J i M a g a z i n e
「RxInfo TV」では,「今」そして「未来」を考える医療に関わる人々の挑戦や取り組みを,『調剤と情報』編集部セレクトで紹介していきます。
第2回は昨今世界的に重要視されている薬剤耐性(AMR)の問題について薬局薬剤師はどのように関わっていけばよいのか,2020年よりAMR対策の普及啓発への取り組みを開始している一般社団法人ヒューメディカ 新つるみ薬局の大山かがり先生に『薬局でできるAMR対策のはじめ方』についてご紹介いただきます。
AMRをおさらい!

〇 AMRってなに?

感染症の原因微生物に抗菌薬などの抗微生物薬が効かなくなる状態を薬剤耐性(antimicrobialresistance:AMR)といいます。従来の治療法では感染症が治癒しにくくなり,治療期間の延長や重症化,死亡リスクの増加が懸念され,このまま対策を講じなければ,2050 年には世界における死者数は1,000万人に上ると報告されています。


〇 AMRの原因・対策

抗菌薬の過剰使用や用法・用量・服薬自己中断などのコンプライアンス不良などが一因とされています。対策として疾患にみあった抗菌薬選択,用法・用量・服用期間の遵守,正しい感染予防策の強化があげられます。


〇 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン

AMRは国際的に問題視され,2016年に日本では「AMR対策アクションプラン(2016-2020)」が策定されました。そのなかで抗菌薬使用量の減少などAMR 対策推進のための目標を掲げられ,わが国での抗菌薬使用量が減少傾向となっていること,薬剤耐性率についていくつかの菌種では減少しているものの,大腸菌や肺炎球菌などでは増加傾向となっていることなど――が示されました。さらなるAMR 対策の推進のため「AMR 対策アクションプラン(2023-2027)」が新たに公表され,抗菌薬使用量の減少や耐性菌の分離率の低下など,継続的な取り組みが求められています。


AMR 対策の推進のために薬局薬剤師ができることは多い

——薬局薬剤師がAMR対策を進める重要性についてどのように考えていますか?

日本における抗菌薬使用量の約9割は外来診療で処方される経口抗菌薬です。そのため外来の診療において,薬局薬剤師がAMR 対策活動を行うことが重要です。私もはじめは「薬局薬剤師に何ができるのだろう」と思っていましたが,一般市民に最も近い医療者である私たち薬局薬剤師だからこそ,抗菌薬の適正使用の推進やAMR の普及と啓発,感染症の予防や対策など,できることが多くある,といまは考えています。



AMR対策は薬局全体で取り組むことが重要

——先生がAMR対策や普及啓発活動に興味をもち,取り組みを開始したきっかけを教えてください。

2015年に小児薬物療法認定薬剤師の資格取得後に勉強のために入会した小児薬物療法研究会での活動のなかでAMRに興味を抱きました。そこで自薬局の患者さんを対象に,抗菌薬の服用遵守に関するアンケート調査を行ったところ,服薬指導を受け入れていても実際には服用していない患者さんが一定数いることが判明し,“薬局での服薬指導だけではなく,普段からの啓発活動が必要なのではないか?”と考えるようになりました。そうした矢先の2020年に小児薬物療法研究会に対し,AMR臨床リファレンスセンターより一般市民へのAMR啓発資材配布企画の協力依頼(AMR対策のポスター掲示と啓発資材の配布)があり,ここで私が研究会の仲間とともに,この配布企画の推進チームに参加したことをきっかけに,自薬局でのAMR対策や普及啓発の取り組み開始に至りました。


——薬局として取り組むまでの過程について教えてください。

AMR臨床リファレンスセンターの依頼をきっかけに開始したAMR の普及啓発活動ですが,患者さんへの資材配布や適切な指導など啓発活動を進めていくためには私一人で実現できるものではなく,薬局全体の協力があり,足並みを揃えることができたからこそ成り立っているのだと感じています。




