況になじませる調整が必要です(図4)。管理者が代わるタイミングでは,管理者の目線に立った管理方法の提案,生活へのなじみ方を調整すべきと考えます。時間的な横軸・縦軸でのトータルサポートの視点をもつことが,結果的にかかりつけとして信頼を得ることにつながるのではないかと考えています。


—— ここまでお話を聞かせてくださりありがとうございました。最後に,読者の皆さまへひとことメッセージをお願いします!

服薬継続が必要と思う根底には「ちゃんと飲んで,ちゃんと診てもらう。その積み重ねが,健康寿命の延長に結びつく」という信念があります。薬を飲むことは正しいことですが,継続するには意志や正論だけでは通じない気がしています。服用を楽にしたっていいんじゃないかと思います。遊び心があってもいいですし,面倒くささを感じたら飲み方を見つめ直してもいいのではないでしょうか。介助・介護のための服薬支援は必要です。しかし,自立した人が,薬を飲まずに再発・重症となり介護が必要になることもとても残念なことです。もし私の活動にご賛同くださる先生方がいらっしゃれば,ぜひお声がけください。服薬の自己管理に悩んでいる多くの患者さんに喜んでもらえるよう,お薬束®を含むツールの効果検証や普及活動ができればと考えています。

最後に,多くの方のご支援があり,お薬束®の誕生から活動を行えており,感謝いたしております。特に,皆さまへの発信ができるようご指導いただいています長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 離島・へき地医療学講座 宮田 潤先生に,この場をお借りして,感謝申し上げたいと思います。

お知らせ
お薬束®の詳細はホームページから確認することができます。気になった方はぜひコチラからアクセスし,日頃の服薬支援にご活用ください。

【主な商品】
・お薬束®カラー4色
・お薬束®-lite 10個入
・お薬束®レインボー組立式 他
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掲載号
調剤と情報2024年12月号
認知症パンデミック時代における 薬剤師の役割


企画:三輪 高市(鈴鹿医療科学大学 薬学部)


地域包括ケアシステムの構築のめどとなっている2025年には、高齢者の5人に1人が認知症になるといわれています。2040年には認知症患者数は800万人に達し、その社会的コストは21兆円を上回ると推計されています。認知症治療において、早期発見と継続した薬学的管理が、患者予後の面にも社会的コストの面にも重要であることは明らかです。したがって薬剤師が職能を発揮し、活躍することが期待されています。
本特集では、「認知症パンデミック時代における薬剤師の役割」をさまざまな視点で検討します。