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 「Rx Info TV」では,「今」そして「未来」を考える医療に関わる⼈々の挑戦や取り組みを,『調剤と情報』編集部セレクトで紹介しています。
少子高齢化による医療ニーズの増大や,厳しい労働環境による離職率の上昇に伴い,医療従事者は今以上に不足することが予想されます。このような状況下で今後も安定した医療を提供し続けるためには,医療従事者の確保が重要となります。第4回では,医療の担い手不足という問題を解決する糸口となるべく,これから進路を決める高校生をターゲットとして,現代医療で求められるチーム医療を疑似体験して学ぶことができるカードゲーム「メディスタ!」について,開発者の今井将太先生(高大連携センター 副センター長)にお話をうかがいます。

今井 将太先生(岐阜医療科学大学 高大連携センター 副センター長)

「チーム医療を体験してもらう」というのが開発のきっかけ

――「メディスタ!」開発のきっかけは何だったのでしょうか。

私は以前,広報を担当しておりました。当時,大学として注力していた「チーム医療教育」をテーマにしたPR商材を用いて高校生に対して説明していました。広報活動では,「他学科と連携してチーム医療を学べる大学です」とか「より患者さまファーストな医療が学べますよ」といったことを,よく高校生に伝えていました。
ある日,高校内で行った出前講義内でも,同じようにチーム医療について話をしていたのですが,高校生の顔を見ているとしっくりきていない感じがすごく伝わってきました。気になって理由を聞いてみると,「医療現場をほとんど見たことがないので,チーム医療の話をされても全然イメージできない」と話をしてくれました。そこから何人もの高校生に話を聞いても,そのほとんどが「チーム医療」というワードにしっくりきていないようで,その理由は「チーム医療がどのようなものかイメージできないから」というものでした。
これをきっかけに,岐阜医療科学大学はチーム医療を学べる大学だということをPRする前に,まずは高校生にチーム医療をイメージしてもらうにはどうしたらよいのかを考えるようになりました。

――なぜカードゲームというかたちを選んだのでしょうか。

まず,前述のとおり授業形式では直接的なイメージができないからNG。それなら実際に高校生に医療現場に行ってもらい,チーム医療を体験してもらおうと考えましたが,高校生の多忙なスケジュール内では難しく,本当に興味のある高校生しか参加しないと複数の高校の先生から意見をいただきNG。動画で見てもらうという案も考え,実際に動画を作成してみましたが,動画の視聴では,結局,主体的に体感できないため,授業とあまり変わらずNG……。高校生にチーム医療を主体的に体験してもらい,イメージしてもらうコンテンツの制作は難航しました。
そんなある日,知人とボードゲームを楽しめるカフェに行き,いろいろなボードゲームやカードゲームを体験しました。資産運用や島の開拓,村づくりや病院経営など,さまざまなコンセプトのゲームがあり,非常に面白く,私は机の上の縮小された世界での体験に没入しました。そして,このツールであれば「高校生に主体的にチーム医療を伝えることができる」と確信しました。
このとき,チーム医療カードゲームの制作が始まったのです。

「メディスタ!」完成までのウラ話

――医療を題材としたカードゲームの教材は似たものが少なく,開発は困難だったのではないでしょうか。

この企画を行うにあたり,いろいろな壁がありました。まず,学内に企画を説明したところ,反対意見がかなり多かったです。「チーム医療のゲーム化なんてイメージできない」「チーム医療の誤った認識をされたくない」など,前向きに進めていける形ではありませんでした。そこで,ゲーム素案をあらかじめ作成し,進め方や内容を具体的に説明することで学内承認を得られるように進めていきました(ただ,ここで「ゲーム」よりも「楽しい教材」寄りになってしまうのですが……)。
学内承認を得た後,本格的なゲーム制作に移ります。最初はいろいろな学科の教員に参加していただいたのですが,どの先生もその道のプロフェッショナルであるので,開発会議では専門的な意見が飛び交い,その結果,高校生では絶対にわからないようなマニアックな内容だらけの面白くないゲームができあがってしまいました。テストプレイを行ったメンバー同士が顔を合わせ,「これはゲームじゃない……」と呟いたことを,いまでも覚えています。
以降はゲーム基盤を完全に一人で作ることにしました。その際,①どうしたらチーム医療を盤上で体験させることができるのか,②医療系の知識がない高校生が,どうしたら楽しめるのか――の2点に注力して考えました。学術的な監修についても,増えれば増えるほど意見をまとめることが難しくなるため,医師として活躍されていた田中邦彦先生(岐阜医療科学大学薬学部教授)に監修をお願いし,高校生でも理解できる表現となるようアドバイスをいただきました。そうして完成したのが,カードゲームでチーム医療を学べる「メディスタ!」というコンテンツです。

カードゲームで学ぶチーム医療「メディスタ!」

「メディスタ!」は,病院で働く医療従事者になりきり,来院した患者をチーム医療でサポートし,さまざまな状況下で適切な検査や治療を選択し,患者を快方へと導いていくゲームです。

――完成した「メディスタ!」はどのように活用されていますか?

