AMR対策は薬局全体で取り組むことが重要
——先生がAMR対策や普及啓発活動に興味をもち,取り組みを開始したきっかけを教えてください。
2015年に小児薬物療法認定薬剤師の資格取得後に勉強のために入会した小児薬物療法研究会での活動のなかでAMRに興味を抱きました。そこで自薬局の患者さんを対象に,抗菌薬の服用遵守に関するアンケート調査を行ったところ,服薬指導を受け入れていても実際には服用していない患者さんが一定数いることが判明し,“薬局での服薬指導だけではなく,普段からの啓発活動が必要なのではないか?”と考えるようになりました。そうした矢先の2020年に小児薬物療法研究会に対し,AMR臨床リファレンスセンターより一般市民へのAMR啓発資材配布企画の協力依頼(AMR対策のポスター掲示と啓発資材の配布)があり,ここで私が研究会の仲間とともに,この配布企画の推進チームに参加したことをきっかけに,自薬局でのAMR対策や普及啓発の取り組み開始に至りました。
——薬局として取り組むまでの過程について教えてください。
AMR臨床リファレンスセンターの依頼をきっかけに開始したAMR の普及啓発活動ですが,患者さんへの資材配布や適切な指導など啓発活動を進めていくためには私一人で実現できるものではなく,薬局全体の協力があり,足並みを揃えることができたからこそ成り立っているのだと感じています。
医療関係者向けブックレット
本活動を開始するうえでまず取り組んだのが,薬局の職員全体の意思統一です。当薬局は薬剤師だけでなく,事務職員や登録販売者といったさまざまな職種から構成されており,当然,背景知識もさまざまであるため,AMRに対する共通した認識・知識をもつことが必要であると考えました。そこで,AMR臨床リファレンスセンター作成の医療関係者向けのブックレットを全員に配布し,まずは大まかな知識を身につけてもらう,そして成書を活用したり,勉強会の案内を行ったりすることで,感染症の疾患や治療薬に関するアップデートをしていくようにしています。また,監査時における用法・用量の確認はもちろんのこと,投薬時における診断名や病態の聞き取りから適正使用が行われているのかどうか,推論的判断もできるよう意識し,取り組んでいます。
——疑義照会を含めた医師とのコミュニケーション,連携のコツがあれば教えてください。
薬局では処方箋から診断名や処方意図を正確にくみ取ることはなかなかハードルが高く,さらに勇気を出して疑義照会をしても,多忙ゆえに一度診断を行った患者の処方内容について(禁忌薬は別ですが)なかなか聞き入れてもらえないことは実際ありますよね。となると,抗菌薬の適正使用はおろか,医師との連携にもハードルを感じてしまうのではないでしょうか。そんなときに当薬局では服薬情報提供書を有効に活用したり,その場ではなく,時間をおいて医師へお伺いする機会を得たりして連携を取るようにしています。どちらもリアルタイムではないので当該処方で生じた問題ついては解決していないのではないか?といわれればそれまでですが,医師の処方意図や今後の方針を確認し,薬剤師側の抗菌薬処方に対する意見をお伝えしていくことは医薬連携推進の意味で有用であったと感じています。
これは私の経験例ですが,医師との意見交換を重ねていたある時,医師から「小児へ抗菌薬を処方する際に,味や用法など服用のしにくさが気になり薬剤選択に迷ってしまうことがある」という実情を教えていただいたことがあります。この時,ある程度は関係性も深まっていたので,「飲みやすいようなサポートをすること,服用を手助けすることは薬剤師の仕事として任せていただいて構いません」と私なりの考えをお伝えしたところ,その後の処方に変化がみられるようになり,ときには抗菌薬の選択についても相談をいただけるまでになりました。もしも顔のみえない関係のままであったら,医師の思いも私たちの考えもお伝えすることはできなかったかと思います。AMR対策に限ったことではありませんが,適切な薬剤選択をサポートするうえで,処方医との連携を強化し,信頼関係を構築していく重要性を考えさせられるできごとでした。