J i M a g a z i n e

 くすりのプロファイル

一般名: セフテラム ピボキシル
所 属: Pharma警察 セフェム課 第3部隊
職 業: 警察官
説 明: 細菌の防御壁(細胞壁)を破壊する部隊の一つ。セフェム課は第1~4部隊まであり,その第3部隊に所属する。勤務歴35年のベテランであるが現役の潜入捜査官。
一般名: セフジトレン ピボキシル
所 属: Pharma警察 セフェム課 第3部隊
職 業: 警察官
説 明: 細菌の防御壁(細胞壁)を破壊する部隊の一つ。セフェム課は第1~4部隊まであり,その第3部隊に所属する。セフテラム ピボキシルより少し後輩の潜入捜査官。いぶし銀の活躍が光る。
一般名: セフカペン ピボキシル
所 属: Pharma警察 セフェム課 第3部隊
職 業: 警察官
説 明: 細菌の防御壁(細胞壁)を破壊する部隊の一つ。セフェム課は第1~4部隊まであり,その第3部隊に所属する。セフジトレン ピボキシルより3年後輩の潜入捜査官。セフェム課のなかで最も実績をあげてきた看板捜査官。

 構造式

 はじめに

前回,セフェム系抗菌薬のセフジニルのキレート形成について取り上げました。今回は,セフェム系抗菌薬のなかでピボキシル基をもつものについてみていこうと思います。セフェム系抗菌薬のなかでピボキシル基をもつものはプロドラッグであり,具体的には①セフテラム ピボキシル,②セフジトレン ピボキシル,③セフカペン ピボキシル ─があります(図1)。そしてこれらの薬物では,ピボキシル基によって重大な副作用を起こすことがあります。

図1 ピボキシブル基の位置

 ピボキシル基を有するセフェム系抗菌薬

ピボキシル基をもつセフェム系抗菌薬は,水溶性を示すカルボン酸部分をエステルにすることで経口吸収性を高めたプロドラッグです。吸収後,生体内でエステラーゼにより加水分解され,活性本体となります。グラム陽性菌からグラム陰性菌まで幅広い抗菌スペクトルを示し,小児用の製剤もあるので小児によく使われています。苦味が強いので小児用の製剤は甘味のあるコーティングでマスクしています。また,活性本体は光にやや不安定なため,錠剤には遮光性のある成分を配合し,細粒剤は遮光包装されています。光に不安定なのは「第1回 光線過敏症を起こす構造と遮光保存の薬物」で解説した『共役系に非共有電子対をもつ原子』がこれらの構造中からも読みとれますね。

 ピボキシル基による低カルニチン血症

ピボキシル基をもつ抗菌薬が生体内で加水分解されて活性本体となる際,ピボキシル基はホルムアルデヒドとピバル酸に分解されます。このピバル酸は,体内に存在するカルニチンと結合(カルニチン抱合)し,ピバロイルカルニチンとなり排泄されます(図2)。したがってピバル酸の排泄にカルニチンを消費するため,血中のカルニチン濃度が低下しますが,成人において大きな問題にはなりません。一方で小児(特に乳幼児)においては,低血糖症状によるけいれんや意識消失を引き起こすことがあるため注意が必要です。この副作用の報告が最も多いのは1歳の小児で,服用から発症までの期間は長期投与に限らず服用翌日に発症した報告もあります。また,妊婦の服用によって新生児に低カルニチン血症が認められた報告もあります。

図2 ピバル酸の消失経路

低カルニチン血症と低血糖症状はどう関係するのでしょうか。カルニチンは食物からの摂取やアミノ酸から生合成される化合物です。ミトコンドリア内で行われる脂肪酸のβ酸化はATP産生において大きな役割を担っていますが,脂肪酸がアシルCoAとなりミトコンドリアに入る際にカルニチンが必須です(図3)。そのため,カルニチンが欠乏するとアシルCoAがミトコンドリアに入ることができません。つまりβ酸化ができなくなり,低血糖症状を引き起こします。

図3 脂肪酸のβ酸化

カルニチンは,食物でいうと赤身の肉類や乳製品に多く含まれています。乳幼児の場合,肉類を食べることが少ないため,血中カルニチン濃度がもともと低く,低カルニチン血症を起こしやすいといえます。

 その他のピボキシル基を有する薬物と類似構造を有する薬物

ピボキシル基を導入したプロドラッグは,セフェム系抗菌薬以外にもあります。ペネム系抗菌薬のテビペネム ピボキシルもピボキシル基を有するため,やはり乳幼児の低カルニチン血症に注意が必要です(図4)

図4 テビペネム ピボキシルの構造式

また,ピボキシル基と類似したプロキセチルで化学修飾しているセフポドキシム プロキセチルは,ピボキシル基を有する薬物と異なり,低カルニチン血症に伴う低血糖の報告がなく添付文書などにも注意喚起の記述はありません(図5)。また,ピボキシル基を有するセフェム系抗菌薬と比較して苦味が少ないため,ドライシロップ製剤も用いられています。。

図5 セフポドキシム プロキセチルの構造式
Tags :
著:黒木 央

大阪薬科大学卒。大手国家試験予備校で10年間講師として勤務後,調剤薬局において内定者教育や薬剤師教育に携わる。現在は,国家試験と現場の橋渡しを担うべく「PharmAssist Lab(ファーマシスト ラボ)」を設立し,薬学生教育,薬剤師学術研修,MR研修などを中心に活動中。

イラスト:角野 ふち

看護師として勤務しながらイラストレーターとしても活動し,メディカルイラストを中心に雑誌や書籍などの制作を行う。また,解剖生理学×イラストをコンセプトに臓物をポップに描く,見て学ぶコンテンツ『からだずかん』を手がけている。好きなくすりは,アセトアミノフェン。