ゲームは一般販売しておらず,基本的には出前講義形式で高校の授業時間中や放課後の時間におうかがいし,ゲームを体験してもらっています。
この出前講義は2022年からスタートし,2024年で3年目になります。2024年10月時点で,このゲームを体験いただいた高校は,岐阜県7校,愛知県3校の計10校で,参加した高校生の数は300人以上となっています。参加した高校生からは「チーム医療のイメージや,さまざまな医療職の大切さを感じることができた」「楽しみながらチーム医療を学べた」「ゲームを通してチーム医療を理解でき,医療職への志望度が上がった」などの声をたくさんいただくことができました。「チーム医療をイメージさせる」という最初の目的は達成できたのではないかと思っています。

「メディスタ!」をプレイする高校生。プレイヤーは医師,薬剤師,看護師などの役割を演じ,症例ごとに最適な治療方針を話し合って決めていく


医療者を志す学生の理想と現実のギャップを埋めるために

――「メディスタ!」を使った活動で今後目指すものや,挑戦してみたいことについて教えてください。

岐阜医療科学大学広報課に在籍していたとき,オープンキャンパスで私とお話した高校生が入学してきてくれたのですが,在籍からわずか1年で退学してしまいました。その学生は特に成績が悪い子ではありませんでしたし,生活態度も問題なかったと思います。ただ,単純に医療系学科の理想と現実のギャップに耐えられなかった,ということが退学の理由でした。
それからも同じような理由で退学したり,学習のモチベーションが保てず留年したりする学生を数人とみてきて,こういったケースを入学前に防げないかと強く思ったのです。
これを防ぐためには,入学前からしっかりとギャップを埋めてあげることが大事だと考えました。目指す職業のこと,将来働く環境のこと,そのために学ばなくてはいけないことなど,入学前にしっかりと理解して,目指すのか目指さないのかを選択してほしいと思っています。

高校で「メディスタ!」を用い,出前講義を行う今井先生

「メディスタ!」は,チーム医療をイメージしてもらうためのコンテンツとなることを目指し制作しました。これを体験した高校生は,イメージが曖昧であった「チーム医療」を盤上で体験し,少しだけ理想と現実のギャップを埋められたのではないかと感じています。高校生が医療職に関する理解を深めることができる,いままでになかったコンテンツを積極的に制作し,広めていくことで,高校生一人ひとりの最適な進路選択と最高の学生生活,そして最高の将来を掴み取る一助となれたら嬉しく思います。

――最後に読者の方へのメッセージをお願いいたします。

いつも医療現場で頑張ってくださっている先生方,本当にありがとうございます。先生方のおかげで,多くの患者さんが安心して治療を受けられています。私は医療従事者ではない立場から,未来の医療を支える熱心な薬剤師を増やせるように働きかけています。先生方と一緒に,薬剤師の魅力をもっと広めていきたいと思っています。これからも一緒に,医療の未来を作っていきましょう。どうぞよろしくお願いします。

(備考)
「メディスタ!」は高校などへの出前講義用に作成したコンテンツになります。販売や貸し出しなどは行っておりません。

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掲載号
調剤と情報2024年11月号
心不全薬物治療の新常識 Fantastic FourのQ&A


企画:寺島 純一(公立陶生病院 医療技術局薬剤部)


現在高齢化が進むわが国では,心不全患者もそれに伴い増加しており2030年には130万人に到達するとされています。普段の薬局業務でも心不全患者の来局も今後さらに増えていくでしょう。しかし,心不全薬物治療の中心となるFantastic Fourの導入率はまだ十分とはいえず,使い方に疑問をいだいている薬剤師もいるのではないでしょうか。
本特集ではFantastic Fourにまつわるさまざまな疑問に焦点をあて,エビデンスをもとに解説します。患者の状況や他の疾患,併用薬との相互作用など,さまざまな要素が絡むなかで,ケースごとに適切な薬学的介入ができる内容になっています。