医療関係者向けブックレット

本活動を開始するうえでまず取り組んだのが,薬局の職員全体の意思統一です。当薬局は薬剤師だけでなく,事務職員や登録販売者といったさまざまな職種から構成されており,当然,背景知識もさまざまであるため,AMRに対する共通した認識・知識をもつことが必要であると考えました。そこで,AMR臨床リファレンスセンター作成の医療関係者向けのブックレットを全員に配布し,まずは大まかな知識を身につけてもらう,そして成書を活用したり,勉強会の案内を行ったりすることで,感染症の疾患や治療薬に関するアップデートをしていくようにしています。また,監査時における用法・用量の確認はもちろんのこと,投薬時における診断名や病態の聞き取りから適正使用が行われているのかどうか,推論的判断もできるよう意識し,取り組んでいます。


——疑義照会を含めた医師とのコミュニケーション,連携のコツがあれば教えてください。

薬局では処方箋から診断名や処方意図を正確にくみ取ることはなかなかハードルが高く,さらに勇気を出して疑義照会をしても,多忙ゆえに一度診断を行った患者の処方内容について(禁忌薬は別ですが)なかなか聞き入れてもらえないことは実際ありますよね。となると,抗菌薬の適正使用はおろか,医師との連携にもハードルを感じてしまうのではないでしょうか。そんなときに当薬局では服薬情報提供書を有効に活用したり,その場ではなく,時間をおいて医師へお伺いする機会を得たりして連携を取るようにしています。どちらもリアルタイムではないので当該処方で生じた問題ついては解決していないのではないか?といわれればそれまでですが,医師の処方意図や今後の方針を確認し,薬剤師側の抗菌薬処方に対する意見をお伝えしていくことは医薬連携推進の意味で有用であったと感じています。
これは私の経験例ですが,医師との意見交換を重ねていたある時,医師から「小児へ抗菌薬を処方する際に,味や用法など服用のしにくさが気になり薬剤選択に迷ってしまうことがある」という実情を教えていただいたことがあります。この時,ある程度は関係性も深まっていたので,「飲みやすいようなサポートをすること,服用を手助けすることは薬剤師の仕事として任せていただいて構いません」と私なりの考えをお伝えしたところ,その後の処方に変化がみられるようになり,ときには抗菌薬の選択についても相談をいただけるまでになりました。もしも顔のみえない関係のままであったら,医師の思いも私たちの考えもお伝えすることはできなかったかと思います。AMR対策に限ったことではありませんが,適切な薬剤選択をサポートするうえで,処方医との連携を強化し,信頼関係を構築していく重要性を考えさせられるできごとでした。



一般市民へのAMRの普及・啓発には定期的な情報発信が必要

——薬局内ではどのようなことを行っていますか?

まず,抗菌薬処方のあった患者に対しては飲みきりの指導やその根拠,副作用と思われる症状があった際の対応など,自己判断での中断や取り置きを招かないよう,「納得できる説明」を心がけています。逆に「抗菌薬がほしかったのにもらえなかった」と訴える患者に対しては,抗菌薬の服用の必要性がないことを丁寧にお話しし,理解を得るようにしています。ここで注意が必要なのは,数日して症状が遷延し,抗菌薬が必要な状況になる可能性もあるということです。3日以上経っても改善しない,悪化した,他の症状が出た場合には受診の検討または薬剤師にでもよいので相談してほしいと伝えています。




啓発資材を用いた服薬指導の様子

このように一歩踏み込んだ服薬指導をしているものの,当薬局で抗菌薬をお渡しした患者さんを対象に,来局から数日後の服薬状況を調査した結果,「抗菌薬を飲み切らなかった」という回答が一定数みられました。そのほか,2023年の抗菌薬意識調査レポートでも「抗菌薬・抗生物質はかぜには効かない」と正しく回答した人は23.0%と報告されており,一般市民の抗菌薬処方に対する認識はまだ低い状況です。こうした現状を踏まえると,AMR対策の推進には,抗菌薬処方のある場合のみの服薬指導による情報発信では,まだまだ不十分であるように思います。
そこで抗菌薬処方の有無にかかわらず,多くの方に定期的に情報を取り入れてもらう工夫として,薬局の入り口や投薬台周辺にAMR 臨床リファレンスセンターが提供している啓発ポスターを普段から掲示しています。さらに毎年11月の「薬剤耐性(AMR) 対策推進月間」には,AMR対策啓発資材を薬局利用者へ説明をしながらお渡ししています。




