J i M a g a z i n e
「RxInfo TV」では,「今」そして「未来」を考える医療に関わる人々の挑戦や取り組みを,『調剤と情報』編集部セレクトで紹介していきます。
2024年6月の調剤報酬改定では,調剤後のフォローアップを評価する「調剤後薬剤管理指導料」に慢性心不全が新たに追加されました。これを受け,日本心不全学会と日本薬剤師会は「薬剤師による心不全服薬管理指導の手引き」を作成し,8月に公開。本手引きは,医療機関と薬局の薬剤師が連携して慢性心不全患者を管理し,症状の悪化や再入院の予防に寄与することが期待されています。今回は,作成に携わった土岐 真路氏(聖マリアンナ医科大学治験管理室),澤田 和久氏(安城更生病院薬剤部),服部 和人氏(平成堂薬局蒲池店)に,手引きの使い方や活用のポイントなどについてご紹介いただきます。
写真1

土岐 真路
循環器疾患の臨床に携わってきた経験を活かし,循環器病薬剤師ネットワークの運営や地域の薬剤師への教育を行っている。

写真2

澤田 和久
循環器・集中治療病棟での業務を経て,現在は外来での患者支援に力を入れている。地域薬剤師会と協力し,2019年より心不全薬連携の体制を構築した。

写真3

服部 和人
心不全療養指導士とし,福岡県の心不全ネットワークの幹事を務める薬局薬剤師。「薬局にできること」を広める活動をしている,



医療施設と薬局が連携して心不全患者を支援するには?

土岐  「薬剤師による心不全服薬管理指導の手引き」(以下,手引き)の作成は,ワーキンググループの委員長である猪又孝元先生(新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器内科学主任教授/日本心不全学会理事)から「薬剤師が心不全治療に積極的に関与できるよう,現場で活用できるツールを作成しよう」という提案をいただいたことがきっかけでした。そこから,日本心不全学会と日本薬剤師会が合同でワーキンググループを立ち上げ,約2カ月という短期間で作成し,手引き公開に至りました。

澤田  慢性心不全は,退院直後の「vulnerable phase」(危うい時期)に症状が悪化しやすく,再入院となるケースは少なくありません。その予防には,退院直後から薬剤師が介入し,心不全患者の薬物治療をフォローアップすることが重要です(図1)。心不全患者が急性増悪により再入院を繰り返すと,身体機能がそのたびに低下し,予後が悪化していくことが知られています(図2)。薬局薬剤師による心不全患者への介入が求められているなかで,心不全に関する療養指導やフォローアップの内容,病院と薬局間で共有すべき情報などを標準化するため,本手引きを作成しました。


図1 調剤後薬剤管理指導料に関わる業務フロー全体図
〔日本心不全学会,日本薬剤師会・編:薬剤師による心不全服薬管理指導の手引き 第1版より転載〕
図2 病みの軌跡
〔Murray SA,et al:J Pain Symptom Manage,34:393-402,2007より〕

土岐  今回,慢性心不全患者への調剤後フォローアップが評価されることになりました。しかし,実際には心不全患者を医療機関と薬局が連携してフォローしている事例はまだまだ多くはありません。そこで,心不全の薬物療法や管理方法,連携ツールなど,医療機関と薬局の薬剤師が同じ視点で情報を共有するためにおさえておきたい内容に絞りました。

澤田  手引きは全22ページとコンパクトにまとめられていることが大きな特徴です。心不全患者への介入を始める際には,まずは心不全診療の全体像と要点をざっくりと理解したうえで,自身が実践できることを把握することが効率的だと思います。

土岐  巻末には,保険薬局で心不全患者に受診推奨する目安,主治医へのフィードバックすべき情報とそのタイミングなど,計11個のQ&Aを掲載しています。これらのQ&Aは,心不全患者に介入するなかで薬剤師が抱きやすい疑問として,循環器疾患に従事する薬剤師のネットワークである循環器病薬剤師ネットワーク〔X(旧Twitter)アカウント:@Cardio_Pharm_JP〕から収集・選定しています。

病院と薬局間の情報提供・共有はどうする?

澤田  退院後の再入院や急性増悪を予防し,患者の予後を安定させるには,地域・自宅に戻ってからも適切な心不全管理を継続することが重要です。そのため,病院薬剤師は薬局へ必要な情報を提供することが求められています(表1)。そこで,薬剤管理サマリーの活用をお勧めします。手引きには,病院と保険薬局で共有すべき情報を盛り込んだ「心不全薬剤管理サマリー 」のフォーマットを掲載しています。本フォーマットはあくまでも一例に過ぎませんので,すべて埋めることを目標とするのではなく,以下の3つの情報を意識して作成いただきたいと思います。
①薬剤情報
服薬支援や副作用モニタリングのポイントに加え,心不全治療のなかで重要な利尿薬や予後改善薬の情報を盛り込んでいます。
②心不全情報
患者の状態や再入院予防のポイントに関する情報です。薬局薬剤師が単独で情報収集することが難しい項目が多く,病院薬剤師が情報を整理して共有することで退院後のシームレスな支援につながることが期待されます。
③症状増悪時のサインと対応を説明するための共通言語
心不全の増悪による再入院を防ぐには,その兆候を早期に認識して受診行動につなげることが重要です。患者本人に留まらず,家族などの関係者に広く知識を共有して欲しい内容です。フォーマット内の「啓発事項」に記載されている内容は,常に共通言語として理解を深めてもらえるように意識すると良いでしょう。

表1 病院と保険薬局で共有すべき情報
〔日本心不全学会,日本薬剤師会・編:薬剤師による心不全服薬管理指導の手引き 第1版より転載〕

服部  薬局から医療機関への情報提供には,フォローアップシートを活用することがお勧めです。心不全薬剤サマリーと同様に,手引きには情報提供すべき内容を盛り込んだ「服薬情報提供書 」のフォーマットも掲載しています。こちらも,前述の3つの情報を盛り込めるようにしたシンプルなものなので,各薬局で適宜改変してご利用ください。また,フォローアップの対象となる患者さんの選定も重要です。心不全による入退院を繰り返している,日常生活での注意点について理解が不十分,セルフケアのアドヒアランスが不良,自己中断歴があるなど,経験的に判断できる場合もありますが,手引きを参考にしながら,フォローアップの対象となりそうな患者さんを確認するようにしてください。

土岐  フォローアップでは,具体的に何から確認すべきか,受診勧奨すべきなのか,トレーシングレポートでの報告に留めるべきかなど,さまざまな疑問があがってくると思います。そのため,手引きには,検査値がなくても所見や症状から確認できる心不全症状について整理しています(表2)。また,Q&A内にもフォローアップの目安を示しています。薬局内で実践しやすい内容になっていますので,ぜひ参考にしてください。

表2 心不全のモニタリング項目とポイント
〔日本心不全学会,日本薬剤師会・編:薬剤師による心不全服薬管理指導の手引き 第1版より転載〕

医療施設,薬局の薬剤師がお互いに顔の,みえる関係性の構築を

服部  今回は主に病院発信の地域連携を主として作成していますが,今後は薬局から病院や主治医へ働きかけていくことも理想であると考えています。2024年8月現在,私の勤務する薬局ではすでに調剤後服薬管理指導料2の算定を開始しており,県内の他の薬局でも準備を進めているので,薬局薬剤師が心不全の服薬管理や療養指導を行う有効性やそのフォローアップ方法など,具体的に紹介していきたいですね。そして服薬後の聴き取りの際には,われわれ薬剤師というのは立場上,どうしても薬剤の効果や副作用の発現状況,服薬状況など薬の視点から患者さんの生活を考えることが多いと思います。ただ,心不全は長きにわたり治療していく必要のあることを理解し,治療や療養内容そのものが「自分らしい生活」を送るうえで過度な重荷になっていないかどうか,患者さん本人の気持ちにも視野を広げてもらえればと思います。

澤田  心不全という疾患は入院により治療が開始し,退院後も長く続くので,病院と薬局での連携が患さんにとって非常に重要です。ただ,お互いに見えない部分が生じてしまうので,ツールとして「心不全薬剤管理サマリ―」や「フォローアップシート」を通じて情報を共有し,よりスムーズな連携を進めるために顔のみえる関係性を構築していくことが理想です。心不全フォローアップや患者指導を行う際には,服薬指導やアドヒアランスの確認だけでなく,患者状態のモニタリングやセルフケア支援といった療養指導も織り交ぜ,退院後の患者を支援していきたいと思います。

土岐  今回の第1版は6月の改定を受けてから極めて短期間で作成していることもあり,これで完成形ではありません。現場で活用していくなかで使いにくい,わかりにくいなどの情報があれば,ぜひフィードバックしていただきたいです。そしていずれ,医療のDX化が進み,病院でのカルテや患者情報も確認でき,主治医にも簡単に情報共有ができる時代が到来したときに,薬剤師が心不全の管理や療養指導を知ったうえで,医師との連携までしっかりと行えるレベルにまで到達していてほしいと考えています。



Tags :
掲載号
調剤と情報2024年10月号
行動変容を引き出す!
隠れ糖尿病・糖尿病予備軍
の生活指導のコツ


企画:篠原 久仁子(恵比寿ファーマシー)


糖尿病は近年増加傾向にあり、40歳以上の4人に1人は糖尿病が疑われるとされています。また、糖尿病は無症状のことが多く、受診してみて初めて糖尿病であるとわかるケースがほとんどです。糖尿病合併症を防ぐためには、早期発見と早期からの血糖コントロールが重要であり、そのなかでも薬剤師には服薬指導に加え、早期発見、受診勧奨、生活面でのサポートなど、さまざまな役割が期待されています。一方で、自覚できる症状が少ないため、予防や治療の意義を見出せず、血糖コントロール不良に陥ってしまうことも少なくありません。
本特集では、隠れ糖尿病・糖尿病予備軍の行動変容を引き出し、糖尿病を早期発見、予防する生活指導のコツと受診勧奨のポイントを解説します。