ポスター掲示の様子(薬局入口付近)

——薬局外の取り組みについて教えてください。

学校薬剤師としてはAMR 対策に関するポスター掲示を担当する中学校にお願いし,定期的に貼り替えています。認知症カフェでは毎年,感染対策や手指消毒の正しい方法の学習会を企画しており,定期的に開催する「おくすり相談会」でも,ミニ講座を開いて情報発信をしています。今年は地域のイベントで「災害時の感染対策」というテーマで手指消毒に関するクイズラリーを計画しています。地域の方と直接交流する機会を通じてAMR の話題や感染対策について知ってもらい,少しでも関心や知識を深めてもらえたらと思います。



「自分にできそうなこと」の積み重ねが大事

——先生がこれからのAMR 活動について考えていることや読者の方へのメッセージをお願いします。

まずは,抗菌薬を処方された患者に対する電話などによるフォローアップを今後,さらに強化したいと考えています。ご自宅へ帰ってからの療養状況,副作用の発現や不適切な服用となっていないかを確認することで,より適正な治療につながればと思います。医師との連携では,現在近隣の小児科において多職種で定期的に話し合う機会をいただいていますが,こういった機会をもっと広げていけたら良いですね。こうした取り組みには自己研鑽も欠かせません。新たな資格へのチャレンジなどにも興味をもっています。
AMRの問題は,すぐに解決できるものではなく,長期間にわたる取り組みが必要であり,AMR 対策は普段の業務の延長線上にあると思っています。無理のない範囲で「できない理由」ではなく「自分にできそうなこと」を一つずつ積み重ねていくことが大事です。それは,AMR に関連する書籍を読む,勉強会に参加してみる,といった自分自身のチャレンジでもよいですし,啓発ポスターを貼る,パンフレットを待合室に置く,といった「放置型」の取り組みでもよいと思います。そして,いつもより少し意識して処方をみて,服薬指導を行うだけでも,いまより一歩進んでいるのではないでしょうか。
いまでこそ,薬局薬剤師としてのAMR 対策活動について学会などで講演をする機会をいただいていますが,もともと感染症対策に詳しかったというわけでも,積極的に取り組んでいた,というわけではなく「少し意識が変わった」,「積み重ね」の結果がこうなったというのが実情です。私の取り組みが同じような状況の先生のAMR 対策へ取り組むきっかけ・参考となれば嬉しく思います!



Tags :
掲載号
調剤と情報2024年9月号
在宅とセルフメディケーションに活かすために知っておきたい
ビタミンと疾患の関連


企画:桒原 晶子(大阪公立大学大学院 生活科学研究科食栄養学分野)


健康相談や服薬指導をする際に、ビタミンをはじめとした栄養素と疾患や薬との関係に関する知識が必要な場面があります。しかしながら大学で学んで以来、情報をアップデートする機会も少ないのが現状です。例えばわが国において、くる病が増加傾向にあるなど これまでのイメージとは異なってきています。また、抗てんかん薬長期服用患者による葉酸欠乏や、PPI長期服用患者におけるビタミンB12欠乏など、服薬フォローの観点からもビタミンに関する知識を整理しておきたいところです。
本特集では、世界で行われた研究の情報を含め、現在わかっているビタミンと疾患の関係について解説するとともに、服薬フォローやセルフメディケーション、生活習慣病予防に向けた健康指導などを行ううえで必要な知識や考え方について解説します。